第七話
船旅は順調に終わった。いや、ハロルドが船酔いになった以外は順調だった。
「帰りも船・・・なんですよね」
「うむ。我が国は海の向こうだからな」
「それにしても、立派な港ね~」
「本当に、よく整備されていますね」
「スーロン皇国は建築が得意ですから」
港を見ながら話していると、スーロン皇国の出迎えがやってきた。
「ユージェニー王女とお見受けいたします。私、案内役を務めさせていただくジェンリャと申します」
「うむ。出迎えご苦労。私がユージェニーである。こちらは、今回の外交を取り仕切るアーノルド。それに、執事のハロルドとリカルド。護衛のサクラだ」
「ようこそスーロン皇国へいらっしゃいました・・・む」
「どうかされたか?」
「いや、護衛の方の・・・」
「私ですか?」
「武器なのですが」
「これ」
「はい。我が国の皇族の方々が使う棒とよく似てらっしゃる」
「サクは棒術の達人なんだ」
無邪気に紹介するユージェニー。
「左様でございますか。ただ、棒術は我が国の皇族の目印と言っても過言ではありません。皇族の方々の目に触れぬ方がよろしいかと」
「分かりました。布か何かで覆っていきます」
「よろしくお願いいたします」
ジェンリャの助言通り、サクは布で棒を覆って持つことにした。
「それでは、城へご案内いたします」
「スーロン皇国の城は我が国と趣が違いますね」
「そうですね」
ユージェニーとアーノルドが謁見中、控えの間に通され寛ぐサクと執事たち。
「お茶やお茶菓子も違うわね」
「これ美味しいですね。ユージェニー様も食べるかな」
そんな話をしていると外が騒がしくなってきた。
「クリストフ王国の方々が中に・・・」
「だから知り合いだってーの」
そんな声が聞こえてくる。思わず顔を見合わせる三人。
バン!!
「よお、久しぶりだな!!」
そう言って入ってきたのは長身の逞しい体つきをした男性だった。
またも顔を見合わせる三人。
「あの、どなたでしょうか」
代表して尋ねるハロルド。
「そりゃ無いぜ。あんなに長い間、一緒に旅したろう。と言っても、一年か。な、サク」
「私!?」
驚くサク。男は親しげに自分をサクと呼んだ。男が近づいてくる。
「まだ分からんのか・・・と」
男がサクの頭をポンポンと叩いた。・・・その感触に、覚えがあった。サクの頭を気軽に叩くのは、髭面で大きな・・・。
「し、師匠!?」
棒術をお遊びのように教えてくれた師匠であった。
「やっと分かったか」
「だって、髭が・・・何故、師匠が此処に!?」
「そりゃ、自分の国に帰ってきたからさ」
「セイロン、なんの騒ぎです」
凛とした声が通った。扉の外にきらびやかな衣装を纏った女性とユージェニーとアーノルドが居た。
「おお、姉上。なに、知り合いに挨拶しに来ただけだ」
「知り合い・・・?」
「姉上にも紹介するぜ。俺の弟子のサクラだ」
「弟子・・・貴方、弟子を取っていたのですか!?」
「言ってなかったか」
「聞いていません。ああもう、少し待って」
そう言って、女性がユージェニーを振り返る。
「ユージェニー様、こんな形の紹介になってしまい申し訳ありません。弟で将軍を務めるセイロンです。セイロン、こちらクリストフ王国の第三王女ユージェニー様」
「初めまして。ユージェニーと申します。セイロン様は私の大切な護衛と所縁があるのですか」
「セイロンと申す。サクは俺の弟子だ」
何故か火花を散らすユージェニーとセイロン。サクは混乱している。
「茶席をもうけましょう。誰か、準備して」
取り仕切っていた女性はスーロン皇国の女帝シェンメイであった。
「弟は世界を見て回るのだと国を飛び出して・・・三年前に帰ってきたのです」
「その旅の途中で、サクの移動遊郭の護衛をしてたんだよ」
「それで弟子を取ったと・・・」
「そうそう」
「そんな簡単に貴方、弟子を取るという事が分かっているの?」
「あの」
ユージェニーが声を上げる。
「陛下は先ほどから弟子を取ったことを気に掛けていらっしゃる。何か問題があるのですか」
「ええ。サクラとやら、貴女は我が国の棒術をどれほど使えるのかしら」
「え?」
「そんなの見た方が早いだろ。サク、久々に稽古をつけてやる。修練場に行こう」
セイロンが立ち上がった。シェンメイの方を伺う一同。しょうがないと言う様に、シェンメイが首を縦に振った。