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第二章 しがらみ 1

ここから第二章です。

割と主人公が面倒なことになるので、ちゃちゃっと終わらせられればと思っています。

 簡易な拘束を受けて、俺は騎士団の馬車に乗せられた。

 別の馬車にはティアナも乗っている。

 聞こえてくる声から判断するかぎり、ルーカスに話をしているようだ。


「ですから、レオさんは私を守ってくれたんです!」

「あなたは優しい方だ。レオナルドを庇っているんですね。外見だけじゃなく、内面も美しいようだ。けれど、レオナルドのしたことは許されることじゃない」

「いえ、ですから!」


 自己完結型のルーカスには何を言っても無駄だ。

 自分がこうと思ったら、誰に何を言われても考えを変えたりしない。


 頑固といえば聞こえはいいが、その実、周りの言うことに耳を貸さない超絶自己中野郎だ。

 昔からこいつには苦労させられた。

 イケメンで何でもできたから、その欠点が矯正されることもなかったようだ。


「昔より悪化してる気もするけど」


 剣術において比類ない才能を持つルーカスは、自信家だ。とても。

 自分が間違っていると思うことがほとんどないし、他人から間違いを指摘されることもない。


 ルークライン家も剣術の才能さえあれば、それ以外の駄目な部分に目を向けることがないから、ルーカスの性格が問題視されることもなかったんだろう。


「可哀想な奴だ」


 これから先、強くなれば強くなるほどルーカスに指図する奴はいなくなってくる。

 そうなれば、いつか致命的なミスをルーカスはしでかす。

 そのときになって気づいても遅いのだが、もはや手遅れだろうな。


 子供の頃にもっと視野の広さを身に着けさせるべきだった。

 武芸に固執する騎士国、その中で剣術に執着してきたルークライン家。

 その象徴がルーカスなのかもしれない。


「まぁ、才能があるだけマシか」


 これで才能がなければ悲惨な結果になっていただろう。

 おそらく勘違い貴族の息子が出来上がっていた。


 今でも相当痛い奴であることに変わりはないが。


「ルーカスと一緒にいると疲れないか?」

「答える必要を感じません」


 同じ馬車に乗っているミリアムに話を振ると、そんな冷たい答えが返ってきた。

 悲しいなぁ。


「怒ってるのか? 黙って出て行ったこと」

「怒っていません」

「怒ってるじゃないか」


 少しだけ声のトーンが下がった。

 長いこと会っていなくても兄妹だ。

 怒っているかどうかくらいはわかる。


「悪かったよ。いろいろあったんだ」

「謝ることではないかと。兄さまの人生です。兄さまは好きなように生きればいいと思います」

「それでもお前には相談するべきだった。家族だからな」

「……」


 俺の言葉にミリアムは答えない。

 視線も合わせてくれないところを見ると、相当だな。


 そりゃあ当然か。

 黙って出て行ったくせに、いきなり家族と言われれば怒りたくもなる。


 ミリアムとの会話は諦めて、俺は周囲の気配に集中する。

 さきほどから肌がぴりつく。こういうときは碌なことが起きない。


 だから。


「ミリアム。馬車を止めろ」

「言われなくてもわかってます」


 ミリアムは馬車を運転する騎士に停止を告げると、馬車から降りた。

 どさくさに紛れて首だけ馬車から出すと、ルーカスとティアナが乗っていた馬車も止まっていた。


 さすがに気づくか。

 伊達に二人とも聖騎士にはなってないな。


 白いマントをたなびかせ、二人は馬車の前に出た。


「レオさん」


 隣の馬車からティアナも顔を出して、声をかけてきた。

 その顔は少し疲れているようだった。

 まぁ、ルーカスの相手は疲れるよな。


「悪いね。面倒な奴の相手させて」

「いえ、それは大丈夫ですが……レオさんは大丈夫なんですか?」

「拘束もきつくないし、平気さ。ルーカスは俺を犯人と疑ってないみたいだけど、ミリアムはあくまで王の命令を守っているだけだ。命令を聞く限りじゃ、王も俺を犯人とは思ってないだろうさ」

「ですが……」

「心配しなくていいよ。いざとなったら逃げるから」

「そういうことを心配してるんじゃありません……。レオさんなら初めから逃げられるのは知っています。私は精神的な面を心配しているんです」


 おやまぁ。

 そんなところの心配をされてたのか。


 精神的に来るものがないといえばウソになる。

 何が楽しくて誤認逮捕なんてされなきゃいけないのか、と思いはするが。


「今更、この国や実家に期待したりしてないよ。最悪、暗殺者くらいは放ってくると思ってたし、この程度で済んで拍子抜けしてるところさ」

「……」


 そういうとティアナは悲し気な表情を浮かべた。

 そんな表情を浮かべさせてしまったことを後悔するが、どうにもならない。


 俺とルークライン家の関係は修復できない。

 そして騎士国においてルークラインは重鎮中の重鎮。


 この国において、まともな扱いを期待するほうが間違っている。


 あの日、勘当された時点ですべてが決まってしまっているのだ。


「……妹さんは知っているんですか? レオさんが追い出されたということを」

「知らないだろうさ。知る必要もないしね」

「でも……」

「追い出されたときに、無理をしてミリアムに相談するという手もあった。けれど、俺はそれをしなかった。それなのに今更、実は追い出されたんだなんて言っても、ミリアムが困るだけだ」

「……それでレオさんはいいんですか?」

「……いいさ。家族を信じられなくなるのは俺だけでいい。あの子は大好きだった母親を失った。父親まで失わせたくない」


 そんなことをしゃべっていると。

 突如としてそれは現れた。


 宙に浮いた五つの黒い球。

 それが何であるかは、この場にいる者は全員察しがついているだろう。


「魔封球……」


 ティアナが小さく呟く。

 あれはかつて栄えた魔法帝国が作り出した魔道具だ。


 今では遺跡からしか発掘されない貴重品だ。

 効果はその名のとおり、封印。

 といっても、封印の聖女のような力はない。


 魔神を封じるなんてとても無理だ。

 ただし、魔獣程度なら封印することはできる。


 一瞬、魔封球が光り輝き、やがて周囲に巨大な犬型の魔獣が現れた。数は五体。

 どいつもこいつも俺がここに来る前に倒したホーンベアーよりもデカい。


 見た感じ、Aランクに近いレベルの魔獣だろうか。

 普通の聖騎士ならば一体に対して、数人がかりだろうが。


「さて、お手並み拝見といくか」


 ミリアムとルーカスは剣を抜き放つ。

 そして、一瞬でミリアムが消え去った。


 速い。

 さきほどのルーカス以上の速度だ。


 気づけば、一体の首が斬り落とされていた。

 文字通り瞬殺だ。

 この分ならミリアムだけでも片が付きそうだけど。


「あの目立ちたがり屋め」


 ルーカスの剣に魔力が集まるのを感じ、俺はそう呟いた。

 どう見ても過剰だ。


「ルークライン流魔剣術――光牙斬!!」


 光を纏った斬撃が残りの四体を飲み込み、その体を滅する。

 その勢いはすさまじく、周囲の建物にも被害が出てしまっている。


 王都を守る聖騎士が王都を壊してどうするよ。


「この程度で僕らをどうにかできると思ってるのか? 舐められたものだね。僕らも」

「やりすぎです。ルーカスさん」

「いやぁ、ミリアムに負けてられないなと思って、ついね」


 注意するミリアムに対して、ルーカスは茶目っ気のある笑みを見せる。

 普通の女性ならそのしぐさに顔を赤らめてしまいそうなものだが。


「ついで建物を壊していいわけがないでしょ。私たちは聖騎士なんですから」

「わ、わかったよ……次からは気を付ける」


 わずかに怒気を含んだミリアムの言葉にルーカスはたじろぐ。

 どうやらルーカスの甘いマスクはミリアムには通じないらしい。


 まぁ、幼馴染だしな。

 今更か。


「けど、これでレオナルドが辻斬り、もしくはその一味である可能性はより高まったね」

「……なぜそう言い切れるんです?」

「だってそうだろ? このタイミングで襲撃だ。きっとレオナルドを取り戻しに来たんだ。もしくは、情報をしゃべられる前に始末しようとしたか。残念だったね。レオナルド」

「おう、そうだな」


 ずいぶんと素っ頓狂な推理を披露するルーカスに突っ込むのも面倒なので、適当に相槌を打つ。

 今の魔獣はおそらくティアナを狙ったもの。もしくはミリアムやルーカスの力を図るつもりだったか。


 どっちにせよ、俺は関係ない。

 さすがにミリアムも呆れたようで、こめかみを押さえている。


 可哀想に。

 ルーカスのお守りほど大変なことはない。


 なにせ人の言うことは聞かない暴走列車だ。

 方向転換させるだけでも一苦労だ。


 これは王直々に俺は無罪って言わせないととことん疑われそうだな。


「面倒だ……」


 こんなことしてる場合じゃないと思うんだけどなぁ。

 ま、おかげでティアナを安全に城へ連れていけるからいいけれど。


 問題はそのあとだ。

 脅威は何も解決していない。


 辻斬りに冥神教徒。

 どちらも健在だ。


 さて、騎士国はどう動くのやら。

 それを握るのは俺の父の所在だろう。


 これだけの騒ぎが起きているのに姿を現さないとなると、もしかしたら王都にいないのかもしれない。

 そうなると事態はややこしいことになる。


 いてほしくはないが、いないと面倒。

 そんなことを考えながら、俺は出発した馬車の揺れに身を任せた。

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