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「ほら、やっぱデキてるんじゃねえか」「その五月蝿い口を塞げ、アダム!あー、汚らわしい!!」


 ダンダンッ!怒鳴りながら激しく地団駄を踏む少年。

「どうしたんだい、ジョシュア?君が怒るなんて珍しいね」

「俺はデキている方に一票だ。桜はどうする?」

「もう、アダムってば止めてあげなさいよ。―――さ、小父様」

「ありがとう」

 そっと歩み寄っていた桜に上着を預け、私専用の革張りソファに沈み込むように腰掛ける。

「今夜はダイアン君とディナーだったんですよね。どうでしたか?」

「ああ。久々に良い時間を過ごせたよ」

 お互いぎこちないながら、少しは本音を言い合えた気がする。

 アームチェアに長い脚を組みながら、アダムは歪めた唇を開く。

「なあオッサン。ダイアンの奴、レヴィアタと仲良いよな?」ニヤニヤ。「つーか、あいつ等と他のクラス連中が絡んでるの、見た事無えし」

「黙れ、この野生児!!キューならまだしも、何で選りに選ってあんな獣臭いのとお兄ちゃんが付き合うんだよ!!?」

「………は?」

 あの子がレヴィアタ君と?そんな、メアリー達の大好物じゃあるまいに。大体、二人はまだ中等部で、肉体的精神的にも未熟。ただレヴィアタ君の方は年齢不相応に大人びているので、そこにやんちゃな息子が惹かれるのも分かる気が、

「小父様、本気になさらないで下さいね。ほら、アダムもからかわないで」

「けど怪我した時も二人で来たんだろ、手に手を取り合ってさ」

 はぁっ!!?

「あれは出血が多かったせいだと……でもまあ、傍目にはそうね。ダイアン君、彼に力一杯しがみ付いて堪えていたから」

 し、しがみ……ハッ!そう言えば、今夜の発言も裏読みすれば……わ、私は一体、何て恐ろしい事を考えているんだ!!?

「ほら、やっぱりデキてるんじゃねえか」

「だから小父様の前で滅多な事を言わないで」

「即刻撤回しろ、この馬鹿アダム!!」

「ま、まあまあ二人共。もう夜も遅いんだ、取り敢えず落ち着きなさい」

 “蒼”へ跳び掛かろうとする“紫”をどうにか宥め、専用の寝椅子へと腰掛けさせる。このホールに□状に配置されたソファは、有り余るスペースの有効活用のため、各自の選んだオーダーメイドだ。

「そう言えば先程、玄関の前でビ・ジェイ君に会ったよ」

 職場と同じ革地を撫でながら言うと、弁護士さんが、ですか?ふかふかのカウチにちょこんと掛けた桜が首を傾げる。

「でもあの人、今日はこちらへ上がって来ていませんよ?」

「今は特に俺達関係の手続きも無い筈だしな。大体あのキッチリ屋なら、必ず事前にオッサンへ一報入れるだろ」

 反対の脚へ組み替えながらのアダムの発言に、彼以外の全員が頷く。

「って言ってもあの人、僕の目が使えないからなあ。正直何考えてるか分からなくて苦手だよ」

 寝椅子に横向きで凭れながらジョシュアが呟き、マンションへは入って来ていたの?首を軽く捻った。

「いや、外で茂みを覗いていた。ああ、そう言えばチラッとミト君の事を口にしていたな」

「は?あんな辺鄙な所で息子捜しかよ。いい歳してかくれんぼでもやってんのか?」

「でもミトさんって確か、私より四つか五つ歳下の筈よね。少し考え難いわ」

「傍目には完全に不審者だよね。夜中にあんな暗いトコをウロウロなんて、職質されないといいけど。んー!」

 小さな背で伸び。

「頭は滅法切れるけど彼女、妙な所で世間知らずだからなあ」

 一同揃って同意した瞬間、ボーン、ボーン……奥の置時計が午後十時を告げる。その音を合図に私は暇を告げ、三人の子等も各々就寝準備を始めた。




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