ナルシストの悩み
「ねぇ、私の恋の悩み事聞いてくれますか?」
「え!?恋?」
いきなりの相談に驚いた
まさかあの黒髪ロングで、誰にでも優しくて、キリッとしてて、美しい、まさに誰からも愛される友達が恋煩いをしてるなんて。
「その人は…」
「その人は?」
「きれいな黒髪ロングで誰にでも優しくて、キリッとして美しいこの私。そう、この私!」
驚きすぎて驚けなかった。
「自分自身に恋したの?」
「そう!私は私の事が好きで堪らないの!鏡にうつる私の顔、髪の毛、瞳、その全てにうっとりしてしまうのよ!いいえそれだけじゃありません。誰かに話しかけたときの私の声、可憐な仕草に胸がときめいてしまうのよ!ああ……」
「…どうしたの?」
「今窓ガラスに私の姿が映ってたの…」
「…もしかして、見とれてたの?」
「…はい♡」
こりゃやばい。気が気じゃない。
「そこで、あなたに相談したいことがあるの。どうしたら私は私と愛し合う事ができるのかと言うことです。」
聞いた限り、かなりの無理難題のようだ。愛することはできても、愛し合うことはできないからだ。
しかし、彼女のあまりにも真剣な眼差しに対し、思考を停止させて無理と答えるのもひどい話だ。
考えた結果、変なことを思いついた。
「イメチェンしてみない?例えば男装とか」
「イメチェン?」
「要は自分の容姿や性格が好みなのが問題だよね。ならそれを一変取り払ってしまえば、悩むことも無くなるよ」
「…でも私が考えてるのは私そのものの愛。つまり『私との両思い』がどうすれば叶うか、よ」
冷静に考えたら答えになってなかったな
「…まぁまぁ似合いそうだからぁ、ちょーと見てみたいと思ったから口に出た答えだったけど、無理だったかぁ…」
「…確かに私って男装似合いそうだわ…。やってみましょう!」
オッケーが出たので放課後男装をしに街にでた。
そして…
「ふわぁ、かっこいい…」
彼女は自分の男装した姿に瞳を輝かせていた。彼女の格好は長かった髪を一つに結び、さらしを巻いて胸を抑えたその上に執事服を身にまとっていた。(執事服は私の趣味だが)
顔つきは明らかに女だけど、そこがとても凛々しくみえる。
突然、顔つきと声音を変えて、鏡に向かって話し始めた。
「お前は俺のすべてだ。全身全霊をかけてお前を愛する。この気持ちは本物だ。だからお前と一緒になりたい!」
彼女と彼女が映った鏡はそのまま熱いキスをしてた。しみじみと人を愛することってすげぇなって思った。
ある程度時間が経って、彼女は感謝を述べていた。
「ありがとう。あなたがこんな素敵なことを思いついてくれて…」
そう言った彼女はまだ何か思い悩んでいたようにみえた。その時、ある話を思い出した。ナルシストの語源になったとされるナルキッソスの神話だった。
水面に映った自分自身に恋をしたナルキッソスは叶わぬ恋に絶望してそのまま自殺したという話だ。…もしかして彼女も…
そう思った瞬間、彼女に抱きついていた。
「自殺なんてしないで!叶わぬ恋で良いじゃないか!片思いしてる人なんて、いっぱいいる!だから…そんなに思いつめないで!」
その片思いをしてる人ってのは自分のことかもとぼんやり思った。彼女は私の顔を相談しに来たときより遥かに真剣な眼差しで覗き込んでいた。そして口を開いた。
「綺麗だ」
「………へ?」
「君の瞳に映った私の姿が…綺麗だ」
何を言ってるのかよくわからなかった。
「鏡や写真やビデオで映ってたどの姿の私よりも、君の瞳の私がこの世で一番美しく見えるよ」
「ひゃ、ぁ…う…」
全身が熱くなった。
「大丈夫、自殺なんてしないさ。私、考えていたんだ。私は自分の姿が好きです。女の身でありながら、自分のような女性が好きなんだと思ってました。ただ、私の男装を見たとき、私は普通に男も好きなんだって気がついたの。どういうことかわかります?」
「?」
「私はバイってことなのです。どういうことかわかります?」
「へ?」
「全人類を愛することができると言うことです。つまりあなたを愛することができる。」
「う…うん」
「心配してくれてありがとう。ほんとはこのまま自分と愛し合えないままだったら死んでやろうと思ってたわ。でも、自分以外も愛することが出来るんだって思うことができてとても嬉しいの!もし、こんな、浮気ばかりの女でよければ!」
なんだか嬉しくてほんの少し涙出たけど、嬉しかった。