No.18
〜18〜
大きなプレハブのような店内は外暑さと人の熱気を詰め込み、まるでサウナのような蒸し暑さだった。
「あっつぅぅ〜。」
隣でシャツの裾をパタパタとうちわ代わりに顔に仰いでいる。
アズサはさすがにそんなことはできないが、ついでにうちわも買っていこうと思った。
二人で手分けして注文されていた花火を探す。
「なんなの?この爆裂飛び出せ30連発!って…。」
吹き上げ花火や線香花火などオーソドックスなものから商品名まで指名してくる奴もいる。
しかもこの爆裂飛び出せ30連発!には相当手間がかかった。
人気商品なのか売り場には一切でていない。
店員さんに確認してもらって、裏の倉庫まで探してもらってやっと見つけた。
「10本しかないけど…。」
店員さんが申し訳なさそうに言ってる。
10本あれば十分だよ。
実際2本くらいでいいんだから…。
でもせっかく探してもらってたった2本ってのはなんだか気が引ける。
「ちょうど10本欲しかったの。ありがとう。」
となりの和泉君はえ?ってな顔で見てる。
いいから。と目で合図を送ると店員からその花火を箱ごと受け取った。
「わざわざありがとうございました。こんど是非食べにきてくださいね。」
制服姿を見ればどこで働いているか解るはずだから店までは言わなかったけどその店員さんはありがとうございます。と笑顔で去っていった。
「ジャケ買いっすか?そんなにいらないんじゃないんですかぁ?」
和泉君が横から手を出してアズサが持っていた花火をかごへ入れた。
「だってあんなに親切に探してくれて、しかも10本もあるのに申し訳なさそうなんだもん。なんだか断りづらくって…。いいじゃん。あればあるだけ花火やればいいんだからさ。」
アズサはそう言うと和泉君からかごをとりあげてさっさと歩き出した。
和泉君はあきれた顔をしながらアズサの後を付いて来た。
「アズサさん。」
後ろからの声にアズサが振り返ると和泉君が追いついてきた。そのまま、何も言わずにかごを奪うと通りすぎてから和泉君は振り返った。
「アズサさんって優しいですね。そういうのすごくいいと思います。」
それだけ言うとレジへと向かって歩いていった。
アズサはボッと顔が赤くなるのが解った。顔から火が出るとはこのことなんだ。
「ちょっと!!からかわないでよね。年下のくせに…もうっ」
正直ビックリした。アズサはいっぱい、いっぱいだった。
あんまりサラッと言ってのけたもんだから、いつものように 当たり前でしょ!
てなおどけた受け答えができなかった。
アズサは和泉君に追いつくと思いっきり背中を叩いた。
「…そういうの良くないと思います。」
泣きまねをしながら和泉君は笑っていた。
アズサのドキドキが落ち着きを取り戻した。いつもの和泉君に戻っていたから。
「今度からは呼び捨てにするからね。花火で狙い撃ちにしてやるんだから!覚悟しなさいよ和泉!」
そういうとアズサはもう一発背中に拳を叩きこんだ。
今度は軽く。
「お先!」
アズサはみんなから預かったお金をレジのところに出すと本売り場のコーナーへと歩き出した。
「ちょっと…アズサさん袋詰め手伝ってくださいよぉ〜。」
後ろから焦った声が聞こえたがアズサは振り返ることもせず本の山へと消えていった。
「マジかよ…。」
お姉さんをからかうもんじゃないな。と和泉は心から反省した。