表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

奏いんぐ

奏いんぐ

作者: 猪口暮露

「ねぇ」


「へ…!?」



静寂の中、突然掛けられた言葉に私の肩が跳ねる。


振り向いた先に居るのは同じクラスの男子生徒。


藤堂くんだ。


藤堂くんはクラスでも有名な人だ。


親が会社の社長らしく、

友人の何人かは会社の部下の子供らしい。


ついでにいうと、

彼はそれをよく思っていないらしい。


頭脳明晰で、運動神経もいいらしい。


模試では県で百人以内には入っているらしい。


クールな外見に合わず性格は明るいんだとか。


そして、そんな彼には最近好きな人ができたらしい。



らしい、らしいと私が確信を持ってそうと言えないのは、これら全ての情報ソースは友人で私自身は最近まで全く藤堂くんと話したことがなかったからだ。



一庶民な家庭で育った私には所詮金持ちなんて関係ない話だし、「これからも関わらないだろうなぁ」と思っていた。



…思っていたのに。


なんか変なことになった。






遡ること一ヶ月前。


蝉が鳴き出す前の季節の事。


あの日は制服の脇が湿るか湿らないかといった

とても微妙な温度だった(下品か)。


まぁとりあえず暑かった。


夏休み直前の学校の生徒たちはもう既に夏休み突入してるんじゃないかコレと思うくらいの見事なだらけっぷりだった。


遅刻者四人て。


私も友達と休みはどこそこにいきたい、あれこれをしたい。私も!じゃあ一緒にあそびにいこうよ!



みたいな話ばかりしていた。





その日の六時間目のH.R.でのこと。


それは起こった。



先生の話が子守歌にしか聞こえず居眠りしていた私が悪いのか。


いいや私は悪くない…はず。


(起こしてくれなかった友人と子守唄を歌う先生が悪いんだもん!)





腕が机から滑り落ちた衝撃で、痛みと共に目が覚めた私が見たのは



       ”文化祭実行委員


        男  藤堂 哲也


        女  澤村 奏 ”



と書かれた黒板だった。



察しの良い読者諸君ならもうお気づきだろう。



       澤村 奏は


      わ た し だ 。 


 

なんでこんな重要な時に寝てたんだ私!


うっかりさんだね私ったらもおおおお!!


「よろしくね、澤村さん」


「……ハイ、ヨロシクデス…」


(そもそもなんで藤堂くん…?)


周りの女子からの視線が痛い。


なら変わりに立候補すればよかったのに。


なんで私?寝てた罰とか…?


くそぅ。なんにせよ寝るんじゃなかった…。



自分の考えに熱中していた私は、藤堂くんが坂下くんとアイコンタクトしていた事に全く気がつかなかった。








文化祭は二学期に入って直ぐに行われる。



となると、夏休み中が

準備期間になるのは当然のことで。



実行委員の私と藤堂くんは

夏休みの多くを学校に訪れることになった。




ちなみにうちのクラスの出し物は縁日だ。


射的や輪投げなどのゲームで

 

 【大人から子供まで楽しめる!】


がモットーの文化祭定番の出し物。



(女子は喫茶店を提案したが、そもそも料理が出来る子がいなかったため断念したらしい。(By友人情報)…寝てたからよく知らない)



藤堂くんは文化祭に非常に乗り気らしく、

初めは彼の友人の坂下くん達も自主的に参加してくれた。



だてど皆毎日これるほど暇な訳ではなく、



部活や家の用事やら、なんやかんやと理由をあげては1人2人と減っていった。



まあ、むしろ藤堂くんにはそっちのが良かったみたいで人が減る度にちょっと嬉しそうだった。



皆藤堂くんの為に来てるのにねぇ。



あれか。思いは一方通行、みたいな。



まあそんなことは今はどうでも良くてだ。



今日は私と藤堂くんの二人きりだった。




黙々と作業を続ける私たち。


そこに言葉は一切無い。


空気が重いです。



(…気まずい)




作業を初めて30分ほど経った頃だろうか。


もう今日はずっと無言でいいかな…と私が思いかけていた頃。


「ねぇ、」


「へ…!?」


突然後ろから掛けられた声に

私は盛大に驚いたのだった。







「な、何?」


どくどくと鳴る心臓を抑えて振り向いた先に、


思ったよりもずっと近くに藤堂くんの顔があった。



(近っ)



その距離、僅か数センチ程。



「お…、澤………は…?」

 



目が悪い私の目は人の顔がぼやけで映る。



藤堂くんも例に漏れず、ぼやけで私の目に映っていた。




そんな藤堂くんはイケメンらしい。


友達達がいっていた彼の見目麗しいご尊顔を、


私はこの距離でやっと拝見した。




…確かに顔立ちは整っている。


顔の輪郭は細く、全体的に線の薄い中性的な顔だ。


細い眉毛に長いまつげ、触り心地が良さそうな髪の毛。


男の癖に妙に赤い唇。


少しつり目がちの瞳は

青みがかった黒色をしている。



「おーい」


体つきは中性的な顔とは反対に、

硬そうな筋肉質な腕が制服の袖から覗いている。


部活はやってないって聞いたんだけど…。


うーん。


何かスポーツでもやってるのかしらん。




「おーいってば、聞いてる?」


「っつ!?」


はっ


いかんいかん。


観察に集中しすぎて話を全く聞いていなかった。


気付けばもう彼は離れていて、訝しそうに此方をみていた。


「…ごめん、聞いていなかった」



「だろうね…、澤村さんったら全く反応しないから。何、俺の顔にでも見惚れてた?」「は?」


(藤堂くんって実はナルシストだったり…?)


「なんつー即答…。


……まぁ、その話は置いといて。


本題入っていい?」



コク、と頷いた私を一瞥してから

彼はコホンと咳を一つして、言った。



「澤村さん、って俺のこと嫌い?」


「へ?…なんで?」


突然想像もしなかった事を言われ、

私は目をぱちぱちと瞬かせた。


「いやいや、質問に質問で返されても」


「…なんでまたそんな?」


「俺、人と仲良くするのは自信あるんだけど


 澤村さんは全く俺に近付かないでしょう?


 だから、知らず知らずの内に


 何か嫌な事してたらどうしようと思って」


茶化して返そうかとも思ったが、真剣身を帯びた彼の目と目が合い彼が本気でこう言ったのだと解った。のでちゃんと答えようと思う。



「笑わないなら言う」


「もちろん」



「えっと……別にさ?


藤堂くんが嫌い……、とかじゃなくて」



「うん」



「ほら、藤堂くんは頭良いし、

 

 運動もすごいじゃん。


 クラスの人気者だし。


 だから、近寄りがたいっていうか、 

 

 私にはまぶしいっていうか…


 うーんと、その、苦手…?」




「ぶはっ!ま、眩しいって…!!


 あれかな!?近所のオバチャンがよくいう


「今時の子は元気で良いわねー。


オバチャンにゃ眩しいわ(裏声)」ってやつ!?」


ケラケラと笑い続ける彼の姿に腹が立った。



笑わんっつっただろ。 


てゆーか苦手はスルーですか。スルーなのか。



…てゆーか裏声きめぇ。



「わらわないっていった。」



ジトリと彼を睨むとようやく彼の笑いが止んだ。



「ゴメンゴメン。でも面白いこと言う澤村さんも悪いよ。そもそも俺、そんな澤村さんが思うよーなカンペキ超人じゃないし」



ぷう、と頬を膨らませ今度は拗ねたような顔になった藤堂くんは、可愛かった。


顔が良いってイイネ。


私がぷうとかやってもキモイだけだろうし。



「ていうかさ、何で私とそんなに仲良くしたいの?寄ってこないならそれで普通終わりじゃない?」



「…友達少ないか「藤堂くん友達めっちゃいるじゃん」……せめて最後まで言わせて」



「なんで?」



「…君こそ笑わない?」



「よし、盛大に笑ってやる」



私は根に持つタイプですよ。



「ごめんって。えっとさ、



 俺……実は裁縫が趣味なんだ」



「は?」



「~~~っだから!


俺は手芸が好きなの!ミシンとか使って小物作るの超好きなの!暇さえあればネットで検索しちゃうくらい!もうこの気持ちを誰かと共有したくてしたくてたまんなくてさ!!澤村さん手芸部でしょ?筆箱だけに留まらずバックまでお手製なの見たことあるからさ!あ、この子絶対俺と話合うって思って見てたんだ。でも俺から話しかけようとしても澤村さん上手い具合にどっか行っちゃうし…。なら澤村さんがこっち来ないかなーって待ってても澤村さんなんやかんやと理由付けて話せないし、もう俺嫌われてんじゃないかなーって思ったらいてもたってもいられなくなって突撃してみた」


「…は?」



「ま、真顔とか…!正直笑われるよりダメージでかいわー…」


「え、何。笑ってほしかったの?

良いよ笑ってあげる。はははははは」



「そーいうことじゃなくて…。はぁ、澤村さんって意外と毒舌なんだね」



「そっちこそ。


そんないい顔したイケメンがちくちく縫い針で物作りに励んでるとは思いもしなかった」


            

      

「ははは…。


まあ、そーいうわけで…

         

                                 

    

      俺と友達になりませんか?」





ここまで読んで頂きありがとうございました。

作者は今感激の涙を流しております。゜(´⊃ω⊂`)゜。

ちなみに。

奏いんぐ=ソーイング。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ