No.22
〜22〜
アズサは渉の部屋の前で3分前から動けずにいた。
あの後、流れで順番にお風呂に入り、先に入った渉はすでに部屋に戻っていた。
中からは、お笑い番組なのかテレビからの笑い声が微かに届いてくる。
もともと、花火でオール予定だったアズサは着替えや化粧道具を原付きに忍ばせておいたので着替えなんかには何の支障もなかった。
しかも、もしかして…とお気に入りの下着を持ってきていた。
その時点で多少の期待が自分の中にあったのを渉に悟られるのでは…とドキドキしていた。
手がドアノブに触れる直前でガチャリと先に中からドアノブが回された。
開いた扉から渉が目を丸くしていた。
「び…くりしたぁ。何してんの?」
固まっているアズサをみて渉は不思議そうにあずさの顔を覗き込んだ。
「べっ…べつにっ。ちょうど部屋に入ろうとしたら突然ドアが開いて…。」
伸ばしたままだった腕を引っ込めると渉の横をすり抜けて部屋へと入った。
「俺、トイレ行ってくる。なんか飲み物も持ってくるね。」
クスッと言った感じで笑いながら渉は部屋を出て行った。
心臓がドキドキしたままのアズサはとりあえずベットに腰掛けると深呼吸をした。
荷物を置いてあたりを見回す。ベットに座っている自分が無性にイヤらしく思えてラグの上に座りなおしてみる。
さっきまでワタル座っていたのかほんのりと暖かい。
なんだかそれも変な気分でまた立ち上がるとどうしたものかとウロウロと部屋を歩きまわっていた。
「何やってんの?」
うしろから呆れ顔のワタルがお茶とお菓子を持って立っていた。
「何って…。なんかおちつかなくて。」
素直に白状するアズサを渉は抱きしめた。
「ホントだ。ドキドキしてる。」
これから起こることを思うと抱きしめられただけで、体がクラクラする。
「ねぇ。アズサ」
渉がアズサの顔を覗き込み真剣なまなざしで見つめる。
アズサはその視線から目を外すことができないでいた。
「俺、本当に好きだよ。アズサがすき。こんな気持ちになったのは初めてなんだ。だから…アズサを俺に頂戴。大切にする。他の男なんか入り込む隙が無くなるくらい俺でいっぱいにしてあげたいんだ。」
渉が深い、深いキスをする。
アズサの思考回路がだんだんと考えることを辞め始めた。
「ん……はぁ。」
甘い台詞と深いキスにアズサの体は痺れ言葉がなかなかでてこない。
僅かに残った思考でなんとか言葉を繋ぐ。
「花火は…?みんな心配してるんじゃないかなぁ。」
場違いな言葉を発してしまう。
でも、なんの連絡もいれずに予定時間を大幅にすぎていたことも事実。
みんなが心配しているんじゃないかと心に引っかかっていたことを口にだしてしまった。
渉は、心配性なアズサのことを理解してか優しく答える。
「あぁ。それなら大丈夫。ちゃんと断っておいたから。」
えっ?
とアズサは首をかしげる。
「今日は二人っきりで過ごすことにしたって。だからいけないって。」
咄嗟にアズサは渉から離れると真っ赤な顔を覆った。
「それって…つまり…。」
「まぁ。勘の鋭い奴だったら気づくかもね。」
ニッコリと渉が言う。
「もぉ〜〜。今度バイトにどんな顔していけばいいの?もっとなんかあるでしょ。言い方。」
アズサは渉がみんなに今日はエッチします。と言っているようなもんだと思うと床の上でのた打ち回っている。
そんなアズサを面白そうに見ながら渉が更に続ける。
「しかも…。アイツに。」
自慢げな言い方。
アイツって…。
「和泉君?」
「ビンゴ!俺のアズサを誘惑した罰だ。」
誘惑って…。
もう言い返す気力も残っていないアズサは唖然と渉を見上げているだけだった。
「…で、どうなの?俺今日もらっていいの?」
渉がアズサのよこにしゃがむとさっきまでの自慢げな表情は無く、真剣なまなざしを向けてくる。
アズサはあまりの恥ずかしさに俯いてしまう。
心臓がバクバクする。ドキドキをとっくの間に通り越してしまったアズサの心臓は飛び出るんじゃないかと思うほどの速さで鳴っている。
「………て。」
振り絞ってだした声が掠れ、わたるの耳には届かなかった。
「何?聞こえないよ。」
渉はアズサの口元まで耳を持っていくともう一度とアズサにせがんだ。
大きく息を吸ったアズサは目をギュッと瞑ると口を開いた。
「優しくして。」
口元まで持っていっていた渉には耳がキ〜ンとなるほどの音量。
以外にも大きな声が出たようだ。
うおぉ!と飛びのき、耳を押さえている渉にアズサはおかしくて笑い出してしまう。
「やったなぁ〜!!」
渉はアズサの弱点首をギュッと締める真似をする。
「キャァ〜!!触らないで。くすぐったいよ。あはははははぁ〜」
アズサは弱い首を必要に触られ涙を流しながら、笑い転げていた。