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小悪党  作者: ひそか
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1章:1幕:小林輝次郎は正しい人間だ


小林輝次郎は正しい人間だ。


彼は普通の人間ならば見て見ぬ振りをする状況に、介入し解決をする。例えば同中学の人間同士のいじめ、学級委員長への立候補、不良と呼ばれる人間への注意と聞き入れられずに喧嘩になった場合の勝利。


入学僅か三週間で、少なくてもクラスの奴らにはそれを知らしめている。小林輝次郎は正義の人間だと。


あたしだってそれを認めている。否応なく認めさせられた。


しかし、正しい人間の正義に乗っ取った行いだって時として人を傷付けるし、そうなった時に周りはしょうがないと言うのだろう。正義によって傷付く人間が悪いと言う奴すらいるかもしれない。


あたしはそれを許さない。


事の始まり。あたしが正義の人間を相手どって悪党みたいな事をする事になった切っ掛けは、今から一週間前。あたしが校門で一緒に下校する友達を待っているところから始まる。


自慢じゃないが、あたしには友達がいなかった。本当、全然自慢にならない。それは、スカートの下にジャージ履いてて野暮ったいとか、近寄ると睨まれて恐いとか、周りでは色々言われているらしいが、本当のところはただたんにあたしがシャイなことが原因である。本当だぜ?


そんなあたしに話し掛けてくれたのが一条菖蒲いちじょうあやめさんだ。


彼女は菖蒲の花の様に美しい少女で、性格も良い。あたしが美術の授業でペアを組めなくて困っていた時に自分から名乗り出てくれたのだ。


ここまで聞くとまるで小林輝次郎の女バージョンみたいだが、おぞましい!まさか菖蒲さんがあの男と同じだなんてそんなわけないじゃん!いけんいけん、自分で言っていて鳥肌がたった。


ともかく、奴と菖蒲さんには決定的な違いがある。菖蒲さんには友達がいないのだ。


初め聞いた時はまさかと思った。彼女みたいな人に友達がいないだなんて信じられなかった。しかし、言われてみると確かに、彼女はいつも一人でいる様に思える。


彼女曰く、周りは彼女を気味悪がるらしい。成る程、出来過ぎた人間は避けられるのか。その点小林輝次郎はまだまだだと思う。


そんなわけで、あたしは出来たてほやほやの友達を校門で待ってたわけなのだが、暫らくしてやって来た菖蒲さんはどうも様子がおかしい。というか、どうもも何も昼食を一緒に食べた時はどうともなかった目元が、泣いた後の様に赤くなっている。実際、彼女は泣いたのだろう。


でも何で?


あたしの驚いた顔に、菖蒲さんは痛々しく苦笑して一言言った。


「ふられちゃった」


ふられた。ふられた?


それはつまり、スイングとかじゃなくて恋愛的な意味で?失恋ってこと?一体誰に?


信じられない。この美少女をふる奴がいるだなんて、一体どんな贅沢者なんだろう。彼女の長い睫毛が悲しげに揺れるのを見て、あたしはとんでもなく残虐な気分になった。顔も知らないそいつを頭の中でぼこぼこにする。


「菖蒲さん、平気っすか。ああ、目をそんなに擦ると駄目っすよ」


なにが平気か、だ。平気なわけ無いだろう。ろくに慰める言葉も思い付けない自分の語録に嫌気がさす。


「大丈夫よ心配しないで。ごめんなさい、情けない顔で。私の事は気にしなくて良いから」


逆に菖蒲さんに気を遣わせてしまった。一生の不覚だ。あたしは慌てフォローしようとする。


「良いわけ無いじゃないっすか!ええと…心配とか、するだけなら無料なんで、させといて下さい。ていうかします」


「ふふ。有り難う」


「ど、どういたしまして」


笑う菖蒲さんに、なんだか照れ臭くて目を泳がせる。本当にどこの誰なんだよ、あたしが尊敬し感謝し宇宙に誇る大好きな菖蒲さんを泣かせたなんて野郎は!


菖蒲さんは聞いたら教えてくれるだろうか?まだ友達になったばかりのあたしが、そんな込み入った事を聞いて嫌な顔されないだろうか?


そんな不安も先立って、あたしは質問出来ないでいた。


菖蒲さん、好きな人って誰っすか?


聞けたら良いのに。


「あーあ、うじうじしてちゃ駄目ね。こんなんだから小林君も相手にしてくれなかったんだわ」


思い悩むあたしに答えるが如く、菖蒲さんはあっさりあたしの疑問を解決した。ジャストタイミング。以心伝心かもしれない。だったら嬉しい。


「って、え?小林?うちのクラスの小林輝次郎?」


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