No.16
〜16〜
そのまま渉はアズサの頭に、耳に息がかかるくらい近づくと静かに話し始めた。
「ほんとにごめん。俺さ、いつもアズサって何言われても明るくて注意されても一生懸命頑張ってたからさ、てっきり…なんっての?きつく言っても平気っていうか、逆に言われれば言われるほどやる気になるっていうか…。」
「きつく言われて伸びるタイプだと思ってたの?」
アズサは言いにくそうな渉に変わって口を挟んだ。
「そう。でも違ったんだね。褒めたら伸びるタイプなんでしょ。」
渉はアズサの髪に指を絡ませながら愛おしそうにその髪に口付けをする。
「私はわたるさんが思ってるような強い女じゃないよ。多分嫌になるくらい女々しいし、すぐ泣くし、甘えん坊だし、それにすっごく束縛しちゃう。」
自分事をこんな風に言うなんてなんだか恥ずかしくて耳まで赤くなる。
「うん。俺だってすっごく束縛するよ。俺、バイト先の気の強いアズサも好きだけど二人でいるときのアズサが一番すきだ。守ってあげたくなるんだ。」
髪をすいていた手を体に回しギュッと抱きしめられた。
「バイト先でさ、あんまり気にかけたり、優しくすると鬱陶しいんじゃないかと思って…。だからできるだけ付き合う前みたいにジョーダン交じりに接したんだけど。
アズサが束縛していいって言うんなら本当にしちゃうよ?資材搬入とか一緒に行っちゃうよ?
他の男となんて行かせないんだから。」
うちのバイト先の資材搬入口は店の入口から500メートルくらい離れていて正直運ぶのが大変。しかも重たいものになると13キロ近くもあって、大抵男子とペアで行かされるのがいつものことだ。
そんなことさえも一緒に行きたがるなんて…。
アズサはなんだかおかしくて顔中がにやけていた。
「俺、すっごく嫉妬してたんだから。俺に声をかけないアズサに苛立ちさえ覚えてたよ。」
あれは、早く回りに溶け込めるように仕事を覚えてもらえるようにアズサなりに考えていろんな後輩に声をかけては搬入を手伝わせいたにすぎない。
いつも ほら、○○君行くよ〜!と姉さん風吹かせて呼んでいたんだから、なんて傲慢な女って思われてるんじゃないかって内心ドキドキしてたのはアズサのほうだった。
それが嫉妬してたんて…。
「ふふっ。」
アズサはついうれしくて笑い声が漏れてしまった。
「あ〜!!笑っただろう。このやろうぅ〜。」
渉はアズサの両手を片手で封じると反対の手でわき腹をくすぐりだした。
「きゃあ〜〜〜ごめんっご…ごめきゃははははっ。」
くすぐられるのが苦手なアズサは場の雰囲気もあったもんじゃないほど大声で笑い出した。
遠くのブランコで遊んでいる子供たちにも聞こえる何事かと思うほども大声で。
「人がせっかく、意を決して言ったのに。」
渉はベンチの上に膝を包むように小さくなって座ると拗ねる子供のように揺ら揺らと揺れていた。
アズサはまだ笑いが止まらないけれど、そんな渉が愛おしく思い…そんな渉を好きでたまらないんだど再確認すると自分から渉に口付けをしていた。
渉は目を見開いてビックリしていたけど猫のように目を細めて満足げな笑みを湛えるとアズサを膝にのせ抱きしめた。