No.12
〜12〜
「あっついっ!!」
夏休みになって、平日の昼間からバイトに勤しんでいる。
お陰で、ほとんど遊ぶ暇のないくらい。
救いになっているのは同じバイト先に彼氏がいてくれたこと。
と思っていたけれど…。
「遅い。まだ上がってこないのか?」
渉が厨房に向かって渇を入れながら出来上がったバーガーを包みカウンター(接客係り)へとまわす。ピークのお昼を迎えて厨房はひっきりなしにオーダーが飛び交っていた。
「いま上がる。…はいっ!」
アズサは次々に渉から入ってくるオーダーをこなしていく。けれどやはり夏休みとあって、子供連れの家族に暇な学生。いつも以上のお客の数に厨房は目の廻る忙しさだった。
適格な渉とアズサの指示に他の子達も答えるように動いてはいたけれどそれでも追いついてこない。先の先を読んで資材の補充を怠ることなくオーダーをこなした結果…なんとかピークは乗り切った。
「ああぁぁ〜。しんどかったぁ〜。」
アズサは調理台の上を片付けながら、大きなため息をひとつした。
他の子たちは先に軽い水分補給などをしている。
「お疲れ。」
渉がアズサに水の入ったコップを持ってきてくれた。
「ん。ありがとう。」
調理台を綺麗に拭きあげ、渉から水を受け取る。
「今日はかなり忙しかったね。売り上げも結構あるよ。でもさ。もう少しうまく回せたんじゃないかなぁ。」
渉が拭き残ったソースをペーパーでゴシゴシとこすっている。
「何?私が下手だって言いたいの?確かにわたるさんよりは全然劣っているかもしれないけど資材も切らさなかったし、わたるさんのオーダーも確実に30秒以内には出したはずだけど?」
「確かにそうなんだけどさ。俺ならあと1万は稼げたかな?」
悪戯っぽく渉がアズサのほっぺを突きながら自慢げに言った。
アズサたちのバイト先では30分単位で客の人数と売り上げから算出した平均単価がでる。
平均単価が高い程、効率よく店がまわっていた証拠になる。
「そうですかぁ…。」
ジロッと渉を睨む。
いつもなら軽く流せる冗談も疲れている今は苛立ちがこみ上げてくる。
「じゃぁ、明日は代わってくれる?でも、私マスターはやらないからね。」
マスターとはカウンターから注文を確認する役のことだ。
渉はその判断力と行動の早さから店側からも一目おかれているため、高校生ながらにその大役をほとんど任されている。
マスターがうまく出来なければ店は廻らない。
アズサも入ることがあるのだが、正直渉のように上手くはできない。
それを自分でも解っている分、人に言われるのは負けず嫌いのアズサには悔しかった。
まして、自分の彼氏だ。
付き合いだしてから渉とは平等になった。といつのまにか勘違いしていた自分に気づかされた気がした。
バイトとはいえ仕事は仕事である。
勉強は自分のためだが、仕事は誰かのためにもなる。
人のために働けるのがアズサはうれしかった。
だから、人一倍頑張った。
店の中での位置は、渉の下。
どうあがいても渉を抜くことはできそうもないことはわかっている。
だからよけいに悔しい。
疲れと、変に頭を働かせてしまったことでアズサの心にはモヤモヤとした気持ちが生まれていた。
「もういいよ。私休憩はいるから。」
そう言うとアズサはエプロンを渉に渡すと休憩室に向かった。
「そんなに怒んないでよ。」
後ろからは少し落ち込んだ渉の声が聞こえていた。