第六話 数えましょう命
「九百九十九万、九千九百九十一・・・」
あと何人・・・
「九百九十九万、九千九百九十二・・・」
あと少し・・・
奪って、奪って奪い続けた。
もう少し、もう少しで人間になれる。もう少しで会える。
悲鳴は徐々に少なくなって、すすり泣く声も弱くなる。
気がつけば世界に人がいなくなっていった。
「九百九十九万、九千九百九十九・・・」
あとひとり。でも、誰もいない。
世界中駆け回って、飛び回って探したけれど人間がいない。
めぐり辿り着いたのははじまりの場所だった。死神の恋がはじまった場所。
丘の上で人影が見えた。
娘だった。
娘は丘の上のふたつの墓標の前にいた。
娘は泣いていた。あれからずっと、ずっと独りで悲しみに打ちひしがれていた。
世界には、娘しかいなかった。
その小さな背中を見て、死神がやっと気づいた。
自分の犯した罪に。
やがて凍りつき砕けた心に昔の優しさが戻ってきた。
同時にそれは死神をこの上なく打ちのめした。
なんてことを。
でも死神を責める者は誰もいない。自分が消したから。
自分の罪に気づいた死神は、
手を差し伸べることも、まして奪うことも出来ずに立ちすくんでいると天使がやってきた。
「神様がお呼びです・・・」
死神は素直に、天使の導きに従った。
「あなたが悪いんですよ・・・あなたが・・・」死神が黙って頷く。
堪えきれずに天使が涙を流した。
「あなたのせいで私は・・・嫌な仕事をしなければならなくなった・・・」
死神が頷く。途中振り返ろうとしたけれど、もう泣いている姿は見たくなくてやめた。
そして大人しく天使の後を追った。
神様の罰を受けるために
つづく




