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アバンタイトル
静謐に張り詰めた空気を僅かに揺らす私自身の呼吸の音すら、まるでその場を汚してしまっているようで、思わず詰めていた息を私はゆっくりと吐いた。
殆ど飾り気の無い白いワンピース一枚の素肌には、ここの空気は少し肌寒い。耳元でアンタレスが囁く。吐息と間違う程の囁きを、私は聞き漏らさないように耳をすませた。
緊張しているようだな。
「当たり前でしょ」
オマエが失敗する筈が無い。心配は無用だ。体を鈍らせる、息を飲むな。
励ましともとれるような彼のらしくない言葉に、私は笑う。
何故笑う。
「だって、君がらしくないから」
不満げに唸るアンタレス。自覚が無いのかな。
「有り難う、私は大丈夫。きっと成功させるよ」
そうして私は足を踏み出した。勇者召喚の祈りの間へと。