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黒之戦記  作者: 双子亭
第1章 戦火の花嫁
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『出会い』第3話

作者の諸事情により、6月に投稿することができず、申し訳ありませんでした。

   リトルベルク南門ーーーー




 時は少し遡り、場所は商人街からリトルベルクを護る南門に移る。リトルベルクは辺境の田舎城下町ではあるが、その護りは堅固であった。町を囲む城壁は厚く、容易に越えられぬよう高く造られ、その周りを水で満たされた堀が囲んだ。東西南北には門が設けられており、扉はエルフの国に生息する霊力を吸って育った『霊樹』の材木を使用しており、物理的な攻撃はもちろん、霊術の攻撃にも耐えることが出来た。これだけの護りは、主に南方からの獣人族の侵攻や、最近では力を増した盗賊に対して備えるものであった。


 そして城門には武装した下級騎士や従者たちが詰め、城内に入る隊商や旅人の検問を行っていた。度重なる盗賊の被害や『平民解放軍』の存在から、検問は普段よりもより厳重に行われ、城門前には入城するための長い列ができていた。



「…………よし、通っていいぞ」

「はい、ありがとうございます」



 入城許可が出された隊商の一団は城門を通り、商人街へと進んだ。3台の馬車と数騎の騎兵で構成された隊商の馬車の造りはしっかりとしており、馬の質もよく、また隊商を率いている小柄な男の装飾から見ても財産が豊かな商人であることが分かるだろう。隊商は商人街に入ると大きな構えをした商店の前で止まり、馬車の中から様々な大きさの木箱を担いだ人夫たちが店の中に運び込んだ。店の看板には『リンドウ商会 リトルベルク支店』と書かれていた。



 人夫たちが積み荷を店に運び込む中、馬車の中から武装した男たちが現れた。彼らは王都からリトルベルクの間の道で商人と積み荷を護るために雇われた傭兵たちだった。傭兵たちは、雇用主の商人から金の入った小袋を受け取ると商人街の人ごみの中へと消えていった。統一された鎧を身に纏った騎兵たちは辺りを警戒しながら隊商の周りを囲っていたが、その中で唯一装いが違う騎兵が商人の近くにより下馬した。下馬した者の髪は赤色で長く、顔は中性的で女物の衣装を着れば誰も男とは思わないような顔立ちをしており、皮の鎧を纏い槍を提げていた。



「リンドウさん」

「ああ、これはクリスフォード殿。如何なされましたか?」

「護衛依頼も終わったので報酬の受け取りと別れを言いに参りました」

「………例の話は考えてくれましたか」

「ご好意は有り難いのですが、今回はここリトルベルクに来ることが本来の目的なので」

「先に提示した額よりも倍の報酬をお約束すると言ってもですか……」

「すみません、お受けできません」

「………はあ、わかりました。では、こちらが今回の報酬です」



 小柄な商人の男、エリアス・リンドウは懐から小袋を取り出し、目の前の槍を提げた少年、ウィリアム・クリスフォードに手渡した。



「………提示されていた報酬額よりも多い気がするのですが」

「それは今回の旅の道中におけるあなたの活躍の分の上乗せです」



 リンドウ商会の隊商が王都からリトルベルクに向かう間、三度の盗賊の襲撃を受けた。盗賊たちはこの乱れた時勢によって勢いがあったが、商会専属の護衛の騎兵とウィリアムの率いる傭兵団の奮闘によって切り抜けることができた。中でもウィリアムの槍の働きは大きく、その働きを間近で見たエリアスは彼を商会の専属護衛に引き入れようと説得し続けたが、結局今日まで叶うことはなかった。



「本当は我々リンドウ商会専属護衛をやっていただきたいのですが、せめて王都までの帰路の護衛は頼めないでしょうか」

「リンドウさん、先にも私の目的はリトルベルクに来ることと言いましたが、実際の理由は傭兵稼業をやめて残りの人生をリーネンブルク領の小さな村で過ごそうということです」

「な、何故に傭兵をやめるなどと! あなた程の腕があればどれだけでも富と名誉が手に入るというのに!」

「……大事な人と約束を交わしておりまして」

「………そうですか。いや、そういうことでしたら私はもう何も言いません」



 そういうと、エリアスは苦笑いを浮かべた。リンドウ家の次男として、商会を仕切っている父の、そして商会を継ぐ兄のために今までたくさんの商談を行い、相手を自分に引き入れる術を学んできたエリアスはこの説得が失敗に終わったことに少々落胆した。



「それでは、私はこれで……」

「あ、ありがとうございました!」






   リトルベルク商人街――――




 ウィリアムはリンドウ商会を後にすると、商人街を北に進み、中央広場へ向かって歩き出していた。ウィリアムがこのリトルベルクに来るのは数年振りのことで町並みは変わらずにあったが、昔の頃とちがって活気づいているような気がした。王国全体が不安定な状態であることは、王国が商売相手でもあるウィリアムにとって簡単に察知することはでき、その影響が一番先に表れるのは最下層の階級の平民であることは経験から知っていた。だからこのように昔より活気づいている町を見て不思議に思った。



(たしか、領主が先代のイリーナに戻ったのだったか… それにしてもすごいなこれは…)



 町の活気に気負わされながらも、ウィリアムは店をまわって旅に必要なものを買いそろえた。彼が目指す村はこのリトルベルクから南へいった所にあり、歩いて数日かかるために旅の支度が必要だった。



 買い物を終えたウィリアムは手頃な宿を取り、荷物を部屋に置いてくると商人街に戻った。 日はまだ昇りかけている途中だが、長い旅の間は粗末なモノしか食べられなかったので、ウィリアムは昼食を摂りに傭兵ギルドに向かった。傭兵であれば食事代が半額になる上に、彼の大好物である『鳥モモ肉の炙り焼き』が食べられることもあり、彼の歩く速さも自然と速くなった。



 ギルドの前に来て、初めてその前で異様な人だかりがあることに気づいたウィリアムは、遠巻きに見ていた男に尋ねた。



「あの、これはいったいどうしたのですか?」

「ん、ああ。何でも余所者の傭兵たちが娘の持つ剣を取り上げたとか……」



 なるほど、確かに騒動の中心には傭兵らしい男たちと女の子がいる。



(………あの顔、確かリンドウ商会の護衛の中にいたな……)



 ウィリアムは記憶の中にある、今朝までいっしょだった傭兵たちの顔を思い浮かべた。顔は赤かったが特徴的である長身の男を思い出し、ため息を漏らした。酒が入っているとはいえ、このような軽卒な行動を取るような輩とともに旅をしてきたかと思うと落胆した。



「……まあ、その内片付くだろうとは思うがな」

「何故そう思うんですか?」

「さっきサイトウ様が人垣の中に入っていくのが見えたからな」

「……サイトウ様?」



 そう答えると、男はウィリアムの方に振り返った。



「お前さん、あんまこの辺りで見ない顔だな」

「はい、今朝王都から来たばかりで……」

「そうか、それじゃあ知らないのも無理はねぇな。サイトウ様は今侯爵様の下で政を仕切っていらっしゃるお方だ………ほれ、あの茶色のローブを纏っているのがそうだ」



 男はそう言って人垣の中心を示した。先ほどは人ごみで見えなかったが、確かに茶色のローブを着た者がいた。しかし、頭はローブを被っていて分かりづらいが、あの髪の色は……



「……黒、髪?」

「おお、サイトウ様の髪は黒色だな」

「なっ!」

「まぁな、最初は俺らも近づきづらかったがな、少しずつ話していく内にいい人だっていうのが分かってな。それにあのお方は政を仕切っていらっしゃるが貴族じゃない。だから俺らも気安く声を掛けたりすることができる」



 ……つまり、あのローブの男、サイトウという者は平民の身分でありながらリーネンブルクの治政を行っているということである。ウィリアムはこの時勢に平民に権力の一部を任せるイリーナの器の大きさにも驚くが、それをうまく導いたサイトウという男にはさらに驚かされた。



 そう考えていると、人だかりから怒鳴り声が聞こえ、直ぐに剣を交える音が聞こえた。



(まずい!)



 サイトウという者はよく分からないが、立ち振る舞いから見ても戦いに慣れているとは思えない。ウィリアムは人だかりを掛け除けて中心に向かった。なぜそのような行動を取ったかはその時は分からなかったが、考えるよりも先に体が動いていた。



 人だかりの中心では3人の傭兵たちが皆抜剣しており、長身の傭兵は見事な装飾の剣を持っていた。対する側には壮年の男が倒れており、その男をローブの男が守るように抱いていた。その近くには村娘の風貌をした少女が目に涙を溜めて立っていた。



 その場を離れようと振り向いた傭兵たちは、ウィリアムの存在に驚いていたが、ウィリアム自身、彼らなど眼中になくただ茶色のローブを身に纏ったユウキの姿を捉えていた。

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