No.13
〜13〜
はぁ〜。
アズサは外に出ると大きなため息を出した。
「やってらんない。」
イライラをどこへぶつけていいのかわからないまま、自分の気持ちを持て余していた。
いつもなら絶対に飲まないミルクティーを一口飲んだ。
「まずっ!!」
わかっていたけどやっぱりまずい。
レモンティーにしとけばよかった。とアズサはミルクティーの缶を横においた。
「またやっちゃったよ。」
今度は落ち込んでいる。
どうして好きな人の前だと可愛げがなくなるんだろう。
どうして好きな人の優秀さを認めたくないんだろう。
彼氏になったら、きっと彼への気持ちは変わると思った。
対抗意識はなくなるはず。彼の実力を認めているからこそ彼を好きになったんだから。
でも、現実には同じ仕事仲間としての競争心が彼氏になったからといってアズサの中から消えることはなかった。
最初のうちは平気だった。
周りにも隠してたし、そっちに気がいって渉からの言葉はほとんど受け流していたにすぎなかった。
でも、今は違う。
上と見ていた渉と付き合いだしたことでアズサの心には釣り合える彼女になりたい。という気持ちがあった。
仕事の上でも渉と同じくらい頼りにされたい。誰からも信頼してもらえるような人になりたい。
アズサは渉に追いつこうと一生懸命だった。
バイトだって暇なときでも何か見つけては仕事をしていた。
アズサなりの努力だった。それなのに…。
「はぁ〜〜。」
アズサはもう一口ミルクティーを口に含む。
険しい顔をしてそれを喉の奥へと流し込むとうぇ〜と舌をだした。
「やっぱりマズイ…。」
そういうと近くにあった溝へ流そうと缶をさかさまにした。
「ちぃょいっとまったぁ〜。」
後ろから突然渉の手が伸びてきた。
「ちょ…ビックリしたぁ〜。わたるさん?なんでいるの?」
確か休憩は次のはず…。
アズサがビックリしていると渉は飲み残しのミルクティーをグイッっと一気に飲み干すとにこやかにアズサにレモンティーを差し出した。
「これ…。なんで?」
アズサは戸惑いながらその缶を受け取った。
「アズサさ、ミルクティーのめないじゃん。なのに買うなんで絶対おかしいからさ。なんか様子がきになって。休憩交代してもらったんだ。」
そういうとアズサの横に腰を下ろした。
「俺、ミルクティー好きじゃん。きっとなんか俺にあるんだろうなぁーと思って。」
話しながらアズサの缶のフタを開ける。
「それに、なんか怒ってるような疲れてるような悲しんでるような…とりあえず顔が暗かった。そんな顔するのなんて俺とのことに決まってるんだから。」
「何それ。すごい自信家。」
アズサは笑いたくなるのを堪えてプイッと横を向いた。
「あたりまえじゃん。アズサの心をどうにかさせるの俺だけなんだから。知らなかったの?」
ニヤニヤと覗き込んでくる。
「やめてよ。」
アズサは顔を赤くしながら抵抗する。
「んじゃぁキスして。」
渉がタコのように口を前に突き出して迫ってくる。
それを咄嗟にジュースの缶で受け止める。
ジトォ〜と不満げな顔が缶の横から覗いていた。
「ケチ…。」
渉はすねた様に地面をいじりだした。
「そうだよ。わたるさんのせいなんだから。」
アズサは渉を見ないようにしながら口を開いた。
「私…。ほめて欲しかったのに…。」
「がんばったのに。認めて欲しかったのに…。」
それだけ言うと膝に顔を隠して俯いてしまった。
渉は目を点にしてアズサを眺めている。
「ごめんね。」
渉はアズサの頭を撫でることしかできなかった。