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英雄の処女たち Ⅰ ─運命の覇者─  作者: 遠野 葉月
第2章 告白
7/14

詰問


「っ、う………………」


 ────長い、夢を見ていた気がする。


 彼は、途端に訪れた焼けつくような痛みに、思わず表情を歪めた。


 息を止めてその痛みに耐えた後、長く深呼吸をする。1つの感慨が胸に去来したのは、その後だった。


 ────生きている。


 その事実を噛みしめてから、ゆっくりと目を開く。最初に目に映ったのは、アイボリー色の天井と穏やかに白熱する照明だった。


 痛みを堪えて首を動かし、光の差す、窓があると思われる方に目を向ける。そこにあったのは、活気の伝わってくるような下町の風景と、その奥に聳える白亜の宮殿────



 ────────ここは、どこだ。



 遅まきながらそのことに気付き、勢いよく飛び起きる。物凄く痛かったがそんなことを気にしている場合ではない。


 少なくとも、彼の故郷のシェラフではない。窓に歩み寄りながら考えを巡らせる。あの、大理石でできた宮殿を持つ国は、確か────


 窓枠に手をかけ、思い切り──と言っても、ケガをしている今ではたかが知れているが──力を込める。しかし、観音開きのはずの窓は、押しても引いてもびくともしない。左右の木枠の間に微妙に空間ができているので、観音開きを模した嵌め殺しという訳ではなさそうなのに、だ。


 よろめきながら窓から離れ、右手をきつく握る。砲剣は取り上げられているようだが、窓1つを壊すくらいなら魔法だけでも充分だろう。乾いた喉を震わせながら、呪文を口にする。


「カタスティ・イズ・ウェッジ────」



 ────その時。



 背後で、ばたん、というやや騒々しい音がした。次いで、涼やかな声が響く。


「あー、壊して逃げようとか考えないで下さいよ。そんなことされたら私が怒られるんですから」


 驚いて振り向く。彼の手中で増幅されつつあった魔力が、はぜて消えた。


 金髪碧眼の少女だった。薄青いブレザーとプリーツスカートに身を包んでいる──学院の制服だろうか。持っていたトレイを脇のサイドテーブルに置き、再び彼に向き直る。


「ここはアンズロード領国の首都ノークエンですよ。ちなみにあなたと会ったのは、シェラフとアンズロードの中立域です」


「…………そう」


 自分でも驚くほど落ち着いた声が出た。その横をすり抜けて窓の前に立った少女が、窓枠に顔を近付けて指を伸ばす。そして、せいぜい2インチ四方程度の小さな印字紙を爪でぴっと引き剥がした。


 それを彼の方に向け、少し誇らしげに言う。


「あなたが出られなかったのはこれのせい。窓やドアを開かなくする魔方陣です」


「…………そんなの、学院では習わなかったと思うけど」


「作ったの私ですから」


 なんと言い返せば良いか判らずに黙り込む。確かに自分で新しい魔方陣を開発するのは難しい──彼女が秀才らしいということは判った。しかし、それでも1つ大きな疑問が残る。


「────なんで君は、僕を助けたの?」


 用済みになったらしい魔方陣を弄んでいた少女が、ぴたりと動きを止めた。それをくしゃりと握りつぶし、笑みを消して呟く。


「…………別に、助けた訳じゃないですよ」


 その手中で、寿命を終えた魔方陣が淡く輝きながら崩壊する。


「本意ではなかったとしても、あなたは私の妹を傷付けた。だから私は、どんな理由があろうともあなたを今すぐ許すことはできない。……けど、私たちの間でこれだけは決めたんです。なんでああなったのかくらいは聞かせてもらおう、あなたを助けるか見知らぬふりをしてその辺に放り出すか《暗黒の光明(ダークレイライト)》に突き出すかは、その後で決めよう、って。だから────話して頂けますか?」


 静謐な雰囲気を湛えた双眸に見据えられながら、彼は、脳裏で思う。




 ──────逃げる場所を、間違えたかもしれない。






     *




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