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序章 1

こんばんは、タンバです。


今回は偏った才能の主人公を書いてみたいと思い、こういう作品を投稿しました。

題名のとおり、主人公は拳で抵抗するので、お好きな方はどうぞ読んでください。




 俺、鈴木唯人すずきただとは死んだ。


 三十過ぎのサラリーマンによくある死因、過労だ。

 ブラック企業に就職し、社畜になったのが運の尽きか。

 オタクでゲームやアニメばかりを見ていて、運動してなかったのも要因の一つかもしれない。


 そんな俺は今、冥界の神を名乗る生物と対面していた。

 場所は真っ白な部屋で、そいつは椅子に座っている。

 いや、乗っているというべきか。小さいし。


 そいつは一言で表すなら、黒いト〇ロだった。

 子熊っぽいけど、子熊ではなく、一番ピッタリ来る表現はそれしかなかった。


 そいつは面倒そうに俺と手に持っている紙を交互に見ていた。


『オレの名前はオスクロ。さっきも言ったが冥界の神で、死者の案内を司ってる。もうわかってるとは思うが、お前は死んだ。そんで確認すっけど、お前は鈴木唯人。32歳。独身。童貞。オタク。友達なし……合ってるか?』

「……ええ、まぁ」


 どうしよう。あの世なのに心が折れそうだ。


『冴えない中年オタクか……一杯あるだろうけど、聞いておくぞ? 未練はあるか?』


 ト〇ロもどき、オスクロはそんなことを聞いてきた。


 確かに一杯ある。

 読みかけの漫画や小説、放送予定のアニメに発売間近のゲーム。

 ……碌な未練がないな。即物的すぎるだろ。


 しいて言うなら老いた親を残して死ぬことくらいか。

 けど、あの人たちなら俺がいなくてもなんとかなるだろうし。


 さて、ほかに未練があるんだろうか。

 俺がやりのこしたこと。やりたかったこと。

 それを少し考える。


 そして一つあった。


「……俺は……中途半端な自分が嫌いでした。一つのことに夢中になることすらできない自分が。俺は何かを極めてみたかった。その道だけを真っすぐ進んでみたかった。それが俺の未練です」

『ほう? 生き方が未練か。そりゃあまた大きな未練だな。つまり〝別の人生を歩みたかった〟っていうのがお前の未練だな?』

「まぁ、そうですね。もうちょっと頑張れたんじゃないかと今なら思うんです」

『後悔なんてみんなそんなもんだけどな。いやぁしかし、大したもんだよ。大抵の奴は、あの時とか、あそこで、とかそんなのばっかなんだが、根本的な未練っていうのは久々に聞いた。よっぽど、人生楽しくなかったんだなぁ』


 最期の台詞をしみじみと言わないでほしい。

 でも言ってることは間違いじゃない。


 人生は楽しくなかった。

 友達はできないし、何をやってもうまくいかない。

 孤独感を抱えながらずっと生きていた。


 けど、それは何事にも本気で打ち込まなかったからだ。

 ゲームや漫画を見るなら、それを極めるくらいのめり込めば、同じ仲間ができたはず。


 結局は俺の生き方がまずかった。

 そういうことなんだ。


『さて、人生すべてをやり直したい鈴木唯人。お前に取引を持ち掛けたい』

「取引?」

『ああ。単刀直入に言えば、お前を転生させることがオレにはできる』

「転生!?」


 なんてこった。

 そういう話は二次元とか宗教だけの話だと思ってたのに。


 もしも、それが可能なら俺は新しい俺を始められるってわけか?

 いやでも、こんな胡散臭い神が言うことだし、なにか裏があるんじゃないか?


『まぁでも条件がある。そして転生先は地球じゃない』

「つまり異世界ってことですか?」

『そういうこった。んでもって、条件っていうのは、オレを信仰している迷惑な教団がある。そいつら壊滅させてくれ』


 ん?

 それってどういうことだ?


 神様って信仰されてナンボのはずじゃ……。


『そいつらの名前は冥神教団。昔は普通の教団だったんだが、五百年くらい前に突然、オレに生贄を差し出すようになったんだ。迷惑なことにな』


 五百年前も十分、昔だと思うけど。

 ま、神様の時間間隔なんてそんなもんなのかもしれない。


 しかし、生贄か。

 それはまた古風なことをするもんだ。


「それはその世界じゃ普通なことなんですか?」

『凶悪な魔神を召喚して、あやうく世界を滅亡させかけた教団だぞ? 普通なわけないだろ。五百年前に一気に勢力を拡大したが、そのときは壊滅的な被害を受けた。それが、今になってまた活動し始めやがった。生贄なんて、オレの仕事が増えるだけだって、なんで気づけないのかねぇ』


 本当に面倒だって感じの表情でオスクロはため息を吐いた。


 まぁたしかに面倒だろうな。

 仕事をプレゼントされるようなもんだ。


「でも、俺は戦闘とか出来ませんよ?」


 魔神を召喚しちゃうような教団とやり合う自信はない。

 なにせ、一度だって喧嘩に勝ったことはないんだから。


『そこは安心しろ。しっかり対策を持たせてやる。まぁ、やり方はお前に任せるけどな。武力でボコってもいいし、政治で壊滅させてもいい。なんにせよ、困らないようなお助けスキルをお前にやるよ。もちろん、努力なしじゃキツイだろうけどな』

「いや、でも俺が努力したところで……」


 自分を卑下するとかそういうのじゃない。

 自分の能力のなさは俺が一番よくわかっている。


 今から子供時代に戻ったとして、一からめちゃくちゃ修行したとしても、大したところにはいかないだろう。

 もちろん、俺はそれでもかまわない。


 一つの道を突き詰められるなら、到達点が半ばでも問題はない。もちろん、上は目指すが。


 しかし、オスクロからすればそれじゃ困るわけだ。

 なんとかして、教団を退治してもらわないと仕事は増える一方なわけだし。

 だが。


『転生って言ったろ? お前の記憶は残しておいてやるが、それは前世の記憶だ。体は新しくなっている。まぁ、今よりはマシな体を見つけてやるよ。あ、高望みはすんなよ? 王族とか勇者とかは無理だぞ』


 神様にも限界というものがあるらしい。

 残念。ちょっと憧れてたんだけどなぁ。王族とか勇者に。

 ま、今より良くなることを祈っておこう。


「わかりました。そういうことならお引き受けします。ただ、失敗した場合のペナルティーはなんですか?」

『それは失敗してからのお楽しみだな。まぁ、教団と戦うのもペナルティーみたいなもんだろ。何人かお前みたいのを送ったが、全員返り討ちに遭ってる。お告げも効果はないし、あいつらは本気で狂ってる。せいぜい、惨い死に方はしないように気をつけな』

「は、はぁ……」


 どうにも実感が湧かない。

 けど、神様が狂ってるっていうくらいだし、相当なんだろう。


 俺がその教団と対面する間に壊滅してくれていると助かるんだけどなぁ。


『そんじゃ取引は成立だ。向かうところは異世界マーテリアのアルカ大陸。わかりやすく言えば、剣と魔法のファンタジー世界だ。お前は十歳になると、鈴木唯人としての意識が覚醒する。もちろん、覚醒前もお前だが、自分が転生したという自覚はない。これで周囲には普通に溶け込めるはずだ』

「それは助かりますね。さすがに赤ん坊からやり直すのはちょっと……」

『そうだろ? オレの粋な計らいってやつだ。一応、貴族の息子を選んで、お前を転生させる。魔法には血統も大切だからな。けど、今よりはマシとはいえ、最強とかそういうんじゃない。頑張って努力しろ。オレのために』

「ええ、頑張ります」


 別にオスクロのために頑張るわけではないけれど。


 俺が頑張るのは俺自身のためだ。

 俺は今度こそ、一つの道を進んで見せる。愚直と言われようと、真っすぐに。


 そのための新しい人生だ。

 何があろうと諦めるもんか。


『というわけで、これからお前を異世界に送る。ま、暇があれば会いにいってやるよ。監視もかねてな』


 なるほど。

 神様の監視付きか。


 ま、関係ないな。

 俺は一つ道の求道者となり、その過程でその教団を潰すだけだ。


「任せてください」

『みんなそういうんだよなぁ。でも、一応期待はしてるから頑張れ。そんじゃ、行ってらっしゃい』


 オスクロはそういって両手を叩く。

 その瞬間、俺の周囲は真っ暗になり、そのまま急降下を始めた。


「ちょっ!?」

『そのまま落ちていけば異世界だから。慌てず楽しんでくれ』


 楽しめるかっ!?

 心の中で叫ぶが、声は出ない。


 ジェットコースターなんて目じゃないスピードに、俺の意識はすぐに消えてなくなった。


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