幼馴染みが聖女になったので、勇者に寝取られる可能性大です
近頃、なろうで『寝取られ』ものを良く見掛けるので、挑戦してみました。
王都で、勇者が召喚されたらしい。
魔王が居もしないのに暇なことやってんな、としかその時の俺は思わなかった。
勇者が現れると、自動的に『聖女』や『聖騎士』になる者が出てくるのは王国の慣例だ。
何でも勇者のお供として、必要らしい。
そんな訳で、王国中の少年少女の職業再チェックが行われた。
俺の幼馴染みのエリルが『聖女』だった。
以前に行った職業チェックでは『家事手伝い』だったくせに、エライ出世だ。
ちなみに俺の職業は前と同じ『商人』だった。
実家の小間物屋を継ぐつもりだったから、別に良いけど。
エリルと俺は子供の頃からの付き合いで、村でも熱々のカップルとして有名だった。
「大人になったら結婚しようね」がエリルの口癖。
16才になったら村では大人。
俺とエリルは現在15才。来年になったら結婚する予定だったのに。
「ごめんね、ステイ。聖女になったから、私、王都に行かなくちゃならないの」
「‥‥‥‥」
「大丈夫。テキトーに勇者との仕事をパパッと終わらせて帰ってくるから、そしたら結婚しよう」
「はぁ~」
「なに溜息吐いてんのよ」
「いや、エリルが勇者に寝取られるかと思うと、どうにも憂鬱で」
「失礼ね! なんで寝取られること前提なのよ」
「聖女になって勇者に会いに行った幼馴染みが、勇者のステータスと格好良さに惑わされて寝取られるのは、由緒正しい王国の仕来りなんだよ。俺は『王国歴代の勇者と聖女の熱い夜(あんなチンケな幼馴染みはポイよ!)』って本を読んだから、知ってるんだ」
「いかがわしい本の内容を鵜呑みにしてんじゃないわよ!」
「だったらエリルは勇者が超絶美男子でお金持ちで、結婚したら将来左団扇で暮らせること確定でも、絶対心は動かないと俺に誓えるのか?」
「ウッ‥‥それは‥‥」
「ほ~ら見ろ、動揺してるじゃないか」
「勝ち誇ってんじゃ無いわよ! イケメンに会ったら、多少ドキッとするくらいしょうが無いでしょ。女心は繊細なのよ。『エリルに相応しい男は俺だけだ! 勇者なんかにエリルは渡さない!』ぐらい言いなさいよ!」
「並の男相手ならともかく、ライバルが勇者じゃな~。勇者の『寝取りスキル』は半端ないって聞くし」
「『寝取り』『寝取り』って、うるさいわね。だいたいアンタの考え方はオカシイわ。私とアンタは、まだ、せっ‥‥せっ‥‥性交渉をしてないでしょ」
エリルの顔が恥ずかしさで赤くなる。赤面したエリルも可愛い。
「それなのに、別の男と引っ付いたからって、『寝取られた』って表現するのは間違ってるわ。せいぜい『フラれた』くらいよ」
「でも、俺たちは結婚する約束をしてるんだよ」
「貴族様のような家同士の契約じゃあるまいし、庶民間の結婚の約束なんて紙風船みたいなものよ」
「軽すぎる! せめて水風船にして!」
「身体の関係も無い幼馴染みが勇者とくっ付いたからと言って、『寝取られた』って責めるのはみっともないわよ」
「納得してしまう自分が悲しい」
「ねぇ、そんなに寝取られるかも!? って思ってるんだったら、ここで私とせっ‥‥せっ‥‥性交渉をしておくべきよ。そしたら、勇者に乗り換えた私を『売女!』『雌ブタ!』『裏切り者!』『信じてたのに!』って思う存分罵れるわよ」
「いや、俺は故郷で1人寂しく落ち込むつもりなんで‥‥」
「ダメよステイ。本当に私を寝取られたいんだったら、ここで私とせっ‥‥せっ‥‥性交渉をしておきなさい!」
「ちょ、エリル近い、近い!」
「後ずさりすんじゃ無いわよ! だいたい、なんでステイは結婚の約束までしている私に手を出さないの!?」
「まさかの逆ギレ!? いや、俺は結婚するまではエリルとピュアな関係でいたいんだ!」
「初心なネンネみたいなセリフ言ってんじゃないわよ! そんなヘタレだから『もしかして寝取られるかも~』なんて余計な心配しちゃうのよ! ここは思い切って、私の胸に飛び込んできなさい!」
「エリルが男前すぎる!」
「さぁ、ステイ、寝室に行くわよ!」
「あ~れ~」
エリルに美味しく食べられてしまいました。エリルは『聖女』じゃなくて『性女』だった。
翌日、スッキリした顔で王都に旅立ったエリルは、勇者と王女様をサクッとくっつけて、仲人のご褒美に大金を貰ってアッサリ村に帰ってきた。
そして俺と結婚して、村1番の仲良し夫婦になった。
昼間は聖女バージョンのエリルだが、夜になると性女バージョンに変身するので、俺は日暮れ時にはいつも戦々恐々としている。
ちなみに俺が愛読していた『王国歴代の勇者と聖女の熱い夜(あんなチンケな幼馴染みはポイよ!)』であるが、改めて良く読んでみると、最後のページに[この本はフィクションです。読者が内容を真実だと誤解しても筆者は責任を持ちません]と書かれていた。