お詫びー今月号の『現代吸血鬼の手続き』は休載です。
【読者のみなさまへ】
『月刊! イモータル』今月号にて掲載される予定でした『現代吸血鬼のすべて』は、次号のテーマをめぐり、著者がヴァンパイア・ハンター協会に呼び出されたため、お休みになります。
読者の皆様には、深くお詫び申し上げます。
憶測にしかなりませんが、次号のテーマは、おそらくは『吸血鬼とヴァンパイア・ハンター』です。
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本誌では実際に休載だったので、休載になります。
というのもなんですから、編集部からルークさんのお話でもひとつ。
最初にお会いしたころのルークさんといったら、そりゃあもうごってごての『吸血鬼』でした。ルークさんはれっきとした吸血鬼ですけれど、不自然なくらいに、ステレオタイプの『吸血鬼』だったんです。
真夏なのに黒いお洋服を羽織って、わざわざ牙をつけて、それはそれは尊大な態度で。
でも、尊大な態度って、フィクションじゃないと馬鹿らしいんですよ。面白がる人も、多いのでしょうけれども、それではお金も稼げませんしね。
なんたって、相手はなんの権限もないただの吸血鬼です。正直言って、ただただめんどくさいなあ、って感じでした。不思議と殴りかかってくるとは思わないものです。
見えるところで、ガラスコップから血液を飲んでる吸血鬼なんて、おかしいでしょう!
わざわざ、血液が見えるように、やるんですよ。
どうやらルークさんは、吸血鬼であることに慣れていないようでした。どうふるまっていいかわからず、それらしい『吸血鬼』をやっているうちに引っ込みがつかなくなったようで。それで、ご実家の方とも疎遠になってしまったようでもあります。
やたら言葉が古めかしくって、ものすごくへんな言い回しをしたり、これは割と素だったのが、あとから分かったんですけれど。
なんといいましょうか。彼は自分は『吸血鬼』だから、『吸血鬼』らしくないことは、すべてダメだと思い込んでいる節があるのです。
たとえば、さいきんまで意地でもスマートフォンどころか、携帯電話を持とうとしませんでした。今時、吸血鬼だって普通にインターネットをしますね。
人目をはばからないつもりで、二倍はイメージを気にしているんですよ。
世界はめまぐるしく変わります。死んだんだから、新しい世界を受け入れなくっちゃなりません。
吸血鬼はイモータルじゃ割と普通なので、珍しいことでもないんですけど。それより珍しいの、いくらでも、よく取材に行くこともあったので。
幻の虹色巨大魚を追いかけたり、『目には見えない』マントを集めて読者プレゼントにしたり、炭素をダイヤモンドに変えることに成功したという話を聞きにいったり。
信じられないことかもしれませんが、トレイシー・ホールが人口ダイヤモンドの発見を確立する方法を見つけて、それをネイチャーに投降するまでは、そういうのは我々、『月刊! イモータル』にふさわしいお仕事だったんですからね!
といっても、人工ダイヤモンドが開発された当時、ぼくはまだ生まれてませんが。編集長の口癖です。編集長も生まれていないような。
ゴーストなんてしょっちゅうですし、取材データにノイズが混じってるのもしょっちゅうですし、いろんなシミがいろんなものに見えるのもしょっちゅうです。
そんな中では、吸血鬼はインパクトに欠けますね。
「ギリ20世紀生まれのくせに。それ、16世紀の吸血鬼の考え方ですよ」って言ったら、すごく変な顔をしていたのを覚えています。
『吸血鬼』は悪者のイメージです。なんというか、人外のみなさまは、「おっかないものであること」を、期待される存在でもあります。ギャップがいいとか、人と違っているところがたまらない、とか。
特別を期待されていると、普通になれないものなのです。
ルークさんは、もともと期待に応えるのが大好きな人でした。だから、悪者ぶってほしいなあ、と思うと、悪者ぶるわけです。
難儀な性質でもありますが、我々にとってはとてもありがたい性質ともいえましょう。せいぜい、紙の上でご活躍なされますように。
おや。
編集部というよりは、友人としての忠告になってしまいました。