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第八話

 修練場の中央ではセイロンとサクが対峙している。他のものは壁にそって二人を見守っている。

「じゃあ行くぞ」

セイロンが棒を振り上げた。サクが受ける。二人は舞う様に稽古を始めた。


(久しぶりの打ち合いだけど・・・体は動く)

セイロンが居なくなってからも続けた稽古の成果が出ていると思った。二人の間に離れていた時が無かったかのように、息がぴったりと合っている。


 15分ほど打ち合いをして、二人が互いの棒を下ろした。

「覚えていたようだな」

「はい」

セイロンは稽古の結果に満足気だ。


「まさか演武をこなせるなんて・・・」

そう声を上げたのがシェンメイだった。

「シェンメイ陛下、演武とは?」

「我が皇族に伝わる棒術の一連の動きとでも言いましょうか・・・セイロン、貴方は本当に弟子を取ったのね」

「だから、そう言ってるじゃねぇえか」

「その意味も分かっているわよね」

「ああ」

「そう。では、サクラとやら、貴女は今日からセイロンの養女です。皇族の一員とみなします」

その言葉にすぐに反応できた者はいなかった。一呼吸あいて、クリストフ王国一行の悲鳴が修練場に響いた。


 混乱した一行をまとめたのは、またもシェンメイだった。一行を修練場から引き揚げさせ、一室に押し込むと、サクを皇族とする理由を語り出した。

「そもそも、スーロン皇国の棒術は皇族のみに伝わる技。弟子も自身の子のみです。弟子を取る、棒術を継承させるということは子と認めたのも当然なのです」

「し、師匠は最初からそのつもりで私に稽古を?」

「いや、最初はさわりだけ教えりゃ良いかと思ってたんだが、サクの筋が良くてなあ。思わず全て伝授していたって訳だ。まあ、最後の方は弟子を取る覚悟はできていたよ」

暢気に笑うセイロン。正反対の深刻そうな表情でサクが言った。

「陛下、私は今でこそサクラ・アーシュラという名をユージェニー様より賜っていますが、元は遊郭の用心棒で、孤児です。そんなものを皇族の一員にするわけにはいかないのでは?」

「生まれは関係ありません。スーロン皇国の棒術を使える。それだけが事実なのです」

シェンメイは言い切った。その眼には何の迷いもなかった。





拝啓 ユージェニー様


 手紙を書くのが遅くなって申し訳ございません。あまりに忙しい毎日で筆を執るのが億劫になっていました。

 あの、皇族の一員宣言の後、私を残して帰られたユージェニー様から無事にクリストフ王国に到着したという手紙を一週間後には受け取っていました。

 その頃、私は皇族の一員となる儀式や家臣、国民へのお披露目など目まぐるしい忙しさでした。大きな反発があるかと思っていましたが「セイロン様なら仕方ない」という雰囲気で受け入れられた気がします。師匠って人気があるみたいです。シェンメイ陛下の息子である皇太子セイエン様とも会いました。同い年の為か私に気安くして下さり、時間があれば二人で稽古をしています。

 スーロン皇国流の礼儀作法も学びました。ハロルドからの特訓で身についていた礼儀がここで活かされました。ハロルドには頭が上がりません。

 遊郭のみんなに私の手紙を届けて下さってありがとうございました。みんな驚いていたことだと思います。これからは簡単にみんなに会えないと思うと少し寂しいです。


 私をクリストフ王国へ留学させる話は進んでいます。再びユージェニー様に会える日を楽しみにしています。留学したら、また二人で街を散策しましょう。その時、百花に寄れたら嬉しいです。


 では、また手紙を書きます。  サクラ・セイロン・アーシュラ・スーロン


「元気そうだな」

ユージェニーはサクからの手紙を読んでいた。皇族となったサクをクリストフ王国に連れて帰ってくるわけにもいかず、置いてきてしまったことが心残りだったが、どうにか毎日をこなしているらしい。

「留学の話も進んでいるし」

そう、サクはクリストフ王国に留学してくる。そうすればまた会える。

「楽しみだな」

窓の外には爽やかな風が吹いていた。

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