取立て屋
借金返せと取り立てるやくざのように
あの人を返してって私は叫ぶ
誰でもない、相手もわからない、
過去の私に
あのとき彼に別れを決断させてしまった私に
それを引き止めることをしなかった私に
最後なのに言いたいこと、伝えたいことなにひとつ
ぶつけようとしなかった私に
いまだに憤っている
返せと言われたって元から彼は貴方の所有物じゃないよって
こころの私が言う
かつては所有物と見なされるのが嫌だった私が
かつては独りがお気楽だと心の底から思っていた私が
かつては恋人なんかいらない、用途別に愛人を数名用意してあればいいと語っていた私が
かつては惚れ込んで尽くしてくれたのに今じゃ空を自由に飛ぶ鳥のような彼に
いまだに嘆いている
万引きした商品返せと追いかけ回すドラマのおばちゃんのように
お願いだから戻ってきてと私は泣きじゃくる
私の部屋からはどこからか彼の匂いがする
誰も呼んだことのないはずの私の部屋から大好きな香りが漂う
私は匂いフェチで足の指の間を愛でるのが好きだ
そんな私にさらに特殊性癖の芽を植えていったのが、彼
そんなことまで思い出したくないのに、思い出させる匂いで
いまだに彼を愛している