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システムE ver.2  作者: 八澤
第ニ話 弟と女子高生と一緒に女子高生を導く時にこっそりと逃げ出してヤる
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ver.07

 

 人間、だった。

 女性で、もっと詳しく説明すると、私と同じ女子高生だ。

 私との相違は、セーラー服を着ているというところ。私はブレザーだ。その女子高生が、小部屋から出てきた。制服が違うから、別の学校のコ。すらりと背が高くて私よりも頭半分高い。無表情だったけど、大人っぽい顔立ちをしている。さらりとした髪が、背中まで伸びていた。それが歩くたびに、髪が緩やかに揺れて、この女子高生の放つ得体のしれない雰囲気に拍車をかけていた。

 私の姿を確認すると、両手で掴んで持っていた工作用カッターを降ろした。

「び、びっくりしたー」

 どこか懐かしいと思うような、不思議な声色で、女子高生は喋った。カッターを慌てて背後へ回して隠す。

「誰?」

 私は構えを解かずに、問うた。

 女子高生は、一度小さく深呼吸をして、愛嬌を込めて顔を横へ傾ける。

「わぁ、構えないでくださいよ。私も、この通りにカッターを床へ置きますから。大丈夫ですよ、私もあなたと同じ人間です。あのエイリアンみたいな生物ではありません。私も、あの生物から、逃げていたんですよ」

「だから、名前を教えて」

「普通、名前を人に聞く時は、自分から名乗りません?」

 女子高生は棒読みで言う。まるで、まだ自分の声に慣れていないかのように。

 私は、少し間を空けて、「セセラギ」と名乗った。

 突然出てきて、慣れた声で話すコイツに、本名を伝える気にはなれなかったからだ。あのケータイに表示されていたニックネームを名乗ることにした。

「せせ、ら、ぎ……さん? えっと、珍しい名字ですね?」

 女子高生は、少し面食らったかのように、言葉を重ねる。まるで、名前、違いますよね? とでも言わんばかりに。なんだコイツは。

「うん。ね? マコッ」

 私は横目でマコに『私に合わせろッ』とアイコンタクトを送った。

「う、うん。どうも初めまして。僕は、弟で、セセラギ、マコト。マコトって呼んでください、へへ」

 マコはどもりながら答えた。アホッ、それじゃあバレるだろ。それに、綺麗なお姉さんが出てきて、鼻の下伸ばすな気持ち悪い。

「この子、弟さんですか?」

 ちらりとマコを見て、私に聞いてきた。

「そうだけど、何か?」

 女性はまた私とマコの顔を見比べる。「いえ、こんなところに姉弟で一緒にいるだなんて、少し驚いただけです。あ……それじゃあ、私のことは、ミナミと呼んでください」

「それは、名字?」それじゃあ、ってなんだよ。

 ミナミは小気味よく笑う。「どっちでもいいじゃないですか?」

「はぁ?」

「はぁ? じゃなくて、そういうセセラギさんだって、名前教えてくれませんよね? 本名とも言い難いですし。お相子ですよ」

 笑顔のまま、ニコっと、私のことを……睨みつけてきた。目が笑っていない。刺すような敵意が、私に向かって発せられている。理由なんて知らない。だって、今ここで初めて会ったはずだもの。恨まれるはずがない。

「まだ手を降ろしてはくれないのですか? まだ、私があの怪獣の仲間かもしれないと、疑っているのですか?」

「ん、……まぁ、そうだよ。まだ私はあなたのことを完全に否定出来ない、ね」

 マコが声を上げる。「ねーちゃん、この人はどう見ても人間だよ。さっきのサソリが人間化けているとでも思っているの?」

 あわわ、二対一だ。マコめ、身内の癖に、裏切りやがって……。

 まぁ、でもそれを証明する手立てなんか無いんだし、別にいいか。いがみ合っている暇なんか無いもんね。

 そう判断して、私が手を下げる前に、ミナミはポケットに手を突っ込むと、ケータイを差し出してきた。

「これを見ても、まだ信用してくれませんか?」

 

ミナミ

DP           SP

250/250    9/9 ●●●●●●●●●

① アツイ ②ツメタイ ③イカツチ ④カイフク


 ミナミのケータイには、私達と同じような表示があった。ってか、【SP】多いな。スキルも多いし、私が一番スキルも能力も中途半端だ……。

「ん、ごめんね、疑って」

 私は腕を降ろして、構えを解いた。戸棚に腰をかける。力を抜いたところで、集中が切れたのか、右腕にぴりっとした痛みが走る。時間が経つにつれて、右腕から脳に響く痛みが生まれるようになっていた。

「怪我しているんですか?」

 ミナミは足元にあったカッターを拾い、近づいてきた。甘い香りがする。なんだか、幼少期を思い出させるかのような香りだった。

「サソリにやられたの。超痛くて」

「見せてください」

「いや、結構グロいから、見ないほうがいいと思う」

「そうじゃなくて、……あの、私には治す力があります」

 ミナミはケータイを開く。【カイフク】という文字にカーソルを合わせて開いた。


カイフク

特殊

タイプ――無

消費SP ALL

対象者の【DP】を二〇〇回復、および体に受けた傷を回復させる。

【一晩寝ただけで、何もかも修復された気分になる】


「このスキルを使えば、その程度の怪我なら治せます」

「本当? だったら、お願いしていい?」

「はい」

 私は躊躇無く腕を差し出した。――ように見せかける。何か変なことしたら、喉へ指を突き立てる準備を左指で完成させておいた。

「えっと、対象を指定します。そして、【カイフク】」

 ミナミがそう言い終えた瞬間、ケータイがピンク色に光る。その光は、ミナミの指先からも溢れてきて、私に降りかかった。すると、あら不思議、腕にある全細胞が脈動したのを感じると、次の瞬間には、爆発するかのように皮膚と肉が動く。筋肉や骨や皮が次々に作られて張りかえられて、腕が再生していく。

 一分も経たないうちに、右腕は元通りになった。

「す、すごい……」

 思わずそう呟いた。軽く拳を作ってみたけど、もう痛みは無い。ひゅんっ、と空を衝いても、以前と変わらず腕が動く。内心で心配していた後遺症などは、全く感じられなかった。

「私も初めて使用しましたけど、……なんか凄いですねー」

 ミナミも心底驚いているようで、二人してスゲースゲー言い合っていた。それを掻き消すように、「ねーちゃん!」とマコが背後で大きな声を出した。

「何?」

「もう腕治ったんだから、そろそろ武器を探そうよ。早くしないと、またアイツらが来る」

 そうだった、私は武器を探していたんだ。それを思い出して、腰を上げようとした瞬間、ミナミが私の前に立ちはだかった。

「セセラギさん、これ、あげますよ」

 と、カッターを手渡してきた。もちろん刃は収納されている。よく見ると、……赤い血がこびりついていた。

「私が、ここにたどり着くまでに、このカッターを使用したいたんですけど、もう必要ありません」

「なんで?」

「もともと、私には武器が必要無いんです。スキルを使えば、どうにかなりますから。【SP】を回復するまでの間、時間稼ぎに使用していただけです」

「そう、それじゃあ遠慮なく……待ってよ、ってことは、ミナミはその時間を稼ぐために、私達と一緒に?」

「はい、もちろん一緒に行きます」

 あらら、やっぱりそうなるのか。正直、私はミナミと一緒にはあまり行動したくなかったので、この提案は困った。だけど、一人で頑張って下さい、と流石に言えない。「よろしくね」と一応言っておく。

「こちらこそ。お二人も、この校舎にあったプリントに文字を記入しましたよね?」

 マコと一緒に頷く。

「セセラギさん、職員室に入った時、プリントが何枚ありましたか?」

 職員室と言われ、中心に置かれていたプリントをぼんやりと思い出す。確か、「二枚あった」

「私とマコ君、そして、セセラギさんを入れれば、数は会いますね。だから、今、この一階には、私達三人しかいないんだと思います」

「俺もそう思う。あのサソリ以外、この一階には、俺達しかいないんだ」

「待って待ってよ、なんでそう簡単に言い切れちゃうの? もしかしたら、まだ他にも誰か居るかもしれないじゃん」

 反論しながらも、薄々は気づいていた。この世界には、私達三人しか、人間がいないことに。ケータイはもう通常の機能は使えない。この学校は巨大な壁で覆われている。このドッキリファンタジーな世界への鍵は、多分あのプリントだ。  

私達は、それに記入をしてしまったから、この世界に迷い込んでしまったのかもしれない。

 あの職員室には、三枚しかプリントが無かった。もしプリント枚数が大きく変わっていたら、流石にマコも気づいただろう。それに、このアプリの持たない人間が、この世界に紛れ込んでいたとしたら、……あのサソリに殺されている可能性が高い。助ける義理は無いし、そもそも迷い込んでいる人間が居るとは思えない。

「断言出来る根拠はありません。しかし、あのプリントを記入した人数は三人です。私達でもう揃っています。もし、他に居たとしても、多分、手遅れの可能性が高いです」

 マコも隣でうんうん頷いている。

 そんな二人を見て、私は『よかった……』と思った。だって、「まだ他に人間が居るかもしれません、探しに行きましょう!」と気合の入った顔で宣言されたら、超めんどくさいじゃん。だけど人間的に否定は出来ない状況に陥ってしまう。そうなると、自身を危険に晒しても、助けに行かなくてはならなくなる。それだけは嫌だった。でも、二人が合理的な判断が出来る人で、助かった。

 ミナミはケータイを開いた。【カイフク】で使った【SP】は元に戻っていた。

「私の力は、三種類の魔法のような攻撃を使います。お二人は近距離系の攻撃しか持っていませんでしたよね。だったら、私が加われば、楽になると思います」

 確かに人数が多いことに越したことは無いよ。別にね、私にはミナミを拒む理由はどこにも無いんだよ。だけど、頭の奥で、小さい警報が鳴っている。

 気をつけろ。

 と。

「ミナミ、プリントは、どこに置いた?」

「え、あのおかしな形をしたテーブルの上でしたけど?」

 ミナミは、毅然とした態度で答えた。それ以外、ありえないといった声が読み取れる。これだけだと、ミナミが、あのプリントを床へ置いたとは確定出来ない。

 ――そういえば、私とマコの攻撃スキルについて何も言って無い。でも知っている。あの調理室で聞いていたのかな。あと、何故、調理室の奥にいたのか。隠れていたというよりは、待ち構えていた? あのサソリを? それとも……誰を?

 そんなことを考えながら、私は調理室を後にした。どうせ、今考えたって無駄だ。


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