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システムE ver.2  作者: 八澤
第一話 刺されるまで数センチ 小学校にいる女子高生に飛びついたらヤられた
2/62

ver.02


「はぁ?」と声が出てしまう。

 だって、だってだって、職員室の廊下の反対側には、大きな窓がいくつも並んでいる。そこから逃げようかと思っていたんだけど、そのうちの一つに、巨大な影が張り付いているだもの。

 しかも、人……じゃない。

 何、アレ?

 じっと目を細めてまた驚く。例えるなら、巨大なサソリだ。二メートルは確実に超える巨体を、青紫色の鋭利な鱗が包んでいる。四本の脚で、がっちりと窓に張り付いていた。オマケに長い尻尾までついている。頭部が、人間のように突出し、真っ赤な目が二つ、口元が目じりの辺りまで裂けていた。

 そんな生物がまるで獲物を眺めているかのように、私を睨んでいた。

 思考が停止しそうになるのを、必死に押し止める。

 これは一体なんなの?

 深呼吸を一度、二度、三度……。

 落ち着け、落ち着けよー恵ちゃん! もう一度最初から確認しましょうね。まず、私は魔法や超科学の存在しないファンタジーが一切関係の無い世界に住んでいて、高校のつまらない総学のために小学校を訪問した。給食のオバサン方と栄養士の方に、わざわざ時間を割いてもらって、小学生の健康を保つために、どんなことを注意して給食を作るのですか? などなど、当たり障りの無い質問を繰り返すつもりだった。

 が、学校には誰も居ない。しかも、誰かに突然扉を閉められて、一人この職員室に閉じ込められた私は、この……巨大サソリと対面してしまった。

 コスプレ、じゃないよね、うん、確実に違う。まだCGの立体映像がそこにあると言ったほうが信憑性は高い、ってか、こんな生物が、この星に住んでいたことに驚く。あんなに巨体だったら、餌とか大変だろうな。私みたいな大きさの、か弱い女子高生――人間なんて、恰好の餌じゃん……。

 ガチィ

 サソリが腕をずらすと、簡単に窓に亀裂が生じる。私は、思わず後ずさった。幼少の頃から、空手を習っていて県大会などにも、よく出場していた。鍛えていたから、夜道に出会う露出狂などは、簡単に返り討ちをしていた。ちょっとやそっとのことくらいで、ビビらない自信が、私は持っていた。

 バキィ

 ……でも、流石にこれは驚くってッ

 窓は一瞬重みに持ちこたえて、割れた。ガラスの雨を浴びながら、サソリは職員室に侵入した。体全身を纏う刃物のような鱗は、顔までビッシリと生えている。長い尻尾が、ゆらゆらと揺れていた。確実に、この星の生物じゃない。テレビゲームに出てくるモンスターそのものだ。  ゲームを小さい頃からそれなりに親しんできたので、直感でそう思った。

 だからか、このサソリの出現が、ゲーム初期に現れるイベント戦闘ではないのか? と思う……いや、願うようになった。私が殺されそうになると仲間が出現して、何かイベントが起こって、私は救われるんじゃないかと、思う。

 今、この世界が、ゲームのはずがないのに、混乱した、私は、イベントの襲来を待っている。

 だから油断してしまう。サソリは、のっそりと私へ歩み寄ると、一瞬私から視界を外した。つられて、私もサソリと同じ方向を、見てしまった。

 その瞬間、サソリはぐっと縮こまると、突然飛び込んできた。

 私は反射的に、真横へ飛んでいた。

 あ、危なかった……。ギリギリ、サソリの攻撃を……あ、あ、ああ「あああああああああああああああ」と自分の口から声が勝手に零れ落ちる。

 何故なら、私の右腕が、肩から肘にかけて、ざっくりと肉が抉られているからだ。制服が破けて、血がドクドクと溢れ出ている。白い骨が、ピンク色の筋肉に包まれている様子が精密に映る。試しに、指を動かしてみると、骨が軋み、筋肉が縮んで伸びる。見ているだけで……痛い。「痛い、痛いぃ……」

 私は、這い蹲りながら、サソリから距離を取る。サソリは、前足についた、私の肉を口に含むと、くちゃくちゃとガムを噛むかのように音を立てて食べ始めた。……最悪、出来れば草食系を望んでいたけど、超肉食系らしい。

 その姿を観察しながら、私はため息をつく。そして、今起こっているこの出来事が、現実だと頭に叩き込む。これはイベント戦闘なんかじゃない。夢でもない。証拠はこの痛みだ。まだ理解出来ないんだけど、私は、リアルの、生きるか死ぬかの世界に迷い込んでしまったんだ。

 何故? という思考は、今は置いておこう。

 しっかりしろ、と自分に激を撃つ。いやホント、マジでどうにかしないと、私はあのサソリの栄養分になってしまう。

 その時、私が持っていたはずの、あのプリントが無くなっていることに気づいた。ってか、右手で持っていたんだけど、サソリに食い千切られた衝撃で、どこかへ消えてしまった。近くに落ちていないか探すと、そのプリントは、変な形をしたテーブルの上に置いてあった。私が襲われた時に吹き飛び、偶然そこに収まったのだろうか。まぁ、今は別にそれはどうでもいい。サソリはまだ私の肉を上手そうにくちゃくちゃ食っている。今のうちに、逃げなくては……。

 足音を立てないように、そっと歩くと机の影に隠れた。ここでじっと息を潜め、あのサソリが徘徊している間に、窓から外へ逃げよう。

 そう思って抜き足差し足で進みだした。――瞬間、ピピピピッ! とポケットからけたたましい音が鳴り響く。

 私のケータイだ。慌てて引っこ抜くと、開いて画面のボタンを押す。音が消えた。最悪だぁ……、空気読んで!

「ぐちゃ……がががががッ」と鳴き声か唸り声かわからないけど、サソリは声を上げた。そっと頭を出して様子を伺うと、サソリはキョロキョロと自身の廻りに視界を散らして、私を探している。

 どうにかサソリが窓から離れた時に、隙をついて外へ逃げ出そうか……。と、そこで、ケータイで助けを呼べばいいことに気づく。ケータイが普及していて、本当によかったと心から願う。が、ちょっと待ってよ、私は一体誰に連絡をすればいいの? 無難に警察にでも連絡したいけど、「人よりも巨大なサソリに襲われています。えぇ、はい、なんか休みの朝に放送している戦隊物の怪獣みたいな奴に……え? イタズラ? ちょ、違います! ……あ」

 と、こんな感じで切られてしまうだろう。そういう話は小説にでも書いて発散しなさいと、説教されちゃうかも。もちろん、友達に連絡したって、私の頭がおかしくなったと恐がるだけだと思うし……。 

 よし、小学校で刃物を持った男性が暴れている。でいいか。これなら、警察も多分来てくれるだろう。

 だけど、ケータイの画面を覗いて絶句した。画面が真っ暗。ボタンを押してもうんともすんとも言わない。嘘でしょー。……まぁ、正直これは想定の範囲内、だ。物語的に、真っ先に役に立たなくなるのがケータイなんだよ。

 でも、私は諦めずに(諦めたらそこで死亡してしまう)適当にボタンを弄ってみる。どうにか電源が復旧しないか。僅かな希望へ指先を伸ばしていると、画面がスクロールした。

 黒い画面が下へと動いているのがわかる。進む進む。私のこの少し型の古い折り畳みケータイに、こんな機能は入っていないはずだ。少し前に廃れたスマートフォンならわかるけど、これは一般的なガラケーだぞ。

 一番下までたどり着くと、一つの白いボタンが、画面の中で浮いていた。


【E】


 と、白い文字で描かれている。E? アルファベット、だね。何これ? 

 ……いや、待って、この緊急事態において、この現象はあまりにも不可解かつ印象的だ。突然ケータイが動かなくなったと思ったら、知らない機能が付属されている。それに、あの巨大サソリの出現。これらをまとめると、……もしかして、これは、あの有名な、悪魔召喚プログ……ぺちゃ。

 ねっとりとした半透明の痰のような液体が、私のケータイの画面に垂れてきた。

 うわ、汚い。もしかして、私は興奮しすぎて、こんな唾を垂らしてしまったのか? なんてありえないよ、現実から目をそむけるクセを辞めろ! 嫌な予感を感じつつ、そっと振り返る。

 私の目の前で、刃のような鱗が光った。

 サソリは、足音や鳴き声を潜めて、私の背後まで忍びよっていやがった。

 顔が、笑っているかのように、見えた。

 私は咄嗟に足元に落ちていた定規を、サソリの口へ突っ込む。一瞬だけサソリはひるんだが、口内で簡単に定規をへし折ってしまう。

 その隙に、私は全力で駆ける。

 背中を何かがかすめた。空気を切り裂くような音が響き、ぞっと肝が冷えたけど、痛みは来ないので、外れたみたい。今度は無傷のまま、窓へ向かった。自分でも驚くほどの脚力で。

 あと少しで、窓へ到達する。

 果たせるかな、現実はそう上手くはいかない。私の頭部の先を何かがかすめた。

 瞬間、目の前に巨大な異物が落下した。

 机だ。

 私の頭をかすめ、それが、窓の隙間にちょうど挟まり、出口がふさがれる。

 振り返ってサソリを見ると、あぁ、完全に笑っているよ。ケタケタと顔を上下させ、そのたびに鱗が擦り合って音を立てる。

 私が、もうどうしようも無いとため息をつくと、その姿をサソリは楽しんでいた。

 ――殺そうと思えば、サソリはわざわざ退路を塞がずに、そのまま私へ机をぶち当てればよかった。だけど、それをしなかったということは、コイツには知能があって、……私のことを舐めているんだ。

 遊んでいる。

 それを理解すると、私の中でふつふつと湧き上がってくる感情があった。怒りはもちろん、もう一つある。それは非道い屈辱感だった。突然ファンタジーに連れてこられて怪物に襲われているだけで、イライラしているのに、今度はどう見ても人間様よりも下等生物にバカにされるってのは、私の人間として知能がある生物のプライドに、傷が生まれた。

 サソリは一通り笑い終えると、ゆっくりと近づいてくる。トドメを刺す気なのか。それとも、まだ私が死ぬまで、追いかけっこを続ける気なのか。どちらも、私には不味すぎる。

 この状況を打破する方法……。

 私は、それを少し考えてみてから、ケータイを眺めた。

 画面はべちょべちょに汚れているけど、かろうじで【E】の文字が読み取れる。

 確信は無いけど、他にどうすることも出来ない。

 私は微かな期待を指に込めて、【E】の文字を押した。

 きっと、この文字が、窮地を救ってくれるのだと、信じてッ。

 

 ――だけど、何も起こらない。

 音すらならない。震えもしない。

 サソリは、私が動かないことを確認すると、笑みを辞めて、前かがみになる。

 猫が、獲物を襲う直後のような、構えを取った。

 何も起こらない。いや、起これよ。

 ってか、あのさっきの直撃を喰らったら、確実に私は死んでしまう。

 マジで? それは流石に、終わっちゃう。

 後ずさりして、先ほどサソリが投げた机に、脚が当たった。もう下がれない。

 左右に逃げる隙間は無い。

 さっと周りを見回しても、私を救ってくれるようなキャラクターは、居ない。

 これが、現実。

「ゲームみたく、簡単には行かないんだよ」と、私の中にいる私が、語りかけてきた。

 最後に、もう一度ケータイを除くと、文字が浮かんでいた。


 【E】を実行しますか?

 はい    いいえ






























 私は、【はい】を押した。ガンッ



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