No.6
〜6〜
「渉。」
彼を呼んだのはもちろんアズサではない。
アズサはまだ彼を山田君をワタルとは呼べない。
「は〜い。何?陽子さん。」
忙しさもひと段落した店内で山田君は声の主である山内陽子にいつものスマイルで答えた。
「今のうちに休憩しよう。私もするから。」
陽子はスケジュールに休憩の印を入れると山田君を連れて休憩に行ってしまった。
最近二人はよく一緒に休憩に入るようになったし、バイトが終わってからも少しの間ではあるけどよく二人っきりで話していることが多くなった。
アズサはそんな二人が仲良くしている姿を見るのがとても嫌だった。
陽子さんは二人と同じようにオープン当時から一緒にバイトをしてる一人なのだが今まではそんなことはなかった。
もちろんバイトの後の公園での二人の時間はかかさずにあったもののどうして二人で話しているのか。
何を話しているのかは怖くてアズサには聞けなかった。
アズサは山田君と付き合っていることを隠しているのが彼の気に障り他に好きな人ができたのでは…と不安になっていた。
けれど二人のときは優しくいつも通りにしてくれる彼を見るとやっぱり気のせいだ。
と思ってしまう。それにいつも誘うのは陽子のほうだということを見てると陽子が山田君に好意を寄せているように見える。
もともと誰にでも優しい山田君は誰と噂になってもおかしくないようなタイプ。
それがたまたまアズサだっただけで今の様子を見ていると陽子と付き合っているといえばそれはそれで誰もが納得しそうな感じだ。
「先に休憩するね。」
陽子と山田君は二人でフロアにでると対面に座り顔を近づけコソコソと話し込んでいた。
「最近二人仲いいよね。」
近くにいた子がアズサに耳打ちする。
「あずささんとられたんじゃない?」
その言葉にアズサは胸が痛んだ。
「そんな関係じゃないから。」
といつも通りに言ったつもりだったけど顔が歪んでうまく笑顔がつくれないでいた。
何やんてんの山田君。本当に…。
アズサは少し不安になっていた。
周りからみても仲の良い二人。その二人を見ていると本当に付き合っているような気になる。
アズサはバイトをしながらも二人が気になって手が空くとこっそり二人を盗み見していた。
そのとき陽子の手から小さな紙切れが渡された。
山田君はそれに目を通すことなくポケットにしまうと店内に戻ってきた。
その後の山田君はやっぱりいつもと変わらない態度でアズサに接してきた。
アズサは不安になりながらもそれを表情に出さないように笑顔を作っていた。
「今日もあの公園でまってるから。」
先に上がった山田君がアズサの耳元で囁くと「おつかれさまぁ〜っす」と帰っていった。
アズサが終わるのは一時間後。
今日こそアズサは真相を聞こうと決めていた。
モヤモヤしたままじゃ自分がどうなってしまうかわからない。
一時間後。
アズサはすばやく着替えを済ますと原付にエンジンをかけいつもよりスピードを上げて公園へ向かった。
いつもの駐輪場にいつもの通り山田君の原付きがある。
その隣にいつものように原付きを止めるとヘルメットを終い、いつものベンチへと走りだそうとした。
「あ…。」
山田君の原付きの少し先に見覚えのある自転車が止まっていた。
(陽子さんのだ。)
アズサの鼓動が早くなりだした。
もしかして…今一緒にいる?
アズサの足が思うように動かない。
それでも早くなる鼓動に突き動かされるようにいつものベンチへと向かう。
アズサはベンチのすぐ後ろにある建物の裏まで来ると今にも飛び出しそうな心臓を両手でグッと抑えるとそぉ〜っと顔を出しいつものベンチを覗いた。