第三話 歌
それでも娘は笑っていた。
愛する人を失っても、太陽のような笑顔を絶やさなかった。
それが何より死神にとって救いだった。
でも死神は知っている。娘が毎晩一人ぼっちで窓際に座り、泣きながら歌を歌っていることを。
時折寂しいと口からこぼしながら。
その歌は優しくて悲しい。とても。死神はその歌が好きだった。
「誰?」
屋根の上に座って歌を聴いていた死神に、ふいに娘が声をかけた。
「死神さんね?」
「どうして俺がわかるんだ?見えないのに。」
「さあ、どうしてかしら。でもわかるの。」
風もない静かな夜で、寂しかったからあなたの話を聞かせてと娘が言った。
死神は少し黙って、それから自分の仕事のことを話した。
嫌な仕事。ツライ仕事。辞めたい仕事だと。
「あんたが始めてだった。俺を見て泣かなかったのは。」
「そんなに怖い姿しているの?」
「いや、・・・そうかもな。」
泣かれるのが嫌でたまらない。だから辞めたいんだと死神は弱音を吐く。
「ふふ、死神さんが死神さんを辞めたら、何になるのかしら?」
「さあ、なんでもいいさ。この仕事を辞められるなら。」
夜が更け、星たちの輝きが一層深まる頃、じゃあおやすみと死神は飛び去った。
眠る街を風のように駆け抜けながら思っていた。
何になる?何になりたい?死神を終えて何になりたい?
そして死神は考えてしまった。そして思ってしまった。いけないことを。
「・・・人間に、なりたい。」
そしたら、抱きしめてもいいような、気がした。
つづく




