No.4
〜4〜
夜10時。
店自体は、9時で営業を終えるけれど、この日片付けまでシフトに組んであったので最後まで店に居た。
片付けが終わるのは9時30分をすぎたころ。着替えをしたり軽く談笑をしていると大抵10時に店を出ることになる。
最初は怖いと思っていた警備員のおじさんも今では笑顔で挨拶ができるようになった。
「おつかれさまです。」
おじさんに軽くあいさつをすると駐輪場まで行く。
そこに止めてある一台の原付き。
アズサはその原付きの前までくると鍵を差した。
アズサの家は厳しいこともなく逆に両親に免許をとれば?と進められ高校3年になる少し前に原付きの免許を取ったのだ。
もちろん学校にはナイショだけど。
「お疲れ様ぁ〜。」
他のバイトの子とも別れエンジンをかける。
ポンッとヘルメットを叩かれた。
ビックリして頭に手をやり振り向くと彼が立っていた。
「山田君?!どうしているの?」
彼は今日営業時間修了で上がりだったから遅くても9時30分より前に帰っていたはず、なのになんでこんなとこに居るんだろう。
「どうしてはないんじゃない?せっかく待ってたのに。」
「あっ…。」
アズサは顔が真っ赤になるのを感じた。
彼は他のバイトの子が帰ったのを見て声をかけてくれた。それはアズサがナイショにしてと言ったから。
そして、待っていてくれた。
それは彼がアズサとの時間を作るためだということがわかったから。
どうしてと聞いた自分の不甲斐なさに顔を赤らめた。そして待っていてくれたうれしさで心が弾んだ。
「ありがとう…。」
二人は近くの公園へ移動した。
さすがに店の外で話していると警備員のおじさんにも怒られるし、なんだか落ち着かないからだ。
アズサは原付きを押し、彼は自転車を押して公園へ向かった。
公園のベンチに座り今日あったバイトの話や学校での話しをお互いにしていた。というよりはアズサが恥ずかしさと間が空くのを恐れて取り留めなく話していた。
「それでね…」「あのさぁ。」
アズサと山田君の声が重なった。
アズサはドキッとしながらも山田君の続きを聞くべく黙った。
「実は俺も原付きの免許とったんだ。」
彼は自慢げに財布から免許証を取り出した。
「とったの?すごいじゃん。」
アズサは見せて〜と手を伸ばすと彼はスッとベンチの上に立ち上がり取れるもんなら取ってみなぁ?と言わんばかりの顔をして免許証をヒラヒラとさせた。
ムッとしたアズサは意地でも見てやる!と勢いをつけ立ち上がるとベンチの上に飛び乗り腕を思いっきり伸ばした。
そのタイミングを待ってました!と彼はバランスの不安定なアズサをギュッと抱きしめた。
「うぎゃぁ!!」
免許証を取ることに必死になっていたアズサは突然の出来事に対応できず思いっきりバランスを崩した。
しかも色気のない声。
けれど山田君に支えられていたためアズサはベンチから落ちることはなかったが思いっきり彼の胸へ倒れこむことになってしまった。
「…っ!ごめんっ!」
あまりの事にとりあえず謝り身体を離そうとしたけれど山田君の腕に更に力が入り抜けられない。
山田君は免許証を持っていた手もアズサの背中に回すとアズサの髪に顔を近づけ思いっきり息を吸った。
飲食店でのバイトの後の髪はいい匂いといえるものではない。
油と食材の混ざったなんともいえない匂いがする髪の毛の匂いを嗅がれアズサは恥ずかしくなった。
「臭いでしょ。離して。」
言葉に力を入れてもう一度体を離そうとしたけれど、言葉ほど体には力が入らずまったく離れる気配はない。
「俺だって同じ。バイト先一緒なんだから気になるわけないじゃん。」
あ…確かに…。
とアズサは納得してすぐイヤイヤそうじゃなくて…。と思い直し一瞬でも納得した自分に小さなため息をもらした。
そのため息が聞こえたのか山田君が少し体を離すと顔を覗き込んできた。
「嫌だった?ごめん。」
彼にはそのため息が自分に向けられたものだと思ったらしく心底落ち込んだ顔で謝ってきた。
「違うの!そうじゃないの。なんて言うか突然でびっくりして…山田君は全然嫌じゃないから。」
アズサは慌てて誤解を解こうとアタフタと話し出したが、再度抱きしめられたため口が彼の体により塞がれモゴモゴとしか聞こえなかった。
「俺、あの日からずっとこうしたかった。」
あの日とは、付き合いだすことになった電話したあの日だろう。
「今までと変わんないと思ってた。ずっと一緒にバイトしてきたわけだし、知らない仲なわけでもないしさ。でも…。」
彼はそこまで話すともう一度息を吸って小さく長く吐くと更に強く抱きしめた。
「今日顔見たらすごく緊張して…いつもみたいに上手く話せなくて…」
アズサは今日を振り返った。
十分いつも通りだったしいつも通りの寒いギャグもやってたし緊張なんて微塵も感じさせてなかった。
「バイトしてるときもなんかいつも以上に気になっちゃって…。うまくオーダーもこなせなかったし…」
イヤイヤ山田君は十分いつも通り店の中心になりオーダーをこなしてたよ。
アズサは何がそんなに違うのかまったくわからなかった。
「それに…。」
まだ納得ができなかったことがあるの?完璧にこなして癖に…とちょっと呆れ顔で山田君を見上げた。
「あんなに嫌がられると結構傷つくんだよね。」
彼もアズサを見下ろしながら言った。
あ…。からかわれたときの事だ。
アズサはごめんと手を合わせてペコペコと頭を下げた。
そんなアズサの頭をポンポンと叩くともう一度抱きしめられた。
違うことを伝えなければ…
アズサは抱きしめられて顔を上げることができないので下を向いたまま気持ちを伝えようと話し出した。
「違うのアレは…なんていうかいつもはサラッと流せるんだけど前とは違うじゃない?今の状況だとなんだか気になりすぎちゃって…。
自分でも意識しすぎでみんなに強く言い返しちゃって…。山田君見たけどいつも通りだし傷付いたなんてなんて思わなくてっ。」
アズサはとりあえず違うという事を伝えるのに必死で山田君が「わかってるからもういいよ。」と言っている声が聞こえなかった。
「それに私だってすごく緊張してたんだよ。なんて言おうかとか、とりあえずドキドキしてたんだから。」
「次しゃべったら・・・・しちゃうぞ。」
「それに…って…今なんて言ったの?」
山田君が何を言ったのかききとれなくて上を向く。
同時に山田君の顔が近づいてきてアズサの唇と重なった。
それはすぐに離れていってアズサは目を閉じる事すら出来なかった。
触れるだけのキス。
「だから言ったじゃん。次しゃべったらチュウ〜するって。」
真剣な顔でアズサを見て言うともう一度顔が近づいてきた。
アズサは頭が真っ白になっていた。
突然の出来事に対応が遅れもう一度唇が奪われる。
でも、次のはさっきより長いキス。
アズサは目を閉じるとその甘い感覚に身を委ねた。
「アズサさんの唇はマシュマロみたいだ。プクプクだね。」
山田君はそう言うともう一度今度は唇の感触を確かめるように軽いキスを何度も繰り返した。
アズサは体から力が抜けだし、カクンと膝から落ちそうになる。
それを彼はしっかりと抱きとめた。
・・・・と言いたいところだが
「キャァ〜」「うわぁ」
二人は悲鳴と共に地面へ倒れこんでしまった。
痩せているわけではないアズサの体重には耐え切れず二人ともベンチの上から落ちてしまったのだ。
「いってぇ〜。大丈夫?」
「ん。平気。」
二人はお互いに打った場所をさすりながら立ち上がるとどちらとも無く笑いがこみ上げてきた。
「っもう。ちゃんと支えなさいよね。」
アズサはいつもの調子で軽く山田君の頭を叩いた。
「俺非力なんだから。あずささん支えるのなんて無理っすよ。」
腰が痛い痛いとおじいさんのようにトントンと腰を叩く。
アズサはもう一度頭を叩くと太っててすいませんね。と軽く舌をだしてあっかんべ〜をした。
その後はさっきまでのムードがうそのように普通に会話をし、もう遅いからとバイバイをした。
別れ際にもう一度キスをした。
やっぱりドキドキするけれどなんだか幸せな気分になれた。
アズサはニヤつく口元とほんのり赤くなった頬をここちよく風に撫でられいつもよりゆっくりと原付きを走らせた。
ちょこっとラブラブなとこ書いてみたけれど正直どう締めていいのかわからなくて大雑把に終わらせてしまいました。
書いてて恥ずかしくなっちゃいました…
すいませぇん。