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「はぁ?いる訳無いだろ、んな動物」


 五限目、理事長室にて。そう断言した中等部数学教師、アダム・ベーレンスは嘆息し、デスクの右側に凭れた。手には購買のホットドック。人間嫌いの家族にとって、ここは学園内の貴重なランチスペースだ。

「ん、そう?僕はいる方に一票だね、その鵺」

 同じく家族のジョシュアも人目が無いため、窓辺に座って脚をぶらぶら。こちらは早くに済ませたのか、紙パックのコーヒー牛乳を啜っていた。

「ヌエ?」

「“白の星”の怪談話に出て来る妖怪だよ。尤も本家は頭が猿で胴は狸、虎の手足に蛇の尾だけどね。でも正体不明の生物ってのは一緒だし、そう呼んでも強ち間違い無いでしょ?」

「相変わらず無駄に雑学知識豊富だな、お前」

「ああ、因みに鵺は夜行性なんだってさ。道端で出会った人間を頭からバリバリ喰い殺すらしいよ」

「……チッ」

 平静を装うも、着席した私へ机越しに震動が伝わってくる。大人になっても、相変わらずアダムはこの手の話が怖いらしい。と、コンコン。控えめなノックが響く。

「あの、理事長先生。入っても宜しいですか?」

「勿論だよ、桜。丁度アダムとジョシュアも一緒だ。ゆっくりしていきなさい」

「あ、はい」キィッ。

 入室したのは、一日で一番忙しい昼休みを終えた中等部保健医、木咲 桜だ。律儀に一礼した彼女は、袋入りのあんぱんと牛乳瓶を携え私の左側へ。

「あら、今日は珍しく全員集合なのね」

「ああ。少し待っていてくれ、椅子を取って来よう」

 理事長室にある腰掛けは、私が今座っている一つきりだ。男子達はともかく、娘同然の彼女を立たせたままと言うのは忍びない。

「いえ、お気遣い無く。今日は座り仕事ばかりだったので、しばらく立っていたい気分なんです」

「御苦労様だな、桜。毎日毎日餓鬼共の世話なんざ、大丈夫なのか?」

 生来の対人恐怖症を案じての発言に、心配してくれてありがとう、アダム、女家族は微笑む。

「私なら平気よ。彼是二年目だし、大分慣れたから」

 細身に白衣を纏った家族はそう言い、封を開けたパンをかぷり。

「(もぐもぐ)……それにあれ位の年頃の方が、大人達より付き合い易いわ」

「ケッ。どうやらお前の所の客と、俺が教える糞餓鬼共は誰一人被っていないらしいな」

「でも以前ダイアン君が来たわよ。樹に手を切られて」

 途端ハッ!嘲りの表情を浮かべる“蒼”。

「間抜けな奴め。どうせ性懲りも無く登って、奴等の機嫌を損ねでもしたんだろ。いい気味だ」

「アダム!?済みません、小父様。私の管理不行届きで」

「いや、一応木登りは校則違反だ。破ったあの子が悪いよ」

「でも」

 怪我の具合を思い出したのだろう。心優しい家族は辛そうに目を伏せた。




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