No.8
〜8〜
駅のホームはいつも学生達で賑わっている。
携帯や雑誌を片手に今の流行がいったいどうなっているのか。
今の話題がなんなのか。
今のファッションは何が最先端なのか。
自分を取り巻く環境をいかに流行に乗り遅れずに過ごせるか。
そんなことにばかり気が行っている。
もちろんアズサも気にはなるが今はそんなことどうでもいい。
「はぁぁ〜〜〜。」
長いため息とともに頭が垂れる。
この駅で彼と待ち合わせ。アズサのほうが駅に着くのがいつも早い。
後から来るよりは数段先にいたほうが躊躇しなくてすむ。今日に限っては先に駅につく距離に学校があるのがありがたかった。
「アズサさん。」
振り返るとニコニコと笑顔で走ってくる。
彼は笑うと目が猫のようになる。そんな愛らしい笑顔でアズサの前までくるとアズサの肩に手を置き息を整える。
「結構頑張ってきたんだけど…やっぱりアズサさんんより早く来るのは無理みたいだね。」
そう言ってアズサに向かってまた猫のような笑顔を向ける。
「やっぱり好き。」
アズサは山田君への思いを再確認してしまった。
あんな現場を見た後だというのに。
自分に愛想がつきるほど馬鹿だと思った。
「何?突然。俺だって同じだよ。照れるじゃん。」
そう言っていつもは冗談ばかりで人を笑わせる彼は今度は他の誰にも見せない笑顔で笑った。
「あのね。話があるの。」
彼の笑顔を見ないようにアズサは言った。
怖くてしょうがないくらい心臓がバクバク言ってる。
アズサは今日何度目かの深呼吸をした。
アズサの今までに好きになった人はいつも人気者だった。
それはアズサが人から好かれる人を見ているとなんだか自分も好かれる人になりたい。と言う憧れから来るものがほとんどだったが必ずそんな人にはお似合いの彼女がいた。
いなくても噂の相手ってのがいる。
でもアズサは気にしなかった。
別に好きといってもいいなぁと思う程度で彼女がいてもやっぱり彼のような人には素敵な彼女がいるのね。
と納得してしまうくらいの好意しか寄せたことがなかった。
もちろん仲良くなりたいとは思う。つい近づいて話しをしたり仲良くしたりなんかした日にはその人の彼女の取り巻きや好意を寄せる女子から冷たい視線や嫌がらせを受けたこともある。
そんな失敗を繰り返すうちに学習し、今では好意を持っても遠くからまるでテレビでも見ているかのように傍観するだけだった。
今回の山田君も最初はそうだった。
バイト先の人気者。
ただ今回の場合は山田君とアズサがバイトを始めた日が同じだったことから誰も文句を言わなかった。
そして初めて自分が人気者の彼女的な…というか相方的な存在になったことに少し浮かれていた。
その矢先の出来事。
自分が主役になれたと思ったのに…。
(やっぱり頭にのるからこんな事になったのかな…)
アズサはまたため息をついた。
話があると言ったきり黙ってしまったアズサが不思議なのか横から山田君が覗き込んでくる。
アズサは下手な笑顔を浮かべ目的の駅が近づくにつれて不安を募らせていた。
今日は山田君の家に行く。
ゲームの対戦をするため。
もう数回行ったことはあるけどエッチなことはしてない。
キスだけ。
毎回ゲームをして負けてはふざけ合いキスをするようになっていた。
(今日はゲームできないな。)
こんどはゲームのできないことにため息をつく。
ーー次は○×駅ーー
車内アナウンスが降りる駅が次であることを告げた。
(ここまできたら気合。気合だぁ〜〜!)
今度は深呼吸をして おっしっ!
と気合を入れる。
横にいる山田君は突然の気合にびびりながらも“なに?今から試合?気合入ってるみたいだけど…俺応援するよ!”
とやっと元気になったように見えるアズサに便乗しようと思ったのか隣でガッツポーズをしたり意味不明なボケをかましていた。