第七話 美しい世界
「罪を犯したら、罰を受けることは知っているね?」
神様は悲しそうに死神に問いかけた。
死神は足元を見つめたまま頷く。
「その前に、どうかひとつ願いを聞いてくれませんか。」
「人間になりたいのだったね?」
また死神は頷いた。でもそれとは別の願いだと言った。
「どうか、あの娘の愛する人を死者の国から返してください。」
「それがお前の願いだね。でもそれには代わりの命が必要だよ。」
もう世界には誰もいない。
でも死神はその心配はないと言った。
「この、俺の命ひとつ代わりに、どうか」
どうかどうか、娘が泣き止むのなら、もうこの命なんていらなかった。
隣にいるのは自分じゃなくても構わなかった。
終わりの扉へ向かう途中、天使が別れを告げるために走り寄ってきた。
「・・・死神さん・・・私は・・・あなたが・・・」
死神は少しだけ笑って、天使を抱きしめた。
「愛されるのも難しい。多分、愛することと同じように」
言葉は見つからなくて天使はその場に泣き崩れた。
さようならなんて言えない、悲しすぎて。
だから人も同じように、いつが最期の時か分からないのだろうか。
♪誰の声も聞こえない
世界は静寂に満ち溢れた
誰も私の名前を呼ばない
だから私、私の名前を忘れそうよ
私は悲しくて涙が溢れる でも決して癒されない
あなたが、もういないから
その時だった
「ソフィア!」
遠くで呼ぶ声がする。
振り返れば
「アラン・・・?アラン!」もう二度と戻らないような泣き顔から笑顔が咲いた。
抱きしめたのは確かな温もり。
もう離さないと、強く二人抱き合った。
季節は巡り丘の蓮華は咲いては散りゆき、風は吹き抜け鳥たちはさえずる。
太陽は何度も大地を照らし、月は静かに輝きながら夜を横切った。
そしてまたやがて世界に人が満ち溢れても、誰も死神の姿を見た者はいなかった。
その後死神がどうなったのか誰も知らない。
♪今、笑う声がした
あの人の笑う声がした
幸せの歌声がする
聞こえるよ きっとふたり 幸せを分かち合っていると
そうしたならきっと、目に映る全てのものがあなたにとって
美しい、世界
END
あの日生まれた愛する犯罪者とそれを愛してくれた愛しい人へ
出会ってくれて、見つけてくれて、そして何より愛してくれて
ただ「ありがとう」を込めて
作者より




