No.20
〜20〜
アズサの胸が瞬時に不安と困惑で多い尽くされる。
「あのとき…。花火買いに行ったとき…?」
アズサは言葉が上手くでてこない。
途切れ途切れながらも、伝えたいことを口から出す。
伏し目がちに渉が口を開く。
「資材の置忘れがあってさ。店のバックヤードに取りに行くことになったんだ。ついでに買出しに行ってるアズサを覗こうと思って、花火コーナーまで行ったんだ。」
渉は再度アズサを抱きしめた。
少し痛いくらいだったが、アズサは黙ってされるがままになっていた。
「そしたら、店員さんと話してるアズサの横顔をアイツがアズサをジッと見てた。あの目は好意のある目だよ。それにその後、アズサのアイツを見る目は…。」
そこまで言うと渉は黙り込んでしまった。
アズサを抱きしめる手が震えている。
「ごめん。」
アズサは咄嗟に謝った。
少しでも和泉君にときめいた自分への罰なんだと思った。
こんなに自分を好きでいてくれる人がいるのに、他の男の言動に心躍らされるなんて。自分はなんて不謹慎なんだと。自分の行動にいまさらながら胸が締め付けられる。
「私…ワタルさんのこと全然考えてなかった。」
アズサはワタルに買出しのときに起きた事を話した。
花火が無かったこと。
店員さんに無理に探してもらってある分すべてもらったこと。
その行動に和泉君がアズサを褒めたこと。
自分がその言葉にドキドキしたこと。
坊主の髪型が好きなこと。
「本当にごめんなさい。でも私が好きなのはワタルさんだから。それは何があっても変わらないから。」
アズサは言いたい事をすべて言って渉の背中に回した腕に力を込めた。
気持ちが伝わるように。
渉が自分から離れていかないことを願って。
「アズサさぁ。」
今まで黙って聞いていた渉が声を出した。
今にも消えそうなか細い声。
「なに。悪いのは私。なんでも言うこと聞くから。だから。」
そこで言葉を飲み込んだ。自分が招いた事態にずうずうしいことなんか言えない。この先を決めるのは渉次第。胸の中を飲み込んだ言葉が渦を巻いている。…嫌いにならいで。と。
「坊主が好きだったの?」
「えっ??」
素直に白状した話の答えがこれだった。
「だって俺、坊主じゃないじゃん。」
渉の頭は長いとまではいかなくてもそれなりの長さがある。耳にかかるくらいの長さだが、坊主かと聞かれれば全ての人がノー。と答えるだろう。
「坊主の人に目が行っちゃうの。」
アズサは正直に答えた。
「そっかぁ。俺坊主にしようかな。」
「それはダメ。ぜぇったい似合わないから。ワタルさんはそのくらいがちょうどいいの。それに外見が好みでもダメなの。」
アズサは力説しだした。
「確かに坊主が好きだよ。でもね、その人を本当の意味で好きなるかは別。内面がやっぱり大事でしょ。どんなに和泉君がかっこよくても、性格が悪かったら絶対に好きになれないもん。私はワタルさんの内面に惹かれたの。でも坊主は似合わないと思うからしないで。」
「じゃぁ、アイツが性格よかったらどうする?アズサ惚れちゃうってことなんじゃない?坊主で性格良かったらアズサのもろタイプじゃん。」
「…無理。いまさら無理だよ。だって私ワタルさんが好きなんだもん。どんなにタイプでも今の私の一番はワタルさんなんだもん。ワタルさんがタイプなの。私はワタルさんじゃなきゃダメなんだ。」
「それ…すごい告白だね。」
渉はクスリと笑うとやっとアズサを抱きしめる手を緩めた。
そして、耳元に唇をよせる。
ヘルメットが邪魔をして上手く届かないけれど渉はアズサに甘く囁いた。
その言葉を聞いたアズサはコクリと頷く。
二人は原付きを走らせた。前を走る渉の背中を見つめている。
心臓が張り裂けそうだ。
「俺ん家来て。花火なんて行かせない。」
その言葉にアズサは何を言おうとしているのかすぐ理解した。
今はただ、渉の後ろを付いていくだけだった。