16
弁解を入れた所でコンコン、唯一の出入口がノックされた。筆記係が立ち上がり、一分程で引き返す。そうして外の警官に手渡されたFAX用紙を上司へ差し出した。
「こいつは……凄いな、見て下さいよ先生。あなたの所の弁護士先生は実に優秀だ!」
やや興奮気味にテーブルへ広げたのは、私の昨日一日の詳細なアリバイ表だ。御丁寧にも二枚目があり、そちらは学園の地図に所狭しと私の移動経路と目撃証言、目撃者名まで書き込まれていた。
「お見事としか言い表せません。こいつは一分の隙も無い、完全無欠の無罪証拠だ。しかしこの短時間で、よくもここまで調べられましたね」
「全くです。ビ・ジェイ君には後で何かお礼をしないと」
ふと目をやった先に息子の名を見つけ、反射的に頬が緩む。同時に心配を掛けた事に対する罪悪感が湧いた。
「さて、『改めて』無罪放免となった事だし、先程からロビーで息子さんがお待ちだそうですよ。長時間御疲れ様でした。大分遅くなりましたし、そろそろお帰り下さい」
「えっ、あの子が?」
ますます申し訳なさを感じつつも、私にはまだ訊きたい事があった。
「そうですか……ええと、では手短にもう一つだけ。ジケイド君が又も漏らしてここへ来た件について」
「しかも今度は脱糞までしてね」
「生理現象ですからある程度は多目に見ましょうよ、刑事殿。―――警部、あなたは先程『改めて』と仰いましたね?つまり私は最初から疑われていなかった。そのお考えの根拠を是非共お伺いしたい」
すると捜査官達は目線で互いに合図し、示し合わせるように小さく頷いた。
「そうですね。遅くまでお付き合い頂きましたし、どうせ明日のニュースに載る事です。理事長先生には特別にオフレコでお教えしましょう」
警部はテーブルに肘を突き、両拳を組んで声を潜める。
「先生―――“翡翠蒐集家”、って奴は御存知ですか?」「………!!?え、ええ……名前だけは」
校外の合同教員会議で噂には聞いていた。十代前半の少年ばかり狙う残虐な殺人者がいるらしい、と。
「あなたが今日発見したのは、奴の九件目の犯行だったのです」
「それは確定なのですか?模倣犯の可能性は」
「いえ。条件の黒髪緑目はともかく、例の死因には報道規制が掛かっています。真似はまず不可能でしょう」
確かにあんな非効率的、且つ苦痛ばかりが多い殺害方法だ。張本人でなければ万が一にも選ばないだろう。
「しかも奴さん、厄介な事に同じ街で必ず『二人』殺すらしいんですよ。つまり」
「もう一件、このラブレで殺人が……」
やれやれ。予想以上にとんでもない事態になってしまったよ、メアリー。君がいればさぞや面白がってくれただろうに、残念だ。




