第四話
本日晴天。王前試合にふさわしい天気と言ってよいだろう。戦う覚悟は決めていたが、サクは柄にもなく緊張していた。
「何。気軽に行け。サクラなら大丈夫だ」
何を根拠にこの王女様は言っているのか。あの酔っぱらいを倒した姿だけで言っているなら買い被りだ。この1週間。礼儀作法だけでなく、稽古を着けて貰った昔を思い出して訓練もしていたが、王国の騎士や高額で雇われた傭兵に勝てる気はしない。
そんな中、第一試合、第一王子の騎士カーラと第二王子の騎士との試合が始まった。
「サクラ、見るか。それとも休んでいるか」
「いえ、見ます」
カーラの試合を見ない手はない。互いにお辞儀をした後試合は始まった。
カーラに突っ込んで行く第二王子の騎士。それを受け流すカーラ。まだ剣戟は聞こえない。
(すごい・・・)
カーラには無駄な動きがなかった。相手の騎士もそれなりの腕なのだろうが、カーラよりは下だ。
「うむ。これは勝負あったな」
ユージェニーが言った瞬間、カーラが相手の剣を弾き飛ばした。勢いあまって倒れた相手の首筋に剣を突き付ける。
「そこまで!」
歓声が上がった。カーラの見事な勝利だった。
「次はサクラだな」
「はい」
サクは興奮していた。あのカーラと戦いたい。それには最初の試合、第三王子の傭兵に勝たなければならない。
「行ってきてくれ。私は此処で見ているから」
「・・・行って参ります」
サクは会場へと入って行った。途中でカーラとすれ違った。
「楽しみにしているぞ」
すれ違いざまに囁かれた。
サクの相手は2メートルあるかという大男だった。
「は、女かよ。それに、そんな棒切れで何ができるってんだ」
「・・・」
大きいが、恐れはしない。大きい酔っぱらいだって居た。
「互いに礼」
審判の声が響く。大男のおざなりな礼に、サクはこの1週間で身に着けた美しい礼を返した。
「始め!!」
大男が突っ込んできた。
(そんなに速くない・・・)
剣を振り下ろしてくるが避けられるスピードだった。大男は連続して剣を振るってくる。それを避け続けるサク。まるで第一試合の様だった。
「ちょこまかと・・・!!」
大男の焦り、怒りが伝わってくる。
(ここだ!)
大男の間合いに入り鳩尾を突く。
「グッ」
呻いた大男に連続して攻撃していく。大男はなんとか剣で防いでいるが、誰の目にもサクが優勢だった。
「いいぞ!サクラ」
ユージェニーの声が響く。その瞬間
カーン!!
サクの棒が大男の剣を弾き飛ばした。そして、棒の先端を大男の眼前に突きつける。
「そこまで!」
審判が叫ぶ。またも会場が歓声に沸いた。
「カーラ様に続いてまた女性の勝ちだ」
「彼女は誰だ?見ない顔だが」
「第三王女様が雇った者だそうだ」
(勝った・・・)
サクは呆然としていた。まさか勝てると思ってなかったのだ。だが、大男の動きは思ったより遅く、試合が始まった時には勝てる気がしていたのだ。
「サクラー」
上からユージェニーが手を振る。それに会釈をしてサクは会場から引き揚げて行った。
「やっぱり私が見込んだとおりだったな」
「すばらしい動きでした」
「本当。凄かったわよ」
ユージェニー、ハロルド、リカルドが口々に褒めたたえる。
「いや、相手が弱かったです。大きいからか思ったよりも遅かった」
「・・・大男にしては速かったと思いますよ」
とはハロルドの言。だが、遅かったものは遅かったのだ。
「次はカーラだな」
「はい」
「勝てるか」
「・・・分かりません。でも戦いたいです」
「うむ。その意気や吉という奴だな。戦ってきてくれ。私のために」
試合は1時間後であった。