第五話
カーラと戦える。その事実が柄にもなくサクを興奮させていた。
「両者前へ」
会場の中央へと歩みを進める。心臓がドキドキする。
「貴方と戦うことになると思ってた」
「・・・お手合わせ、お願いいたします」
「両者、礼!・・・始め!!」
二人の戦いが始まった。
「こちらから行きます」
第一試合とは異なりカーラから攻めてくる。しっかりと反応するサク。お互いの武器が、剣戟が鳴り響く。
薙ぐ。突く。一旦距離を置く。また交差する。会場は二人の試合に見入っている。
また距離が開いた時、サクが問いかける。
「何故、私の死角を攻めないのですか?」
「騎士として、私の信条に反するからだ」
「攻めていただいて構いませんよ。死角からの攻撃に反応できるよう、散々、稽古しましたから」
「いや、遠慮しよう」
話は終わったとばかりに、また、カーラが攻めてきた。受けるサク。両者の力は拮抗していた。
「カーラ様と互角に戦えるなんて。ユージェニー様は本当に見る目がありますね」
「そうだろう」
「本当、サクラちゃんがこんなに戦えるなんて吃驚よ」
観客席ではユージェニーが執事たちと試合を見守っていた。
(サクラ、勝ってくれ。私は望みを叶えたい)
戦いは続く。カーラが攻め、サクが受け、サクが攻め、カーラが受ける。二人の戦いは永遠に続くのかと思われたその時、太陽の光で一瞬、目を細めたカーラ。サクはその隙を見逃さなかった。
「突きぃ!!」
カーラの鳩尾にサクの突きが決まった。よろめくカーラ。何とか剣は握ったままだったが・・・。
「私の負けです」
会場はこれ以上ない歓声に包まれたのだった。
興奮冷めやらぬ中、王の前にユージェニー、そしてサクが並ぶ。
「ユージェニー、お前の戦士の戦いは見事であった」
「ありがとうございます」
「何でも望みをかなえると言った。お前の望みを言うが良い」
「はい。お父様」
ユージェニーが顔を上げた。
「私が国外に行くことをお許しください」
「む」
「具体的には、来月のスーロン皇国との外交に同行したいのです。私は見聞を広めたい」
「良かろう。ユージェニーの望みを叶える」
「ありがとうございます」
こうして王全試合は幕を閉じたのであった。
「流石、私が見込んだだけのことはあった。サクラ、褒美は期待していてよいぞ」
「まさか、カーラ様に勝つなんて・・・」
「本当、サクラちゃん。自分がやった事、分かっている?」
「え?」
「騎士団一と言われている騎士に勝っちゃったのよ?ただの用心棒だなんてもう言えないわよ」
「そんなこと言われても・・・」
困るサクを見かねたのか、ユージェニーが
「うむ。今日はもう疲れただろう。休め」
サクは与えられている部屋に下がったのであった。
後日、サクはお忍びのユージェニー達とある場所へ来ていた。
「ユージェニー様、ここは?」
「うむ。サクラ、この建物をそなたに与える」
「え?」
「女将の具合が悪いのだろう。旅はきつかろうて。ここを娼館にするとよいぞ。無論、褒賞金も与える」
「あ、ありがとうございます」
「まだまだ褒美はあるぞ。一旦城に戻ろう」
城に戻った一行は部屋に戻るのではなく、ある庭園へ赴いた。
「ここは・・・?」
「うむ。私が一番好きな庭園だ」
「美しいですね」
「うむ。ここで、そなたに褒美を与える」
そう言って、サクに向き直るユージェニー。
「おほん。サクラ、そなたに氏を与える。サクラ・アーシュラ。今日から其方はサクラ・アーシュラだ」
「・・・サクラ・アーシュラ」
「うむ。異国の言葉で、ものすごく強い神の名からとったぞ。其方にふさわしい」
「・・・」
「あと、これはお願いなのだが」
「はい?」
「私と友達になってくれ」
手を差し出すユージェニー。
「あと、遊郭のみんなと同じようにサクと呼んで良いだろうか」
「・・・もちろん。喜んで」
ユージェニーの手を取るサク。顔を上げて満面の笑みを浮かべるユージェニー。
二人の物語はここから始まる。