No.7
〜7〜
(やっぱり…。)
山田君の隣。
今ではアズサの席であったのが当たり前だったその場所に陽子が座っていた。
(なんで。陽子さんが…)
アズサはサッと身を隠すとそのまま力なく座り込んでしまった。
頭の中は なんで…何で… の繰り返し。
でも元々自分が綺麗でも可愛いでもないと自覚しているアズサはいつも明るい誰にでも人気のある笑顔の可愛い陽子を山田君が好きになってもしょうがないとどこかで思っていた。
「やっぱ渉はいいやつだよ。」
陽子の優しい声が聞こえた。
「ご褒美のチューしてあげたいくらい。」
その言葉に反応するかのようにアズサは顔半分を出して覗き込んだ。
山田君はえぇ〜! と後ずさりする仕草を見せるものの目が笑っていた。
おまけに「今度で結構です。」なんて言ってる。
嫌じゃないんだ…。今度もあるんだぁ〜。
今のアズサには二人の冗談の行動も本気に見えるほど心はどん底にいた。
もう一度身を隠すとこのままここにいても辛くなるばかりと判断したアズサは来た道を戻り始めた。
原付きのエンジンをかける。
と同時にポケットの中の携帯が震えた。
見ると山田君から。
“今日は遅くなるの?”
とメールが入っていた。
陽子さんが居るのに自分にメールを打ってくる彼に少し苛立った。
二人でからかってるんだ。
アズサはあの楽しそうな二人の顔を思い出した。
あんなの見た後で彼に会える訳がない。
馬鹿にしないで。と怒りを込めてメールを打とうと思ってみたけど、いざとなると彼の笑顔が脳裏に浮かんでくる。それにあの優しいキスはまだ感触を覚えている。
アズサは大きく深呼吸すると携帯のボタンを押しだした。
“さっきお母さんから連絡があって急いで家に帰ることになりました。ごめん。夜電話もできないから明日話すね。”
送信ボタンを押してもう一度大きく深呼吸すると原付きにまたがった。
後ろでは山田君のメールの着信音が遠くに聞こえる。
明日は水曜日。
二人で相談して同じ日にバイトの休みをもらった日。
アズサは明日、彼に聞いてみようと心に誓った。
その結果がどんな結果だろうとバイトはやめない。だってすごく充実している仕事だから。
バイクから感じる風はいつもより冷たかった。