No.10
〜10〜
要するに。
陽子さんは実はバイト先のマネージャーと付き合っていた。
陽子さんの一目ぼれ。それをマネージャーと仲のいい山田君に相談して仲を取り持ってもらっていたらしい。
そしてあの公園での事を目撃した昨日。やっと付き合えることになった事をバイト先で報告したものの、詳しく説明できずアズサが来る間話しを聞いていたらしい。
もちろんアズサが来たらアズサにも話すはずが勘違いで帰ってしまったアズサのせいで大きなすれ違いが生じてしまった。
要はアズサの勘違い。
「そうだったんだ。」
アズサは自分が恥ずかしくなっていた。なんで山田君を信用できなかったんだろう。
信じてあげられなかった自分がすごく恥ずかしい。
「ごめんね。アズサさんに心配かけて。」
山田君はペコッと頭を下げた。
「私の早とちりで泣き叫んじゃって…。私こそゴメン。」
アズサも顔の前で両手を合わせると頭を下げた。
「いいよ。俺がちゃんと先に説明しなかったんだから。陽子さんに内緒にって止められてたんだ。アズサさんには付き合うことが決まってから話すって言って。」
そう言うと罰悪そうに頭をかいた。
「でもさ。よかったね。付き合えて。」
アズサはにっこり微笑んだ。
山田君はアズサの笑顔をみて安心したのかアズサを強く抱きしめた。
突然のことにアズサはビックリして体が固まったけれど手を彼の背中に回すと彼のにおいを思いっきり吸い込んだ。
「さっきのアズサさん。俺嫌われたのかと思ってすげぇ不安だったよ。正直パニくった。泣いた顔がすごく苦しかったよ。」
「ゴメン。」
アズサは自分が不安になっていたことも忘れて山田君を不安にさせたことを後悔していた。
「アズサ…。」
ため息のような消えていく声で山田君はアズサの名を呼んだ。いつもの“さん”付けはなくなっていた。
「アズサ。俺アズサのこと本当に大好きだよ。」
今度はアズサの顔を見てしっかりとした声で言った。
アズサは一度俯くとグッと顔を上げ彼の顔を見た。
「わたる…」
そこまで言うと恥ずかしさで顔が熱くなるのがわかった。
「…さん。」
「ええぇぇぇ〜。」
ガクッと肩を大げさに落とす。
「ゴメン。だって恥ずかしいんだもん。」
いざ呼ぶと難しいもんだ。
「ほらっ!それに見た目もわたるよりわたるさんって感じだし。絶対に似合ってるよ。」
苦し紛れの言い訳。
「それって俺の顔がおっさんくさいってこと?」
ジロッと横目で睨んでくる。
うっ…と言葉に詰まってしまった。
確かに初めてバイトの制服姿を見たときは店長さんかと間違えてしまうくらいだった。
でも顔だけじゃない。仕草や言葉遣いも大人びて見えるからしょうがないんだよね。
「まぁいいよ。山田君よりはたいした進歩だし。」
そう言うと笑顔になった。猫みたいなうれしそうな笑顔。
「もう一回呼んでよ。」
山田君…改めわたるさんはアズサになぜか仁王立ちになってお願いしている。
「わたるさん!」
そう言うとアズサは渉に飛びついた。
「大好きだよ。わたるさん!」
「俺も。アズサが大好き」
そう言うと二人はそっと唇を重ねた。
初めてする深く繋がりあえるキス。
その感覚に戸惑いながらアズサは幸せの雲の上を歩いているようなフワフワした気分の中にいた。
昨日までの苦しさが嘘のように今のアズサの心は弾んでいた。
「ねぇ、もう俺我慢できないよ。」
「え?」
何が?と聞き返す暇もなくアズサはベットに押し倒されていた。
ええぇぇぇぇ〜〜??!!
「ちょっっ!!何してんの?」
突然の出来事にアズサはパニック
なっ!なんだって言うの?
せっかく疑いが晴れてスッキリできて、幸せな気分だったのに。
なんでそれをぶち壊すようなことしてんの?何?今頃疑ってたことに怒りがこみ上げてきたとか??
とりあえず謝っておくのが妥当かな?
「あのさ?わたるさん。疑ってごめんね。怒らないでね。本当にごめんね。だから機嫌なおして?」
でも渉はピクリとも動かない。
アズサをベットに押し倒したまま首筋に顔を埋めたままだ。
「あの…。わたるさん?重いんだけど。」
重さに耐え切れなくなってきたアズサは手で渉の胸を押しながら苦しそうに言った。