第1話 ピンチ
「君ね。次の定期テスト、もし点数悪かったら履修認めないからね?」
机に座っている白衣姿の中年の先生は向かい側に立っている女子生徒を見ながら言った。
「すいません。」
女子生徒はそう言うと頭を下げる。
「じゃあ、頑張って。もう帰って良いよ。」
「はい。」
女子生徒は返事をすると職員室から出て行った。
「彼女ついに留年の危機ですか?中谷先生。」
中谷と呼ばれた白衣姿の先生の前に座るスーツを着た同じ年ぐらいの男性が声を掛けた。
「そうなんですよ、新城先生。まったく、少しは青山を見習って欲しいもんですよ。」
中谷はやれやれと手を振って言う。
「青山って、青山蓮ですよね?あの天才の。」
「ええまあ。確かに、天才には違いないでしょうね。彼は。」
「おーい! 美樹。どうかしたの?」
職員室から出た美樹と呼ばれた女子生徒は目の前の階段から降りてくる女子生徒に目を向けた。
「聞いてよ綾香~。あのはげ谷が今度のテストだめだったら留年させるって~。」
美樹はそう言うと綾香と呼ばれた女子生徒に抱きついた。
「はげ谷って…中谷先生のこと?ということはやっぱり、化学で呼び出されたんだ。」
綾香は苦笑いしながら美樹を離す。
「うん。どうしよ~。」
「どうしようって…勉強すればいいじゃない?」
「嫌!!」
美樹は頭をぶんぶんと横に振った。
「は~。じゃあどうして化学なんて授業とったのよ…?」
「それは…。憧れの山下先輩が化学とってたから!!」
美樹は満面の笑みで答える。
「意味わかんない…。」
美樹の表情に反し綾香は暗い顔をしていた。
「だって、同じ授業とってるんだから部活の終わりとかで…。『先輩、ここがよくわかんないんですけど…。』『ああ。化学?大丈夫僕が教えてあげるよ。』『本当ですか?ありがとうございます。』『そのかわり、君の事を僕に教えて欲しいな。』『先輩…?』『ダメ?』『ダメじゃないです。』なんてことになるかもしれないでしょ!」
美樹は立場をころころと変えながら言った。
「…。それで?もう化学とって今度が最後のテストだけど一回ぐらいはそうなったの?」
綾香は苦笑いしながら美樹に尋ねた。
「それが…質問に行ったら、もうすぐ受験だからごめんって…。」
「はあ~…。」
綾香は額を押さえながら頭を左右に振った。
「なんか、悩んでるの嫌になった!部活行ってくる!!」
美樹はそう叫ぶと綾香を置いて走っていった。
「バスケットボールについては優秀なのに、少しは勉強したっていいじゃない。」
綾香は美樹の後姿に呟くと反対方向に歩いていった。




