あなたを見ていたい
「それでねーその時のシウが可愛くて可愛くてー」
「そうなんだー、それでそれで?」
ニマニマしながら俺のことを語っているのは母のレヴァ、そしてその話をニコニコしながら聞いているのが森で俺を助けたユノン。
「可愛いんだけどずっと無愛想なのよー」
「そうなんだよなーご飯の時しか俺たちの方に来ないんだよなー、食い意地だけはすごいんだよ」
俺のことを勝手に食べることにしか興味がないやつにしたてあげたのが父のフィズ。
「そうなのかい?シウーきみ食いしん坊なんだー可愛いとこあるじゃないか」
ユノンが俺の頬をプニプニとつつく。
うざかったから手をブンブンと振って追い払う。
すると突然ユノンが話を切り出した。
「あ、そうだシウと話したいことあるんだけど2人にしてくれない?」
「いいけど、三歳の子供となにはなすの?」
「まあいろいろだよ」
「まあいいけど、それじゃごゆっくり」
フィズとレヴァは椅子から立ち上がり部屋から出て行く。
「さてと…」
昨日のことでなんか言われるのか?めんどくさいな、俺は人とか関わりたくないんだよ。
「昨日の魔獣の話だけど」
「魔獣?」
「昨日君を追いかけてたやつだよ」
ああ、昨日の大仏みたいな奴かあれ、魔獣って言うんだな。
「あれがどうしたんだ?」
「魔獣っていうのは人間が本能的に恐怖を覚える生物なんだ」
確かに最初は怖かったけど。
「で?」
「君はそんなのに向かって大の字に寝っ転がってたんだ、あれはどういうことだい?」
「あの時言っただろ俺は死にたいの」
それにあれくらいだったら目をつぶれば耐えれる。
「その歳でか…」
「なにが?」
「いや、なんでもないや」
意味ありげに言いやがって、そこまで言われたら気になるだろうが。
そしてユノンは話を急にそらすように喋り始める。
「それにしても君その歳でよく喋るんだね」
人一倍おしゃべりな奴がそう言ってくる。
「お前には言われたくない」
ーーーーーーーーーー
俺が自殺しようとしてから数ヶ月が経った。
あれから何度も自殺をしようとしたがその度、何処からかユノンが出てくる。
本当になんなんだあれは…
まあいい、今回は違う。
今日はユノンはこの家に来ていて、しかも今はフィズとレヴァと話し疲れて寝てしまっている、フィズとレヴァも寝る準備に入っている。
もうすぐこっちに来て俺を寝かしつける態勢になってくるからその間に森に入って、死ぬ!
「急がなきゃ…」
前のことがあって窓はあかないようになっているのでフィズとレヴァがよそを向いている時に玄関から出る。
そして急いで森の中に入って行く。
「よし…あとは、あの怪物を見つけるだけ…」
この前はいきなりでビビったけどあれくらいなら目をつぶればなんとか乗り切れる。
俺は前出会った大仏みたいなのを探して歩き始める。
深く、もっと奥深くへと足を進める。
10分、20分と探して回るが何処にもいない。
「何処なんだよ…早く、早く殺してくれよ!」
そう叫んだ瞬間後ろの方からガサッと草と枝を踏む音がする。
「いた!」
俺は勢い良く後ろを振り向く。
そいつは前のやつとは全く違う姿をしていた、目を大きく見開き歯を出して不気味に笑っている、とにかく気持ち悪い姿をしている。
そいつが視界に入った瞬間全身の筋肉が固まる。
俺の中の全神経が逃げろと叫んでいる。
だが足が動かない。
なんなんだよあいつ!前のやつと全然違う!
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!無理無理無理無理無理無理無理無理!
目をつぶるとか無理!つぶったら殺される!
そいつはピクリとも動かず短い手を俺の方に向けて大きな目をこちらに向けている。
早く…早く逃げないと、じゃないと…
嫌だ嫌だ嫌だ!
そう思い後退りをするがそれ以上動かない。
なんで!うごけ!動けよ!
俺がその場から動けずにいるとそいつの目が急にバッと見開かれる。
「ひぃ!」
今まで必死に堪えていた声が出てしまう。
するとそいつは口を大きく開きニタァと不気味に笑う。
そしてふっと風が吹く、するとそいつが一瞬にして消えた。
「消え、た…?」
「アーガッ、ア、ア」
「うわああああああ!」
突然視界の真正面に現れた化け物に驚き倒れこみ頭を抱えて叫ぶ。
「なんでぇぇ!おれがぁぁ!こんなことばっかぁぁああああぁぁぁ!」
叫ぶ俺をケタケタと笑ながら小さな手を振り上げる、すると小さな手だったのが急に大きな手になる。
そしてそいつはその大きな手を俺に目掛けて叩きつける。
「ぐあああああああ」
わざと外しやがった!あいつ苦しむ俺を見て楽しんでやがる!くそ、ああ、いてぇ痛い痛い痛い痛い痛い!
「やめろ!うぐっ…」
逃げようとするが押しつぶされた足が痛い、痛すぎる。
そいつはまたケタケタと笑う。
そしてとても大きくなった腕を再び上に振り上げ、振り下ろす。
「うっ…」
死を覚悟し目をつぶる、がいつまで待っても意識がなくならない。
「…あれ?」
ゆっくりと目を開けそいつを見るがそいつは間一髪のところで手を止めている、そしてゆっくりと体が二つに分かれていく。
「大丈夫かい?」
聞いたことのある声、あの時と同じだ。
「あ…」
朝日に照らされ少し眩しい、でも、まだ見ていたい、ああ、
神々しい。
俺はそこで意識を手放した。




