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第7話 なんで姫さんがこの町に?

 太陽神(リュファト)のぎらつく眼差しが降り注ぎ、風神(ヒューリオス)の乾いた息が吹き渡る交易の町、コンスルミラの大通りに、戦士たちの足音が響く。

 鎧兜を身にまとい、武器を手にした彼らは、フォレストラ王国が擁する軍勢の中から選び抜かれた精鋭らしい。

 連中に守られて、砂埃立つ大通りをゆっくりと進むのは、二匹のでっかい灰色狼に引かれた二輪戦車(チャリオット)。車上で狼たちの手綱をさばくのは、姫さん――フォレストラの〈狼姫〉と呼ばれるウルフェイナ王女その人だ。


「〈樹海宮〉での一件から、もう半年か。時の神クレオルタの歩みとは、早いものだなっ!」


 姫さんが車上から、傍らを歩く俺たちを見下ろして、そう笑いかけてきた。


「ああ。けど、驚いたぜ。こんな辺境の町で、あんたとまた会うことになるなんてさ」


 コンスルミラは〈森の王国〉フォレストラの東端に位置する町だ。このあたりまで来ると、大地を覆う樹木はすっかり姿を消し、草花もまばらとなる。町を出て二、三日も東へ行けば、そこから先は不毛のサロハリアン砂漠――東方の(シルク)や陶磁器、香辛料(スパイス)を求める隊商(キャラバン)だけが足を踏み入れる、熱砂の海が広がってる。

 フェルナース大陸の東西から人や品が集まる商都とはいえ、こんな辺鄙なところまで王族の姫さんが足を運んでくるなんざ、ちょいとばかり妙な気がした。


「私もメリックと同感だ、フォレストラの〈狼姫〉」


 俺の隣を歩いてたデュラムが、車上の姫さんに探るような目を向けた。


「フォレストラの〈熊王〉ベアトリウスの娘である貴公が、こんな辺境の町へ物見遊山をしに来たとも思えないからな。何か特別な事情でもあるのだろう?」

「鋭いなっ! さすがに〈樹海宮〉で私を一敗地にまみれさせただけのことはあるっ!」


 俺とデュラム、その後ろを行くサーラを順番に見やり、姫さんは目を細めた。


「実は明日、この町をサンドレオ帝国の使節団が訪れることになっていてな。それを出迎えるよう、父上から仰せつかっているのだっ!」

「サンドレオ……フォレストラと大陸を二分する、南東の大帝国ね」

「ついこの間まで、フォレストラとサンドレオって、(いくさ)を続けてたんだよな」

「そうだ。だがつい一月ほど前、一時の休戦が実現した。そして明日には、正式な和平を結ぶために、話し合いが行われることになっているのだっ!」

「じゃあ、さっき言ってた使節団っていうのは、そのためにこの町へ来るのね?」

「……そういうことだ」


 確認の意味を込めたサーラの問いかけに、姫さんが一瞬、複雑な表情を浮かべてうなずく。


「使者を迎える準備に追われていたら、昨日妙な冒険者の三人組が、町の大通りで騒ぎを起こしたという知らせが入ってな。身なりや人相を聞いて、お前たち三人のことが思い浮かんだ。もしやと迎えの者たちをやって、私自身も後から様子を見にいったところ、果たしてお前たちだったというわけだ」

「なるほどな」


 納得、納得だぜ。

 もっとも、騒ぎが起こった原因は、俺たちじゃなくてあの泥棒猫――ラティさんだ。なのに俺たちが、おたずね者の悪党みてえに取り囲まれる羽目になっちまったのは、ちょいとばかり腹立たしいぜ。

 まあ、姫さんが来てくれたおかげで誤解は解けたようだし、根に持ったりはしねえけどさ。


「ところで姫さん、その……いいのかよ? 俺たちも、あんたについていってさ」


 姫さんの見事な肢体(ナイス・バディ)をまともに見たりしねえよう、二輪戦車(チャリオット)の上を横目でちらちら見ながら、遠慮がちに聞いてみた。


「使節団を迎える準備とかで、忙しいんじゃねえのか? 邪魔にならねえよう、俺たちゃこのあたりでお暇した方が――」

「な、何を言うっ! こうして久しぶりに会えたのだ、このまま別れるなど、私は嫌だっ! 森の神ガレッセオにかけて、絶対に許さんぞっ!」


 慌てた様子で、姫さんは言う。


「その……積もる話もあるだろう? この先の広場に、父上からコンスルミラの統治を任されているナボンという太守の館があってな。〈樹海宮〉の一件から今日までどうしていたのか、そこでゆっくり聞かせてくれっ!」


 何やら姫さん、俺たちを自分の許に引き留めようと必死みてえだ。

 ……参ったな。そうせがまれちゃ、むげに断るのも無礼な気がして、どうしたもんかと迷っちまう。


「断るわけにもいかなさそうね、メリック」


 サーラが後ろから、そっと耳打ちしてきた。


「いいじゃない、このままご一緒しちゃいましょ♪ せっかくだから、盗まれた財布のこともウルフェイナ王女に話してみなさいよ。()られたぶんのお金くらい、都合してくれるかもしれないじゃない♪」

「な、何言ってやがる。そんなあつかましいこと、頼めるわけねえだろ? それに……」

「――む? おいっ、フランメリック! 私を差し置いて、魔女と二人で何を話してるっ?」


 俺たち二人の内緒話に気づいて、姫さんはちょいと気を悪くしたようだ。


「な、なんでもねえよ! それより、後であんたに話してえことがあるんだけどさ……」


 と、すかさず話をそらす俺。

 盗まれた財布のことはともかく、裏路地で俺たちの前に現れたメラルカやその眷属たち――ラティさんとか、デュラムを襲ったっていう黒ずくめの男のことは、後で姫さんに聞いてもらおう。

 神様に会ったなんて話、普通なら「夢でも見たのか?」って笑われるか、正気を疑われるかのどちらかだろうが、この人は信じてくれるはずだ。

 なぜって、姫さんは――俺たちと同様、半年前に神々と会ってるからな。


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