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システムE ver.2  作者: 八澤
第一話 刺されるまで数センチ 小学校にいる女子高生に飛びついたらヤられた
3/62

ver.03

 

 まず、衝撃。

 腹の中で突然爆発が起こったの? と錯覚してしまうくらいの。

 次に、痛みが生まれる。全身を貫く熱を帯びた痛みが発生して、私は……死んでしまうのであった。――完。

 

 ……ん、あれ? 痛みが、来ない。サソリがロケットの如く私に突っ込んできて、吹っ飛ばされて、普通ならお腹に穴が空いているような攻撃を食らったんだから、強烈な痛みを味わうはずなのに、いくら待っても痛くない。

 そっと目を開けると、サソリが目の前で唸り声を私に浴びせながら、見下ろしていた。

 ってことは、私は避けてはいない。そんな暇も逃げる場所も無かったし。でも、当たったはずなのに、……痛くない。

 視線を足下へ下げると、傷一つ無かった。足やお腹が裂けて、脳が現実離れした痛みから逃れるために、変な物質が分散されているのかと思ったけど、それも違うみたい。

その時、ケータイが震えた。画面を見ると、赤色の壁紙に、いくつかの文字が羅列していた。


セセラギ

DP         SP

87/300     5/5 ●●●●●


① 閃光


 何故か、【DP】と表示された数字が減少していた。

 ――その瞬間、私の頭の中で血が音を立てて巡るのを感じた。この窮地において、脳が事態を急速に理解するために。

 まず、このケータイを操作する前、私はサソリの攻撃を受けた時、傷を負った。次に、あの【E】を実行してから、サソリの強い打撃を受けたのにかかわらず、傷は無かった。

 そして、最後にケータイに写る文字の変化だ。他の文字は何も変わらないが、【DP】の数字だけは攻撃を受けるたびに減っていた。

 ってことは、【E】を実行した途端に、私の体を何らかの力に作用された防御壁のようなモノで覆われたのだろう。攻撃を受けても、衝撃だけで、痛みなどのダメージは負わない。と、これがゲームの設定だったら、を想定して考えた。

 ついでに、【E】を実行してから、さっきの突撃で213ダメージを負ってしまった。私の【DP】は300だから、残り87しかない。

「確二だ(二回攻撃を受けると、瀕死になる)」

 あと一発でも攻撃を受けたら【DP】が零になってしまう。そうなると、防御膜が無くなるどころか、もしかしたら最悪死んでしまうかもしれない。

 ――それと、今の私は、この鋭利なサソリの鱗に触れても傷はつかない。

 殴れるってことだ。

 メラメラと闘気が湧いてきた。

 私は左腕を少し下げた。

 途端に、サソリが鋭い爪で私に切りかる。それに合わせて、私は立ち上がる。

 顎に、掌底を叩き込んだ。

 カウンターで入る。

 先の先(※1)が得意だったことから、タイミングを計るのは簡単だった。

 ぐわん

 と、衝撃が骨を撃ってサソリの頭を揺らした。

 やった、鱗に振れても、私の皮膚は無事だ。痛くない。

 サソリは一歩、二歩下がる。そのまま倒れこみ……はしなかった。尻尾を器用に使って大勢を立て直すと、後ろ足で踏ん張る。

 それに合わせて、私はハイキックを顔面へ打ち込んだ。

 人生で一度放てるかわからない、と称賛してしまいたくなるほどの完璧なキックがサソリの顔に突き刺さった。

 サソリは、体を揺らしながら仰向けに倒れた。

 よし、このまま総攻撃! と思いつつも、一応ケータイを除いてみると、


セセラギ

DP          SP

34/300     5/5 ●●●●●


①閃光


 何故か【DP】が減っている。え、もしかして、サソリの体に触れるだけでも【DP】は減る仕様なのか? 倒れたサソリを指先でちょんと触れると【DP】は5も減ってしまった。うわ、最悪だ。このまま顔面を蹴り潰してやるぜ! って息巻いていたのに、逆にやられちゃうよ。

 サソリは既に立ち上がろうとしていた。見るからにダメージは通っていない。私の【DP】は残り29しかない。掌底と蹴りで計53マイナス。指先だけで5もマイナスした。ってことはたとえ攻撃したとしても、あと一発撃てるか撃てないかのギリギリ、だ。しかも、私は一度でも攻撃を受けてはならない。かすり傷でも、致命傷になりかねない。

 どこかに武器になりそうな物は無いかと必死に探したけど、何故かこの職員室には、刃物はおろか、シャーペンすらない。さっき定規を消費したことを悔やむ。他に、どうにか武器になりそうな物は椅子くらいだ。

 パラパラと、背後で土煙を立ち上らせながら、サソリは起き上がった。私の美しすぎる蹴りを喰らったはずなのに首をコキコキならすだけで、ダメージはほぼゼロと見ていい。

 何か無いの? 何でもいいから、武器が欲しい……。

 あたふたと慌てながら、ふとケータイの画面が目に映る。

 【閃光】

 という文字が私の中で引っかかる。どこかで見たような、……そうだ、この文字は、あのプリントでかっこかわいい文字として記入したんだ。上に①と書いてある。で、それが何故ケータイに? 

 カーソルを【閃光】に合わせてみると、画面が新たに開いた。


 閃光(ライトニング)

 物理

 タイプ――雷

 消費SP 3

 自動カウンター。攻撃力が0.75倍になる代わりに、優先度+一の速度で攻撃することが可能。

 【光速の異名を持ち重力を自在に操る高貴なる女性騎士が司る、雷の一撃。一つの道を煌々と照らし、新たな幻想を終わらせた。】


 あ、いたたた……。まさかの漢字にカタカナルビが降りつけられているよ……。しかも、フレイバーテキスト付きだ。いや、まぁ、正直に申しますと、閃光と記入する時に、これはライトニングと読もう、と思ったんだよね。やれやれ、もうこういう少年漫画的なテイストは卒業したつもりだったんだけど、まだ留年しているみたい。

 思わず、「ライトニングは無いだろ」

 と呟いた。

 ――瞬間、ケータイの画面が真っ赤に光る。その光が私の体の周りにバチバチと音と共に広がり、静電気を全身に纏わりつかせているような姿になった。

 それを見て、サソリは、突進の構えを取る。

 ちょ、喰らったら確実にヤバい。私の【DP】じゃ、耐え切れない。咄嗟に避けようとした。が、体が言うことを聞かない。そのまま、磁石に引かれるかのように、ゆっくりとサソリと向き合っていく。

 サソリは一瞬驚いたような表情をしたけど、すぐに笑みを浮かべた。

 獲物を楽勝に捕えられると、嬉しみに満ち溢れた、笑みだった。

 サソリの体がぎゅっと、体を縮ませた。

 放たれ、た。

 その瞬間、赤い電撃が、バチッ! と鋭い音を引き立てた。

 私は目を疑う。だって、今、サソリは飛び掛ってきたんだけど、その動きがとんでもなく鈍い。スローモーションのように、ゆっくりと伸縮していた。

 しかも、その中で私は動ける。サソリと違い普段の速度で体が動く。サソリがゆっくりしている最中、サソリが私に到達するよりも早く、私はサソリの目の前にたどり着いていた。

 ……もしかして、これが【閃光】の力なの? それ以外ありえないか。さっきの説明を見るからに、優先度+一と書いてあった。何故だか知らないけど、この表示は、私の好むゲームで使われる表現だ。優先度+一というのは、相手よりも確実に先制で攻撃可能ってこと。すなわち、今の私は、サソリに対して攻撃を加えられることが出来る。

 でも【DP】は少ない。一度しか、攻撃を加えられない。それに、確か攻撃力が0.75倍になると書いてあったな。

 このチャンスで、絶対にダメージを追わせなければならない。

 人差し指を立てる。狙いを定めると、私はゆっくりと腕を伸ばしていく。指がサソリの右目につん、と当たる。バチッと指先から赤い火花が散った。更に、私は力を込める。それに自ら、突っ込んでくるサソリは、指に目を押しつけてくる形となっていた。バチ、バチ、バチバチバチッ! と凄まじい火花が炸裂した。

 ぐちゃり

 と、指が一本根本まで入ったところで、その火花は終わった。次の瞬間、サソリは体を止めると、顔を天井へ向けて絶叫した。私から離れる。サソリの体を赤い電気が纏わりつき、サソリは歯を鳴らして呻き、苦しんでいた。出来れば倒れることを望んでいたんだけど、一際大きく叫び、私を避けるように職員室を一周して、窓を破り、外へ逃げてしまう。

 去り際に、私のことを睨んできた。右目は潰れ、そこから真っ赤な血を垂らしながら。

 そして、ジャンプして壁に張り付くと、消えて行った。


「はぁ」とため息が自然と出てくる。

 もう、なんなの、今のはッ?

 そう嘆いた時には、どっと疲れが全身を襲ってきて、私は気絶してしまった。



※1 先の先

相手が先に攻撃しようとしているのを見抜き、相手より先に攻撃する方法。

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