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吸血鬼とヴァンパイア・ハンター・後編

【前回までのあらすじ】

 吸血鬼ハンター協会と吸血鬼はとても良好な関係を築いています。おおむね。


●ヴァンパイア・ハンター

 今や、ヴァンパイア・ハンター協会に属するものたちのことを、ヴァンパイア・ハンターと呼ぶのはもはや不適切である。

 ヴァンパイア・コンパニオンだとか、ヴァンパイア・パートナーだとか呼称するべきだとは、ジェネシスさんのおっしゃる通り、私も常々考えていたところです。

 しかしながら、彼らの通り名である「ヴァンパイア・ハンター」といういささか威力をほのめかすような呼称が、今であれ我々の背筋をアイロンがけのようにピンと伸ばす効果があることも事実です。


 ヴァンパイア・ハンターは、ヴァンパイアが社会に溶け込めているか絶えず見守り、ときには人が抱くような、人らしからぬ暴力的な衝動に身を任せぬよう、常に我々とともにある。


 とはいえ、一般人とは力の差がある吸血鬼である。どうしても力を発散しがたいときは、手合わせのようなこともしてくれる。

 この模擬試合での傷害は互いに免責されるが、金銭を賭けた場合は、ヴァンパイア・ハンターは協会員としての資格を停止される。


 私も一度すすめられたことはあるが、よくよく検討してみると、試合の詳細には「武器は問わない」という条項が盛り込まれていたため降伏した。

 ジェネシスさんは、大型トレーラーで市民体育館にやってきました。私の判断は間違っていなかった。「ストリートファイター(※1)」は、通常、大型トレーラーには乗車しません。


●吸血鬼と付添人の美しい関係性について

 私の担当のコンパニオンであるジェネシスさんは、制度が始まって以来、私の3番目のヴァンパイア・コンパニオンです。

 1度目のコンパニオンはろくにうちへ来ませんでしたし、2度目のコンパニオンは、とても気さくで良い方でしたが、ドラッグと横領のかどでどこかへと飛ばされてしまったのです。

 もちろん、そのような付添人が少数であることはいうまでもありません。吸血鬼も少数です。


 ジェネシスさんは、とても落ち着いた慈悲深い方で、自分に対しても、他人に対しても、とても厳しい方でもあります。必要以上に個人のプライベートに立ち入ったりは致しませんが、とくに品のないジョークというのは大嫌いです。


 私がどんな内容の小説を書こうが、たとえそれが売れなかろうが、ヴァンパイア・ハンターは私に干渉することはありませんし、また、干渉するべきではありません。推理小説で連続36人殺した時も、協会はなにも言ってきませんでした(読まれていないのかもしれませんが)。

 むしろ、いかがわしい小説を書くようにそれとなく勧められるくらいです。誤解なきように申し上げますと、昇華はストレス解消の方法のひとつです。


 ただ、「ノンフィクション」の性質上、ジェネシスさんは私がストレスを感じており、暴力的な衝動にさいなまれるのではと心配していたようでした。

 要するに、私が必要以上に悪ぶっていないかどうかを心配していらっしゃるのです。

 幸いなことに、ジェネシスさんは大型トレーラーでうちにお越しになったので、私はそのような衝動を一切忘れることができました。

 私にとって、ジェネシスさんはまことに節制のカードです。


 私は、ジェネシスさんと初めて会ったとき、セイラムの魔女裁判について暖かい語らいを持ったことを覚えております。そのことを、今一度思い出される結果となりました。


●ヴァンパイア・ハンターになるにはどうするべきか?

『吸血鬼の職業』でも語った通り、吸血鬼にも、ヴァンパイア・ハンターになる道はある。ただし、ヴァンパイアの付添人になれるのは、吸血鬼ではないヴァンパイア・ハンターであるのが望ましいというのが協会の公式見解だ。

 必ずしも禁止されているわけではないが、男性の吸血鬼はお互いに争うものでもあるし、あまり良い関係は築けない。

 模擬試合の代理人としての出番があると勧められたが、誰が行くかそんなの。


 ヴァンパイア・ハンターになる道は、とても狭き門である。これは、試験が難しいからというわけではない。吸血鬼の数は年々と減っており、協会の活動も縮小しているからである。

 吸血鬼の数は、およそ30万人と述べた。協会員は20,535人程度である。

 これは、あくまでも登録している人数であって、実際に活動しているものはもう少し少ない。


 かつて、ヴァンパイア・ハンター協会がまだヴァンパイア・ハンター教会であったころ、『すべての吸血鬼を消滅させるまで、我々は活動を緩めることはない』という理念を掲げていた。ニュアンスを変えて、彼らは今もなお、同じ理念を掲げている。

『すべての吸血鬼が消滅するまで、我々は活動を緩めることはない』と。すなわち、吸血鬼とともに滅びる運命である。


 専業のヴァンパイア・ハンターというものは、50年ほどは存在しない。ほとんどは軍隊の特殊部隊を退いたものであったり、とにかく、副業的なものである。もはや、協会に所属している吸血鬼のほとんどは高齢者である。


 吸血鬼にとって、いかにヴァンパイア・ハンターの存在が重要であるか、本稿でお分かりいただけたと思う。


 次号、『吸血鬼と節制のありかた――吸血鬼は何に祈るべきか、愛と信仰について』をお送りしようと思っていますが、気が変われば(ジェネシスさんから連絡がなければ)『吸血鬼とホラー映画』になる予定です。


(※1訳注)……ジェネシスさん曰く、「ストリートファイター」というタイトルのゲームのことだそうです。別にルークさんを大型トレーラーで轢き消そうとしたわけではなく、「車(廃車)を殴ればストレスが解消されるから」ということらしいです。ストリートファイターは知っていますが、ぼくにはどのみち理解できません。

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