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記憶喪失中のキューを含め、私は都合五人の子供達の保護者を務めている。だがそんな責任重大な身でも、一人前に内緒事は存在した。
「し、師匠!!?」「ん?……おお。お前、コンか」
例えば、恩師との偶然の再会などだ。
その日は車検のため、馴染みの自動車販売店に愛車を預けるため外出していた。その帰路に普段使いとは別の、やや郊外寄りのスーパーマーケットへ足を運んだ。必要な食料を籠に入れ、レジへ並び、そこではたと気付いた次第。
私のすぐ前に立つ槍術の師、煌老翁は昔より幾分剥げた虎毛の上から顎を撫でる。
「以前妻から息子を構ってくれる虎柄の老人の話を聞き、若しやと思っていましたが……矢張りあなたでしたか、師匠」
「如何にも。それにロウなら今儂の家におるぞ。と、そろそろ順番だ」
師の籠には老人らしく、大豆食品と野菜類が放り込まれていた。その中で唯一の贅沢品、焼酎のボトルを掴む。
「コン?」
「今日は私が奢りますよ。いえ、奢らせて下さい。今日の再会の記念に」
「やれやれ。図体ばかりでなく、態度も随分大きくなったの……分かった、今日の所は御馳走になろう」
肩を竦め、ズボンのポケットから取り出す古びた革財布。そうして中からスーパーのポイントカードと紙幣、小銭を数え始めた。猫背気味なその姿は遠き昔、私と山で修行に明け暮れていた頃の壮健さとは程遠い。しかし重い籠にも関わらず、足運びには一分の危うさも無かった。
「ところで師匠、この後お時間はありますか?」
「当然有り余っておるわ。何せ年金暮らしの独り者じゃからな」
快い返答を聞き、私は暫し付き合って欲しい旨を告げた。