No.21
〜21〜
階段を上がる足が震えている。
不安と期待と困惑と。
いろんな思いがアズサの中を駆け巡っていた。
部屋に通されると、扉を閉めるのと同時に渉がアズサをベットに押し倒した。
激しいキスにアズサは戸惑う。
今はただ受身に。されるがままにされるしかない。
離した唇から甘い吐息とも取れる声が漏れた。
「感じてるの?」
優しい渉の問いかけにアズサは顔を赤らめる。
その表情に満足したのか渉はアズサの上から退けるとベットを背に床に座り込んだ。
「ワタルさん?」
アズサは不安そうに渉の名前を呼ぶ。
けれど渉は俯いたままだ。
二入の間に沈黙が流れる。多分ほんの数分だったのだろうけど、アズサにはとても長く感じられた。
「はぁぁ〜。」
大きなため息とともに顔を上げると、渉はアズサの隣へ腰を下ろした。
アズサも渉と同じように膝を丸め俯いていたのだ。
「顔上げて。」
フルフルと首を横に振るとアズサは渉の言葉を拒否する。
「ごめん。あんなキス気持ちいい訳ないよな。」
渉の言葉に再度首を横に振る。
「俺、アズサのあんな顔見てすげぇ嫉妬した。むかついたよ。でもそれよりも、アズサが離れていくんじゃないかって。不安のほうが大きくて。苦しかった。1時間延びるって言ったときも、俺と行くのが嫌なのかと思った。あの時は何気なしに装ってたけど体の中は引き裂かれるんじゃないかと思うくらい辛かった。俺、こんなにアズサが好きなんだって。
だから、後悔するのだけは嫌だった。だから待ってたんだ。」
アズサは俯いたまま渉の話を聞いている。
表情の見えないアズサの頭に手を置くと撫でながら渉は口を開く。
「アズサが好きなんだ。」
「誰にも渡したくないんだ。」
「私だって。ワタルさんが好きだよ。誰にも渡したくない。」
やっとアズサが顔を上げると涙でグシャグシャの顔がそこにはあった。
「ぷっ…。すごい顔してるよ。アズサ顔洗ってこいよ。」
アズサの顔が二人の間の空気をゴロッと変えてしまった。
アズサは洗面台の鏡を覗くとパンダ顔の自分がいた。
「最悪…。」
バシャバシャと顔を強く洗うとタオルでそおっと顔を拭く。
カタッと後ろで物音がしたかと思うと、渉に抱きしめられた。
「うわぁ!!」
と驚きの声になる。
「色気ねぇなぁ。」
うなじに口づけをしながら渉が鏡越しに覗き込む。
「ちょっと…びっくりしたぁ。見ないで化粧してないんだから。」
アズサは恥ずかしさからかタオルで顔を隠してしまう。
渉は悪戯に笑うと耳たぶを甘噛みしながら囁いた。
「何言ってんの?いまからアズサを食べちゃうのに…。今日は返さないよ。そのつもりでしょ?それに何でもするって言ったのはアズサだからね。」
一気にアズサの顔が赤くなる。
その変化を楽しむように渉はアズサの髪を撫でるとバスルームへと消えていった。