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システムE ver.2  作者: 八澤
第ニ話 弟と女子高生と一緒に女子高生を導く時にこっそりと逃げ出してヤる
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ver.09


 玄関へ近づいた時、隣の教室から『ギチギチ』と不快な音が聞こえてきた。私達は、そっと中の様子を伺うことにした。マコを先頭に、顔を出して中を覗くと、そこに子サソリはいなかった。

 代わりに、異様な形をした物体が、ビッシリと窓から天井に向かって絡み付いていた。細い樹木に、サッカーボールほどの丸い塊をぶら下げて揺れている。音は、その塊から響いてきた。時折、小刻みに揺れていた。

「これは、もしかして、……卵かな?」

 マコに問う。

「うん……卵で合っていると思う。このままじゃ、あの子サソリ、どんどん増えていくよ」

 私達は無言でその部屋を抜け出すと、駆け足で玄関の角に隠れた。脳裏に、あの卵から子サソリが孵り、学校を蹂躙している姿が目に浮かぶのを、懸命に頭から遠ざけながら、作戦会議を始めた。

「よし、これからブリーフィングを始めます」

「ブリー、フィング?」私が楽しげに言うと、ミナミは首を傾げて問うてきた。

「ねーちゃん、かっこつけなくていいから。あのですね、ミナミさん。ブリーフィングとは、作戦会議の意味です。俺の姉、少し頭の中が子供なので、気にしないでください」

「ブラックサンダーに言われたくないなぁ。黙れ中二。で、まずは私達のスキルを確認しよう」

 

 私――閃光

 マコ――暗黒雷・凶、超絶対=ゼロ℃、真・絶牙龍轟斬

 ミナミ――アツイ、ツメタイ、イカツチ、カイフク


「……なんで皆そんなにスキルがあるの?」

「俺は子サソリと闘っていたら、勝手に増えてた」

「私も同じです」

 レベルの表示は無いけれど、隠れステータスみたいな数値があるのかもしれない。努力して敵を倒すと増えるから、努力値としよう。

「どうする? ねーちゃんも適当に子サソリを刈ってスキルが増えるか試してみる?」

「ん、そうしたいのは山々なんだけど、あの卵があそこにあるだけとは限らないじゃん。他にもあると考えたほうがいい。その状況で、私の努力値を稼いでいたら、子サソリが無数に増えちゃう。だから辞める。現状のスキルでどうにかしよう。それで、私のスキルが【閃光】一つ。これはカウンター。相手の攻撃に反応して発動するの。接近戦なら無類の強さを誇ると思うけど、威力が低くなるし、私の【SP】だと、連続して使えない。以上! はい、次はマコ」

「えっと、俺の……【暗黒雷・凶ブラックサンダー・メテオ】は」ミナミが、「え?」と驚いた表情を浮かべる。「名前は気にしないでください。若気の至りです。はい、これは縦切りです。威力が上がって、バットを振り下ろすと、刀で切るみたいに相手に攻撃できます。【超絶対=ゼロ℃エターナルフォウスブリザード】は、体に薄い膜を張って、主に体当たりに使います。当たった相手を吹き飛ばします。攻撃用だけど、使い方によっては、防御にも使えます。最後に、【真・絶牙龍轟斬しん・ぜつがりゅうごうざん】は、めった斬りです。これを使うと、バットと腕が軽くなって、更にバッドを振るうと無数の斬撃がバットに纏わりつきます」マコはミナミに手を向けた。

「最後に、私ですね。まず【アツイ】は炎を出します。炎を操作して、広範囲に伸びますけど、あまり威力は望めません。【ツメタイ】はその反対で、一つの目標に向かって氷の塊をぶつけます。威力はそれなりにあって、その氷の欠片が相手の体に張り付いて、動きを鈍らせることもありました。【イカツチ】が一番威力が高いんですけど、狙った場所には撃てなくて、相手に腕を当てて使わないと当たりません。あとは、【カイフク】。それだけですね」

 各々のスキルの性能は大体わかった。ミナミ意外は、接近しないとスキルの発動すら危うい欠陥レベルの非道さだ。やっぱり、私もスキルを増やしたほうがいいのかな、と悩んだけど、今更戻る時間は無いし、それにすぐにスキルを覚えるとは限らない。これで挑むという選択肢だけが、私の目の前にメッセージウウィンドとして、浮かんでいる気がした。

「じゃあ、流れを教えるね。まずは、私が囮になる」下駄箱から靴をいくつか取ると、その中から赤い靴を置いた。「ここが校庭で、その中心に私が進むとする」

「サソリが、ここに出現するの?」

「する、と願う。まぁ、私が目を潰してやったら必死に叫んでいたんだよ。私のことを睨みつけながら消えて行った。今頃怒り心頭に決まってるじゃん。知能がある生物だったから、ぶっ殺して食ってやる~、って恨んでいるよ、絶対ね」隣で、ミナミが唾を呑み込んだ。

 赤い靴の横に黒い靴を置いた。次に、黄色と青色の靴を離れた場所に置いた。

「私とサソリが対峙したら、次はミナミに【アツイ】を放ってもらいたい」

「サソリにぶつけるんですか? 申し訳ないんですけど、それはちょっと難しいかと。距離が離れていると、精度が落ちてしまうんです」

「いや、私とサソリを囲むように、ぐるっと炎で出来た輪を作ってもらいたいの。それくらいは操れる? 出来れば私とサソリを入れて、炎まで少し間が欲しいかな。私の【DP】が削られるのは辛いし、何より熱いし……」

 そこでマコが手を挙げた。「あ、ねーちゃん、それは大丈夫だよ。確か、攻撃スキルは味方には当たらないはずだから。ミナミさんの出した炎に触れても、熱いと【DP】は減らないし熱いとも思わない」

 ほっと胸を撫で下ろした。よかった、【DP】をジリジリと消費しながらの接戦になると覚悟していたので、その情報はうれしかった。ミナミも安心したのか、横で小さく息を吐いた。

「じゃあミナミは遠慮無く炎を出してサソリの逃げ道を塞いでね。で、私とサソリが闘っている最中にマコが乱入。出来れば背後から接近して攻撃するように。サソリの注意がそれたら、私も攻撃する。ミナミは連続でスキルを出せる?」

「はい。【アツイ】の後なら、【ツメタイ】【イカツチ】のどちらも連続で使用できます」

 そういや【SP】の量が一番多かったんだ。

「じゃあ、最後にトドメとして、スキルを出来る限り打ち込んでね。……と、ここまで適当に私が作戦を考えたんだけど、何か意見ある? 出来れば早めに答えて。もうあの子サソリがここに近づいてきているかもしれないから」

「はい」とマコが手を上げる。「俺達はどこに待機していればいいの?」

「マコはぐるっと校舎伝いに校門付近のアスレチックの辺りで隠れていて。ちゅうど、私と対角線上の位置になるように。ミナミは、ほら、玄関をすぐに出て蛇口が並んでいる場所があるでしょ。そこに隠れてね。マコは、そこに移動するまでに気づかれる可能性が高いから、無理だと判断したら、途中の滑り台に居て。二人とも、決して無理はしないでよ」

 こくりと、マコは頷いた。ミナミは特に意見を述べる様子が無い。私は立ち上がると、玄関から外に出る。黒色に少量の赤色を混ぜたような、奇妙な光が私を照らした。影が伸びている。

「よし、行こう」

 二人は頷いて立ち上がった。


 まず、マコの配置は、囮だ。あのサソリを呼び出す囮が私で。最初にサソリと闘った時を思い出すと、私は素手の状態でも【閃光】が発動すれば、安全に攻めることが出来る。今はカッターを持っているのだから、【閃光】を発動し、残りの目を潰せば、勝利は目前だ。後は煮るなり焼くなりどうにでもなる。だけど、あのサソリは【閃光】を一度受けている。私と闘った時、サソリは私を殺すことを楽しんでいた。それだけで、そこらへんで蠢く動物とは頭のデキが違うとわかる。もしかしたら、【閃光】を発動している最中は、またおかしな反撃を受けると考えて、攻撃をしかけてこない可能性がある。そうなると、不発となり、一気に私がピンチになってしまう。

 その危険性を排除するのが、マコだ。背後から忍び寄り、なんでもいいからスキルを使って攻撃してもらう。それにサソリの意識が流れた瞬間に、私はカッターで切りかかる。サソリが、再度私に気づき、何かしら反応を見せたところで、【閃光】が発動する。これが、ベスト。

 ミナミへの指示は、半分嘘だ。まず炎を頼んだけど、あのサソリに意味があるとは思えない。威力が弱いと聞いていたので、難なく逃げるかもしれない。まぁ、それでサソリが動けなくなったらベストなんだけどね。で、本当の狙いは、子サソリへの壁となってもらうこと。あのサソリと闘っている最中に、子サソリに囲まれて乱入を受けたら分が悪い。それを抑えるために、ミナミを、子サソリが一番出現しやすい場所――玄関付近に配置した。本当なら、接近戦を無難に行えるマコを配置したほうが、壁としては適任かもしれない。もし入口からサソリが大量に湧き出てきて、ミナミが襲われた場合、無暗にスキルは使えない。ジリ貧になったら、スキルが使えなくなり、武器も無いミナミは、ただの餌になるだろう。

 そんな場所に、私が配置した。

 だって、――私はミナミのことを、信用していないから。

 サソリを倒している間に、あわよくば子サソリに食べられちゃえ! と思っていた。


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