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第二章 しがらみ 4

これで第二章ラストです。次からは第三章となります。


 余計なことはするな、と騎士国側から忠告を受けていた俺は城で聖女の護衛に当たっていた。

 そんな俺の下にビリーがやってきて、ミリアムが辻斬りと交戦したと伝えてきた。


 正直、心臓が止まったんじゃないかと錯覚するほど衝撃だった。


 それまでは騎士国が助けを求めてくるまで動いてやるものかと思っていた。

 最初の依頼は聖女の護衛だし、その後も雇われているのは光神教会だ。騎士国を助けてやる義理も義務もない。


 だから騎士団が辻斬りと冥神教団に対する大捜索網を敷くと聞いたときも、勝手にやってろと思ってた。

 だけど。


 ミリアムが辻斬りと交戦したとなれば話は別だ。


「行ってください。陛下と聖女様には私から伝えておきます」


 直前まで一緒にいたティアナは、そう言って俺を送り出してくれた。

 とても助かる。余計なことをするな、と言われている身だ。勝手に動けば面倒ごとが増える。


 こうしてサポートしてくれるのはありがたい。

 

 そのまま全速力でミリアムがいる大通りまで進むと。

 そこには血だらけで倒れるミリアムと剣を構える辻斬りがいた。


「っ!?」


 頭に血が上るのを感じた。

 胸の奥から感じたこともない怒りが湧いてきた。


 それでも冷静さを維持して、俺は風を纏って一瞬でミリアムを救い出した。


「ミリアム……! しっかりしろ!」

「ふむ……ほかの聖騎士が来ると思っていたのだが、君が来たか。魔拳士の少年」


 問いかける辻斬りを無視して、俺はミリアムの傷の具合を見る。

 体中が傷だらけだった。とくに腹部はひどい。

 完全に風穴が空いている。


 普通の治癒魔法じゃどうにもならないだろう。

 ただ、俺が使う治癒魔法は普通じゃない。


「【ヒール・百連スィレン】」


 初級の治癒魔法、ヒールを重ね掛けした。

 本来なら小さな傷しか塞げないヒールだが、百も連続で発動したため、まるで上級魔法クラスの治癒速度を発揮して一気に傷口を塞いでいく。


 だが、それでも失った血と魔力は戻らない。

 ぐったりとするミリアムを見て、俺は唇を噛み締めた。


 こうなる可能性は十分にあった。

 どうしてこうなる前に動かなかったのか。


 大切だと言いながら、実家や国への敵愾心が勝った。

 最低な兄だ。


「……に、い……さま……?」


 ミリアムの意識が少しだけ戻る。

 その声は弱弱しい。


「ああ、兄さまだ。もう大丈夫だぞ」

「……ごめん……なさい……忠、告を……聞かず……」

「まったくだ。一人で戦うなんて無茶して……あとで説教だな」


 言いながら、再度ヒールをかける。

 傷はすべて防いだ。

 だけど、まだ予断を許さない。


 早く安静にできるところで休ませないと。


「驚いた。君はルークラインの一族だったのか?」

「……黙ってろ。辻斬り。可愛い妹のために今は見逃してやる。さっさと失せろ」

「再度驚いた。君が見逃す側だと?」


 そう言って辻斬りは剣を構えた。

 纏う雰囲気は数日前とはえらい違いだ。


 魔力を補充して万全の状態ってところか。

 やる気満々なのは結構だが。


「聞こえなかったか? 失せろって言ったんだ」


 純粋な殺気をこめて告げる。

 それを真正面から受け止めて、辻斬りは笑う。


「心地よい殺気だ。君のような強者がいるからこの世界は楽しい」

「お前の楽しさなんて知ったことか。いいから失せろ」


 こいつと戦えば殺し合いだ。

 そうなったらミリアムを巻き込むし、容体も変わりかねない。

 早くミリアムを運びたいってのに。


 さてどうするべきか。

 なんて思っていると。


「辻斬り! 覚悟!!」


 間抜けがやってきた。

 辻斬りの背後から間抜けこと、ルーカスが攻撃を仕掛ける。


 馬鹿正直な攻撃は辻斬りに受け止められるが、辻斬りの気は逸れる。

 その隙を見逃さず、俺はミリアムを抱いたまま城のほうへ走り始めた。


「聖騎士団長代理か……まぁ悪くはない」

「よくもミリアムを! お前は僕が討つ!」


 そう言ってルーカスは光魔法を纏わせた攻撃を連続で放つ。

 昔から光魔法が得意な奴だったが、間を空けずあそこまで強力な技を放てるようになってたか。

 でも全部、辻斬りに防がれているが。


「その程度じゃ私は討てないぞ?」


 そう言って辻斬りはルーカスの周りに剣を召喚する。

 完全に包囲されたルーカスだが。


「こんなもの! 僕に効くか!!」


 そのすべてを一本の剣で叩き落した。

 大した反応速度だ。


 それだけに終わらず、ルーカスは辻斬りの間合いに踏み込んだ。


「この国は……僕が守る!!」


 そう叫ぶルーカスの剣はさきほど以上に光り輝いている。

 あれは。


「ルークライン魔剣術奥義――光覇滅閃」


 光の最上級魔法【サン・シャイン】を纏わせた斬撃だ。

 俺の父、クロードの得意技だが、ルーカスも教わっていたか。


 辻斬りは完全に間合いを詰められている。

 躱すのはほぼ不可能。

 受け止めるにしても、攻撃力の高い技だ。生半可な防御じゃ抜かれる。


 だが。


「凄い技だが……当たらなければどうということはない」

「なっ!?」


 ルーカスの放った光覇滅閃は辻斬りの横に大きく外れて、その周囲にある建物を破壊する。

 いや外れたんじゃない。


 外されたんだ。


「さきほども彼女に言ったが……どれだけ強かろうが剣士である以上、私には勝てないのだよ」


 そう言って辻斬りは真っ赤な剣を召喚し、それでルーカスの腹を突き刺した。


「そ、んな……僕は剣の……天才なのに……」

「それはそれは。ではいいことを教えてあげよう。天才というのは最強の称号ではないのだよ」


 剣が思うように動かないルーカスは、そのまま辻斬りに蹴り飛ばされた。


「……あれはなんだ?」


 辻斬りはルーカスの魔力を回収するつもりなのか、ゆっくりとルーカスに近寄る。

 まぁ、それはいい。

 このまま死んでくれるとあいつの兄になるという最悪の未来を見なくて済む。


 問題なのはさっきの能力だ。

 剣士殺しともいうべき力。

 あいつは相手の剣をおそらく操った。


 だとするなら、たしかに剣士には勝ち目がない。

 しかし、そんなことが可能なんだろうか。


「にいさま……ルーカスさんを……」


 この機に一気に距離を取ろうと思っていたのだが、ミリアムがそんなことを言ってきた。

 マジか。


「勘弁してくれ。あいつを助けるなんてごめんだ」

「……お願いします……」


 ミリアムはそういって力なく服を掴んでくる。

 自分も辛いだろうに。まったく。


「若! お嬢!」


 俺を追ってきたのか、ちょうどいいところにビリーがやってきた。

 城まで全力疾走し、そこから俺を追って全力疾走したんだろう。息がだいぶあがってる。


 だが、もうちょっと働いてもらおう。


「ビリー。ミリアムを城まで連れていけ」

「え? あ、ちょっ! 若!?」


 ビリーにミリアムを任せると、俺はまったく気が進まないがルーカスと辻斬りの下へ向かった。


 辻斬りはルーカスから魔力を絞り終わったのか、余裕の様子で俺を見てくる。


「戻ってくるとは。友人が大切かな?」

「友人? こいつが? ただの腐れ縁だ」


 言いながらルーカスにヒールをかける。

 傷はそれで塞がった。

 あとはこいつ次第だ。できれば頑張ったのちに死んでほしい。それならミリアムも文句は言わないだろう。

 やっぱり、こいつが弟になる未来は耐えられないし。


「さて……戻ってきた以上見逃すわけにはいかないのだが、それは理解しているかな?」

「まったく……かませ犬に勝ったくらいで調子に乗るなよ? さっきはミリアムがいたから失せろと言っただけだ。だが、今はミリアムがいない。俺は自分に正直になれる」

「ほう? どう正直になると?」


 辻斬りの言葉に俺はゆらりと体を揺らす。

 一瞬の後。


 俺は辻斬りの懐に飛び込んでいた。


「双連光天掌・十連!!」


 両手で辻斬りの腹部に思いっきり光天掌を叩き込む。

 直接魔法を叩き込まれた辻斬りは、仮面の下で血を吐き、よろよろと後ずさった。


「なに……?」

「どう正直になると聞いたな? お前を殺したいって気持ちに正直になるんだよ。覚悟はいいか? お前は兄の逆鱗に触れたぞ!」

「くっ!」


 辻斬りは接近戦を避けるかのように剣を召喚して距離を取る。

 だが、そんなもの無意味だ。


「【フレイム・百連スィレン】」


 召喚した剣は魔法で次々に撃ち落とす。

 中距離戦でも望むところだ。手数なら俺だって負けちゃいない。


「初級魔法とはいえ百も連立させるとは……しかも一発の威力も初級魔法とは思えないほど高いときた……なるほど、君は〝初級魔法しか使えない魔導師〟ではなく、〝初級魔法を極めた魔導師〟ということか」

「極めたってのは言い過ぎだ。まぁ、だれよりも初級魔法に精通している自信はあるけどな。さて、どうする? このまま中距離で撃ち合うか?」


 それならそれで構わない。

 隙を見て懐に飛び込むだけだ。

 接近戦というなら大歓迎だ。とびっきりの一発を食らわせてやる。


「……強者との戦いは望むところだが、この体では限界がある。今回は退かせてもらおう。大事な体なのでね」

「退く? そんなことさせると思ってるのか?」

「ああ、させて見せる」


 そういうや否や。

 辻斬りは大きく手を上に掲げ、振り下ろした。


 少しの間の後。

 王都の上空に無数の剣が出現した。


 聖女の襲撃の時に現れたものと同じだ。

 違いがあるとすれば、それが城に集中しているという点だ。


 あの城にはミリアムが運び込まれており、ティアナもいる。


「ちっ!」

「では、また会おう」


 防ぎに向かうと辻斬りは闇に包まれるようにして消え去った。

 どういう原理か知らないが、気配すら追えない。


「面倒な奴を敵に回したもんだな!」


 愚痴りつつ、俺は城と剣の大群との間に割って入る。

 前回とは違い、広範囲に散らばっているわけじゃないから迎撃はしやすい。


 一番は聖女の魔法で防ぐことなんだろうが、今の状況に対応できているかは不明だ。

 だから俺が防ぐのが一番安全だろう。


 数はおよそ五百。

 迎撃するとなると倍は必要か。


「【ウィンド・千連ミル】」

 

 さすがに千個も風の弾丸を作ると魔力を急激に持ってかれる。

 だが、俺の作り出した風の弾丸は見事、城に迫る剣を迎撃しきった。


 あとに残ったのは疲労感と混乱によって生じる民たちの声だった。


「……まずはミリアムの安全を確かめるか」


 なにか忘れている気もするが、気にせず俺は城へと戻ることにした。

 いやぁ、なにを忘れているんだろうか。思い出せないや。







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