第二話 命、まるで灯火
世界の何が見えなくても
死神の腰に下げられていた小さなランタンに火がともった。
魂の灯火。これを神様のもとへかえすのが仕事。
「お父様?そこにいるの?」
驚いたことに娘はガラスの中、揺らめく炎を感じてすぐにそれが父だと気づいた。
「分かるのか。」
「ええ、やわらかい光、間違いない・・・」と安堵したように微笑んだ。
「あまり長くはいられない。この火が消える前に連れて行く」泣かれても、縋られても、それが自分の仕事だからと。
割り切ってはいるものの、そうされるのは彼にとって苦痛だった。
だから今回も何と言われるのだろうと身構えたら、娘は素直にうなずいて、涙で濡れる瞳をそっとぬぐった。
「・・・いいのか?」このまま連れて行っても、と死神は思わず聞き返した。
「はい・・・悲しいけれど、受け入れます。」
言われた瞬間死神は動けなかった。娘の言葉の意味が分からなかったから。
受け入れる?愛する人の死を?この耐え難い悲しみを?
何よりも、俺を。
思わずふいに手を差し伸べようとした瞬間、部屋の扉が勢いよく開き青年が飛び込んできた。
「ソフィア!親父さんが・・・」
「アラン・・・?お父様が・・・」
すぐに察した彼は、我慢していたのか声を上げながら泣き崩れるソフィアの体を支えた。
「大丈夫、僕がいるから・・・大丈夫・・・」
「う・・・お父様・・・お父様ぁー・・・!」
「なんだ、やっぱりやせ我慢か・・・」屋根の上で死神はつぶやいた。
悲しいならそう言えばいいのに、されたくないなら嫌がればいいのに。
なのに
「どうして・・・あんなこと言うんだ・・・」
両手を月にかざした。何をしようとした、俺は。
あの時、死神は抱きしめようとした。
初めて、人を。
つづく




