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第一章 帰郷 1

ここから本編となります。





 家を出てから七年。ティアナと最後に会ってから四年の時が経った。

 化け物みたいな師の下で、俺は魔拳術を学び、それなりには強くなった。


 だが、無能が強くなるには常軌を逸する修行が必要だった。

 思い出すだけで体が震えてくる。恐ろしい七年間だった……。

 一つの道を極めると決意して、転生したんじゃなきゃ逃げだしていたはずだ。


 しかし、俺はその修行に耐え抜き強くなった。

 師匠の代わりに依頼をこなせるくらいには。


 これはどういうことかというと、一時的とはいえ恐ろしすぎる師匠の監視下から脱することができるということだ。


 師匠の襲撃に怯えずに寝ることができるのは、いつぶりだろうか。


 そんなことを考えながら俺は深い眠りにつこうとしていた。


 のだが。


「うわぁぁぁぁ!! ホーンベアーだ!!」

「逃げろぉぉ!!」

「護衛の冒険者はどうした!?」

「あいつらは真っ先に逃げたよ!」


 うるさい。

 俺は寝てようとしてるのに。


 馬車の中で目を開けて、外を見ると。


「あー、魔獣か」


 角の生えた大きな熊が馬車を破壊して回っていた。

 今、俺が乗っているのはとある商団の馬車で、ちょうど向かう先が一緒だったから相乗りさせてもらっていたのだが。


「まいったな。魔獣の通せんぼとは」

「おい! あんた! 早く逃げろ!」

「いや、どこに?」

「元いた街だよ! あのホーンベアーはここらへんじゃ最強の魔獣なんだ。誰も勝てないから現れたら逃げるしかない!」

「それは困るんだよなぁ。俺、先を急がなきゃだし」

「はぁ? なら勝手にしろ!」


 俺を乗せていた馬車の持ち主は、馬車を捨てて逃げていく。

 どうやらあの魔獣は馬が目当てなようで、馬車を破壊して馬を食っている。


 だから馬車を捨ててるのか。

 人間に興味がないなら、走って逃げれば命だけは助かる。


「けど、生活に困っちゃうだろうに」


 それに俺を送ってくれないと困る。

 待ち合わせに間に合わなくなっちゃうじゃないか。


 馬車の荷台から降りると、ゆっくりと肩を回す。

 さすがに寝起きだと体が動かない。


「寝起きの運動にはちょうどいいか」


 コキコキとあちこちの関節を鳴らしながら、無造作にホーンベアーに近づく。

 馬に爪を突き立て、そのまま口を開いてむしゃぶりつく。


 行儀の悪い奴だ。

 あちこちに血が飛び散って、凄惨な絵になってるじゃないか。


「しつけがなってないな」


 右手で拳を作り、ゆっくりと突きの体勢に入る。

 同時にホーンベアーは俺を視界に捉え、イラついた様子で馬から離れた。

 どうやら食事の邪魔をされたことにイラついているようだ。


「俺は睡眠を邪魔されて軽くイラついてんだけどな」


 俺の言葉を理解したわけじゃないだろうが、ホーンベアーが怒ったように咆哮した。

 敵と認識したみたいだな。


 それでいい。

 さすがに食事中の不意打ちは気が引ける。


「熱いって感じる間もないから安心しろ」


 俺は右手に火の初級魔法【フレイム】を纏わせる。

 そのまま魔力を右手に集中させ、フレイムの威力を極限まで高め――。


 正拳突きを放った。


「炎鋼拳」


 ま、ただ火を纏った正拳突きだけど。


 仰々しい名前は師匠の趣味だ。

 別に嫌いってわけじゃないが、大した技じゃないのに名前だけは仰々しいのはいただけないと思う。


「さてと……寝ますか」


 俺はホーンベアーに背を向ける。

 いや、ホーンベアーだったものか。


 すでに真っ黒こげになっていて、元がなんなのかわからなくなっている。

 もうちょっと弱めに打つべきだったかもしれない。


 そんな反省をしながら、唖然としている商人たちに向かって、俺は一言告げた。


「着いたら起こしてください」


 そのまま俺は馬車に入って再度の眠りに入る。

 厳しい修行時代、安息というものは存在しなかった。


 いつ師匠に攻撃されるかわからないし、いつだったか起きたら魔獣の森に放り投げられていたこともあった。


 だから俺にとって眠りとは贅沢な行為なのだ。


 そのせいか、山を下りたときは、こうやって惰眠を貪るのが密かな楽しみになっている。

 誰が俺を責められよう。


 この世の地獄のような修行を行っているんだ。

 たまにの自由を満喫しても罰は当たらないはずだ。






♰♰♰♰♰






『私に護衛依頼が来たけれど、忙しいからあなたが行きなさい』


 そう師匠に言われたのが一週間ほど前のこと。

 我が師ながら適当なことだ。


 とはいえ、ノーといえる立場でもないため、素直に山を下りて目的地に向かっていた。

 しかし。


「まさか祖国に帰還することになるとは……」


 七年ぶりに訪れたアングルス騎士国の王都・ブレードはかなり変わったように見えた。

 知っている店は別の店になっており、新たな店や建物が多く見受けられた。


 ただ、根本的なところは変わっていない。


「まぁ、懐かしみに来たわけじゃないけど」


 俺は着ている灰色のマントのフードを深くかぶる。

 ここじゃどこにルークラインの目があるかわからない。


 家を出ていけと言われたわけで、別に王都や国から出ていけと言われたわけじゃない。

 だから隠れる必要はないと思うんだが、見つかればややこしいことになることは間違いないし、隠れたほうが楽だ。


「……ミリアムは元気かな」


 とはいえ、気になることは気になる。

 記憶の中にある妹はまだまだ幼かったが、今はもう十五歳くらいだろうか。


 母親譲りの黒髪が印象的で、将来は美人になるだろうなと思っていたけど、今はどうなっているかな。

 立派に成長してくれていると嬉しいんだが。


「っと、ここか」

 

 妹のミリアムのことを考えているうちに、依頼主に指定された宿屋についた。

 この宿屋の部屋に依頼主がいるそうだ。


 隠れて会うあたり、特殊な依頼なんだろうな。


「後ろ暗いことでもあるのかねぇ」


 宿屋に入ると、老年の店主が俺を胡散臭げに見てきた。

 俺は懐から師匠から渡されていた硬貨を取り出し、店主に投げる。


 この硬貨が合言葉の代わりだそうだ。


「上がんな。依頼主は一番奥の部屋だ」

「ありがとう」


 礼を言うと、そのまま階段を上がり、一番奥の部屋へ向かう。

 扉を開けると、そこには誰もいなかった。

 古びた部屋だ。特別なところは何にもない。

 代わり映えのしない安部屋といった印象だが、ここで合ってるはずだけど。


「依頼したのは別の人間のはずだが?」


 後ろから杖をつく音が聞こえてきた。

 振り向くと、そこには帽子を被った小柄な老人がいた。


 その顔は帽子にかぶってよく見えないが、纏う空気は常人じゃない。

 見た目は老人だが、纏う空気はどう見ても凄腕の剣士だ。昔は名のある騎士だったんだろうな。


「師匠は忙しいそうなので、弟子の俺が来ました。ご不満ですか?」

「まったく……勝手な奴だ。変わらんな。しかし、弟子を取っていたとは。どんな心境の変化だ?」


 老人はそういうと、帽子を取った。

 その顔には見覚えがあった。


「まさか宰相閣下がご依頼人とは」

「儂の事を知っているか。あやつの弟子にしては世間のことを知っているようだ」


 この老人の名はグラハム・ホーキンス。

 アングルス騎士国の宰相として、長きにわたって王を補佐している人物だ。かつては剣士としても名を馳せていた。


 予想外な大物が出てきたな。

 要人の護衛と聞いてたけど、まさか宰相とは。


「レオナルドと言います。今回は閣下の護衛ということでよろしいですか?」

「あやつの弟子なら腕は疑いようもない。護衛してもらいたいのは山々だが、今回の護衛対象は儂ではない」

「ややこしい話みたいですね」


 一国の宰相が護衛を手配する。

 しかも本来はウチの師匠だ。


 宰相以上のビッグネームとなると王族くらいしか想像つかないけど。


「その通り。ややこしい話だ。心して聞け。これは国家の信用にかかわる問題だ。明日、わが国に光神教会の要人がやってくる。我が国は全力で護衛をするが、儂は個人的に護衛が不十分だと考えている。そこで、お主に影からの護衛を依頼したい」


 とんでもないことをサラリという人だ。

 宰相という立場にある以上、この人はこの国の騎士たちを信じなくちゃいけない。


 なのに、護衛が不十分と考えているだなんて。

 信用できないと言っているようなもんだ。


「護衛体制は?」

「四人の聖騎士が身辺警護につく予定だ。そのほか、多数の騎士が周囲を警護する」

「聖騎士が四人? それで不十分? 一体、護衛対象は誰ですか?」


 聖騎士というのは国の精鋭だ。

 国境警備でさえ二、三人いれば十分お釣りがくるっていうのに一人に対して四人もつくなんて度を越している。


 そんな護衛体制で不十分なんて、いったい何をそんなに恐れているのだろうか。


「護衛対象は光神教会の聖女・セラフィーヌ様だ」

「……光の聖女様か……」


 聖女という言葉を聞き、ベールを被った女性と共に、その女性のそばにいるはずの少女が俺の脳裏によぎる。

 しかし、それを振り払い、依頼のことに集中する。

 会えるかもしれないなんて思っていると、失敗する可能性がある。


 今の俺は師匠の代理。

 俺の失敗は師匠の失敗ということになる。


 厳しすぎる師匠だが、それでも俺なりに尊敬している。

 名前に泥を塗るなんてことはしたくない。


 ティアナのことは依頼が終わってから考えよう。また教会によれば会えるかもしれないしな。


 とはいえ、聖女絡みの依頼か。自信がないわけじゃないけど、最悪の場合は魔神が出てきかねない。

 魔神は魔界という異世界の住人で、人間とは比べ物にならない力を持っており、かつて人類を滅ぼしかけた存在だ。今は聖女の封印で各地に封印されているが、あくまで封印。それが解ければ復活する。正直、師匠に来てほしかったなぁ。


 聖女の再来というのは、光神教会の関係者、および女神ルシアの信者にとっては崇拝の対象だが、冥神教団の関係者からすれば憎き怨敵だ。


 冥神教団がいつ仕掛けてくるともしれないし、それ以外にも光神教会をよく思わない勢力が仕掛けてくるかもしれない。

 彼女は光神教会の象徴だし、怪我でもされたらアングルス騎士国の評判は地に落ちる。

 護衛に神経質になるのは当然といえば当然か。


「引き受けてくれるな?」

「断る権利があるなら断りたいところですが、その権利は俺にはありません。非才の身ではありますが、全力を尽くします」

「よろしい。護衛のやり方はそちらに任せる。ただしあまり表立って動くな。騎士国の宰相がよそ者に頼ったとあっては、何を言われるかわからんからな」

「わかりました。フォローも期待できないということでいいですか?」

「そういうことだ。まぁ、できる限りのことはするが、期待はせんでくれ」


 そういうとホーキンスは帽子を被りなおして背を向けた。

 そして去り際に一言。


「お主の真の名がバレぬようにも気をつけろ。この国は今、問題だらけだ。新たな問題はごめんだぞ」

「……気を付けます」


 バレてたか。

 たしかに昔、何度か会ったことがあるけれど、背も伸びたし顔立ちも変わってる。

 それでわかるんだから大したもんだ。


 妙な感心をしつつ、俺はホーキンスを見送った。






♰♰♰♰♰






 その夜。

 俺は王都を歩いていた。


 もちろん、散歩じゃない。

 気になる噂を聞いたからだ。


「魔剣士狩りか」


 最近、この王都で魔剣士を標的とした辻斬りが起きているらしい。

 これまでで五件。どれも手口は一緒で、複数の剣による串刺し。

 しかも魔力が空になっているため、何らかの方法で吸い取られたとみられている。


「宰相が密かに護衛を手配するわけだ」


 ホーエンハイムの言う通り、今のこの国は問題だらけだ。

 魔剣士狩りだけじゃなく、 国境付近では村の住人が忽然と消える事件も起きている。

 おそらくではあるが、冥神教団絡みだろう。


 これだけ情勢不安定な状況で聖女が来るというのは博打に近い。

 何事もなければ国民は安心できるだろう。

 だが、何かあれば混乱に拍車が掛かる。


「俺なら呼ばないけどな」


 おそらくホーエンハイムも同意見だったはずだ。

 しかし、国王やそれ以外の重臣は違う意見を持っていた。それがホーエンハイムの行動に繋がっているんだろうな。


 情勢不安を聖女の名声でうまく収めようと考えているなら甘い。

 根本を絶たなきゃ混乱は静まらない。


「ま、それができないから困ってるんだろうけど」


 ここは騎士国。

 多くの聖騎士を有し、大陸随一の剣術大国だ。


 その国の王都で辻斬りをしながら、捕まらないというのは尋常じゃない。

 騎士たちが威信をかけて捜査しても見つからないということは、その辻斬りは特殊な魔法を使うか、聖騎士クラスかそれ以上の力を持っているということだ。


 斬られた五名はいずれも名のある魔剣士だった。

 それだけでも相手の実力は想像がつく。


「出し惜しみをせず、最強のカードを切ればいいのに」


 遠くに見える城にはおそらく王国最強の聖騎士にして、かつて父と呼んだ人がいる。

 あの人ならどうにかできるだろうが。


「聖騎士団長が辻斬りごときに動けば、国家の威信にかかわるとか思ってるのかな?」


 あり得る話だ。

 馬鹿な話ではあるけど。


 その間に犠牲者は増えるし、聖女の危険も増える。


 なんて思っていると。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 路地裏から悲鳴が聞こえてきた。

 なんてタイミングだ。


「マジかよ……」


 できれば行きたくない。おそらく辻斬りだ。

 手の内がわからない相手と薄暗い路地裏で対峙するなんて、死地に赴くようなもんだ。


 けれど。


「虎穴に入らずんば虎子を得ずとか言うしな」


 動かなければ相手の正体も手の内もわからないままだ。


 覚悟を決めて路地裏に入ると、先ほど悲鳴が聞こえた方向に向かう。

 すると。


「あ、あ、あ……」


 そこには二人の人間がいた。

 一人は無数の剣に串刺しにされ、もはや風前の灯火の男。

 もう一人は黒いマントに身を包み、顔を髑髏の銀仮面で覆っている。大きな鎌でも持っていれば、死神と勘違いしそうな見た目だ。


 ほぼ間違いなく、こいつが噂の辻斬りだろう。


 辻斬りは男の口に手を当てて、魔力を吸い取っているようだ。

 魔力は体力と密接に関係ある。大量に消費すれば命に関わる。


 あれだけ出血している状況で吸われたら、もう命はないだろうな。


「……ワンチャン、集団で行動しているのかと思ったけど違ったか」


 複数の剣を操る辻斬りより、集団の辻斬りのほうが相手をしやすかったんだが。

 さすがに願望が過ぎたな。


「今日は運がいい。君もそれなりの魔力を持っているようだ」

「魔力目的で辻斬りか……何者だ?」

「何者だと思う?」


 質問に質問で返すなよ。失礼な奴だ。

 そんなことを思いつつ、俺は腰を落として臨戦体勢を取った。


 向かい合っただけでわかる。

 こいつは異常だ。


 騎士国が捕まえられないのも理解できる。

 どう見ても化け物だ。


「何者でもとりあえずぶん殴るだけだ。俺の仕事の邪魔なんでな」

「ほう? 私を殴る? 奇妙なことをいう。ここは騎士国。強者はすべて剣士のはずだが……」

「そうとも限らないさ」


 手加減無用。

 地面を蹴って、俺は辻斬りの背後に回り込む。

 そのまま渾身の突きを背中に叩き込む。


 はずだった。


「おいおい……」

「拳士か」


 俺の拳は宙に浮かぶ剣によって防がれた。

 辻斬りは俺のほうを見向きもしない。だが、それが命取りだ


「ただの拳士じゃない」


 雷の初級魔法【ライトニング】を右足に纏わせ、中段蹴りを放った。


 紫電脚。

 雷系統の魔法を纏わせた蹴りだ。


 特徴はその速度。

 雷系統の魔法は速度に優れ、打撃との相性もいい。

 俺の得意とする技の一つなんだが。


「魔拳士とは珍しい。しかも騎士国で見ることになるとは」

「ちっ……! どういう反射神経してんだ?」


 辻斬りは右手で紫電脚をガードした。

 その反応速度と肉体強度は普通じゃありえない。魔法で肉体強化をしているとするなら、こいつは達人クラスの使い手だ。


「次はこちらから行こう」


 その瞬間、俺の周囲から空間を裂くようにして五本の剣が現れた。

 ただの剣じゃない。どれも形状が違うし、中には生き物みたいな剣もある。


「気味が悪いもんを出すなよ!」

「そう邪見にしないでほしいな。私のかわいいペットだよ」


 こんな凶悪なペットがいてたまるか。

 そう文句を言う暇もなく、剣が俺に襲い掛かってきた。


 動きは不規則。統一性はない。

 まるで一本一本に自我があるみたいな動きだ。


 そのせいで避けにくい。

 厄介な技を持ってるな。


 物質を遠隔操作する魔法は聞いたことあるけど、どうもそんな感じでもなさそうだ。


「まったく、いつからこの国は化け物が住むようになったんだ?」

「そういう君も大したものだ。大抵の剣士はこの攻撃で仕留められるんだが」

「お前が殺してきた剣士と一緒に、するな!!」


 一気に剣たちから距離を取ると、右手を伸ばす。

 その先に十個の魔法陣を出現させ、同時に十個の魔法を放つ。


【ウィンド・十連ディエス


 風の初級魔法であるウィンドは、応用力のある魔法だ。

 魔力の調節によって、そよ風から突風まで変えられる。

 今は最大限まで魔力を込めて、風の弾丸として放った。


 それを二つずつ剣にぶつけて迎撃していく。

 剣は風の弾丸に当たると、煙のようなものをあげて消えていった。


 本質的には霊体に近いのかもしれない。

 そんな魔法は聞いたことないけど。


「これまた珍しい。〝連立術〟か。しかし、十個も初級魔法を発生させるなら、中級魔法のほうが効率的だと思うがね」


 馬鹿にしたように辻斬りは笑う。

 笑いたきゃ笑え。これが初級魔法しか使えない俺の武器だ。


 通常、初級魔法と中級魔法との間には隔絶した差がある。

 威力にしたら十倍以上といわれている。もちろん、使用者の技量や込めた魔力量によって変わってくるが、普通は初級魔法じゃ中級魔法には到底及ばない。


 そのため、俺は〝連立術〟という方法を使っている。

 これは一つの魔法を連立して使用する方法で、中級魔法、上級魔法とステップアップすることを掛け算とするなら、この連立術は足し算だ。


 辻斬りの言うとおり効率は悪い。

 だが、それは通常の連立術の場合だ。


 俺の連立術は普通とは一味も二味も違う。


 それをわからせてやろうと思ったとき、遠くから複数の足音が聞こえてきた。

 おそらく巡回の騎士たちだ。


「その目はまだまだ力を隠している目だ。是非とも見てみたいものだが、今宵はここまでだ。また会おう。魔拳士の少年」


 そう言って、辻斬りは近くの屋根に飛び乗ると闇に紛れて消えていった。


「逃げたか……」


 この場合は逃げてくれたと言ったほうがいいか。

 あの摩訶不思議な力はおそらく魔法じゃない。まだどんな力を隠してるかわからない相手だ。


 互いに小手調べ程度で終わったことを喜ぶべきだろうな。


「さて、俺もお暇するか」


 こんなところを見られたら俺が犯人扱いだ。

 フードを深くかぶり、俺もその場を後にした。

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