No.3
〜3〜
夕方のお店は会社帰りのOLや主婦達でいっぱいになる。
アズサと山田君は主力メンバーだから(オープン当時からバイトしてるからね。)司令塔として周りを動かしていく。
「次、てりてりチキン2つ。」
山田君の指示か飛ぶ。
「肉ないよ。永山くん焼いて〜。」
アズサの指示で材料が切れることなく補充される。
「やっぱり二人は名コンビね。」
マネージャーの岡山さんがうれしそうに言った。
「「そんなことないです」」
二人の声が重なった。
「ほぉ〜らね。」
岡山さんがちゃかすようにみんなにむかって言うから周りから笑いが起こった。
アズサ達が付き合っているのは誰も知らない。
いつもなら流してしまえるこんな話題でも、付き合いだしたアズサには恥ずかしかった。
「違いますってばぁ〜」
いつもよりムキになって反撃してしまう。
それを山田君はジッと見ていた。
実は二人が付き合うことはバイト先では内緒にしておこう。と言うことになっていた。
だって、ますますちゃかされるし、付き合ったことがきっかけでバイト先に変な気を使わせたくないというアズサの意見だった。
山田君は隠すことないと言っていたけどアズサはみんなにいろいろ言われたりするのが嫌だったから。
(もう!この忙しいときにあのマネージャーはのんきなんだから。山田君のこと見れないじゃん)
チラっとアズサは山田君を見た。でも山田君はすでに仕事に集中していたのでアズサのことはみていなかった。
(なんだ…。なんとも思ってないのか。)
自分だけこんなに慌てていたのがちょっと不満だった。
--店が落ち着いて閉店に向けて少しづつ片付け始めた頃アズサは山田君と二人でシンクで二人になってしまった。
(どうしよう…)
いつもは強がって上から目線で年上目線で話していたのにいざ、彼氏と言う存在になるとどうしていいかわからなくなっていた。
「あのさ。」
山田君がアズサに話しかけてきた。
いつも通りに。と心に言い聞かせ、アズサは笑顔で振り返り
「何?どしたの?」
「…そんなに俺とのことなんか言われるのが嫌なの?」
山田君が目を逸らしながら聞いてきた。
「え??」
アズサはビックリした。
いつもはふざけたり、周りを盛り上げるのが上手な山田君がちょっと寂しそうに見えた。
「そ…そんなことないけど。」
いつもと違う山田君にアズサは戸惑ってしまった。
「山田君が嫌だったらかわいそうだな。と思って…」
とりあえず思いつきで話してしまった。
「嫌な訳ないじゃん。」
山田君はあきれた顔で考える事もせず答えた。
「それとさ。」
まだあるの?
アズサはちょっとドキドキしながら続きをまっている。
「その、山田君ってのやめにしない?渉でいいよ。」
え〜〜。
絶対無理。だって、はずかしいじゃん。それにみんなに怪しまれちゃう。
とアズサは思ったけど、そんなこと言ったら山田君がショックを受けちゃう。う〜ん…と悩んでから。
「努力します。」
とだけ答えるとシンクの中の汚れ物を洗い出した。
(なんだか山田君っていつもはおもしろい事とか意味不明なこと言ってみんなを楽しませてくれるけど、変に大人だな…心臓に悪いよ…)
アズサはすぐにみんなにバレそうだなぁ。と一つため息をついた。
厨房では山田君の言葉によってみんなから笑いが起こっていた。