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黒之戦記  作者: 双子亭
第1章 戦火の花嫁
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『出会い』第1話

   リーネンブルク侯爵領イリーナの館ーーーー









「…………ここは?」



 気がついたら、俺は知らない部屋に寝かされていた。部屋は中世欧州風の造りであり、ベッドは高級ホテルに行かなければお目にかかることはないだろうと思われる、大きくて寝心地の良いベッドだった。



「……どうやってここに来たっけ?」



 分からない。どうしても俺はここまで来た記憶を思い出すことができなかった。



「痛っ」



 周りを確認しようと体を動かそうとしたら、体に激痛が走った。シーツを取ってみると胸の辺りに包帯が巻かれており、その上から着ている服は古めかしい服装だった。



「こんな怪我、いつ作ったんだ?」



 大怪我をしているようだが、そのことさえ思い出すことができなかった俺は、最初から順序立てて思い出すことにした。



 俺の名前は『サイトウ ユウキ』、高校3年生で身長は170cmくらい。太っている訳でもなく、痩せすぎている訳でもない。また性格は明るすぎず、暗すぎず、要は中肉中背の人並みの性格をした学生であるということ。他の人よりも秀でていることは、物覚えが少しいいことくらいだ。

 さて、俺がこの見知らぬ地に来た経緯だが、一番はじめに思い出せるのは部活が終わって帰宅しようとしていた時のことだ。俺は弓道部に所属していて、最後の大会も近くて1人で居残り練習をしていた。いつもは何人かの後輩と練習をするのだが、その日後輩たちは都合が悪く、俺1人で練習していた。帰宅時間となり、部室を締め、他の生徒たちはもうとっくに帰ったのだろうか、1人で門に向かって歩こうとしていたときだった。



 透き通った、きれいな鐘の音が聞こえてきた。



 振り返った俺は目を疑った。学校の七不思議にもなっている、『鳴らずの鐘』が鳴っていたのだ。鐘の音はとても澄んでいて、音楽に興味を持たない俺でさえ、聞き惚れてしまっていた。鐘はいつまでも鳴り続けていたが、不意に、突風が俺を襲った。風は周りの砂や埃をまき散らしながら、吹き抜けていった。あまりの勢いと砂や埃のせいで俺は一瞬だけ目を瞑り、再び目を開けた時、



 見知らぬ広場に、俺は立っていた。



 突然の状況変化についていけなかった俺はしばらく呆然としていた。広場はそう広くはなく、周りを苔が幹にびっしりついた大樹が囲んでいて、まるで樹海の中にいるような感じだった。今まで持っていた荷物はなく、どうやら着の身着のままでここに来てしまったようだった。携帯も鞄の中に入ったままで連絡もとれず、途方にくれているときだった。



 地獄の底から響いてくるような、獣のうなり声を聞いた。



 うなり声は木々の間から聞こえ、草木をかき分ける音や地鳴りのような足音とともに近づきつつあった。そして俺の前に表した姿は俺の想像を超えたものだった。

 体長はマイクロバスと同じくらいだろうか。体毛は燃えるような赤色で、頭には金色の双角がついている狼に類似した化け物が、鋭い牙を見せながら少しずつ近づいてきた。



  逃げろ―――



 本能がそう叫んだように思えた俺は、化け物に背を向けて逃げ出そうとしたが次の瞬間、背中に鋭い痛みを覚えて、そのまま地面に倒れてしまった。俺は近づきつつある化け物を視界の端にとらえながら、激しい背中の痛みによって意識を手放したのだった。







 そして、気がついたらベッドの上に寝かされていたのだ。痛みが少し和らいできたので、上体を起こして部屋を見渡した。部屋は過度な装飾はされておらず、特に目を引くようなものはなかった。思うように体を動かすことができなかったので、再びベッドの中に戻ろうとした時だった。部屋の唯一の出入り口である扉からノックのする音が聞こえ、扉が開かれると水色の髪をした老女と猫耳を付けた赤髪の少女が現れた。あまり見かけない色の髪に俺は戸惑ったが、老女は笑みを浮かべてこう言った。



「気がついたのかしら」

「………………あの」

「あら、何かしら?」

「……その……ここはいったい…それにあなたは……」

「私の名前はイリーナ・ウィル・リーネンブルク・ヴェルハイム、アークランド王国に忠誠を誓う侯爵家の当主で、ここはアークランド王国リーネンブルク侯爵領にある私の家よ」

「………………」

「全くわからないといった感じね。無理もないわ、あなたにとっては『異界の地』ですもの」

「!! それはいったいどういう……」

「待って、私は名乗ったのにまだあなたの名前を私は知らないわ」

「すみません、えっと、お……私の名前は『ユウキ・サイトウ』といいます」



 そして俺はここまでの出来事をイリーナさんに話した。やさしい笑みを浮かべるイリーナさんに対して俺は徐々に警戒心を解いていった。話し終わると、イリーナさんはしばらく何か考えるかのように目を閉じていたが、目を開けて後ろに控えていた、メイド服を着た赤髪少女に向かって、



「リン、私は彼の言っていることが嘘のように聞こえなかったのだけど、あなたはどう思う?」

「……私にもそう聞こえましたが、しかし……」

「髪が黒いから信用できない、と」

「……はい」



 そういうと、猫耳メイドのリンは俺を睨みつけた。イリーナさんの影で分からなかったが、どうやら彼女は剣を腰にさしているようで絶えずその手は剣の柄を握っていた。しかし、髪が黒いから警戒されるとはどういうことだろうか?



「それを説明するには、この世界の神々のことから話さないといけないわね」

「……神、ですか?」



 イリーナさんはこの世界の簡単な歴史と、神々の加護を受けることで使うことのできる『霊術』と呼ばれる力について説明した。霊術には火、水、土、風の4つの属性があり、これらを『四大属性』といった。またこれとは別に、光と闇の属性というものがあり、この2つの力を『二大極性』と呼んだ。光と闇の属性をもつ者はこの世界では非常に少なく、光の属性はウェルステリア教国と呼ばれる国を治める一族のみが確認されており、闇の属性は古代四大霊神統治時代に女神デルフィニアとともに襲来した『影の民』以外では認められていないそうだ。最も、『影の民』はその昔、主神によって異界の地に追放されたそれ、この大陸には存在しないことになっている。そして、これらを見分けるのは髪の色らしい。4つの属性と2つの極性の象徴する色が髪に現れるらしく、俺の黒髪は闇を象徴する色だ。



「私がその『影の民』かもしれないから、ですか」

「そうよ、だけどあなたは『影の民』ではないでしょ」

「はい、そうですが……」



 だがしかし、俺自身をその『影の民』でないという証明する手段がない。いくら俺が異世界から来たと言っても、少なくとも後ろに控えるメイドは信じてくれないだろう。何か髪の色以外で証明することはできないだろか……



「……そうだわ! あれを使ってみましょう」



 そう言うと、イリーナさんは部屋を出て行った。部屋に残ったのは俺に睨みをきかす、猫耳メイドのみ。話かけようかと思ったが、今にも腰の剣を抜かんとする勢いに俺はただ目を合わせないように、外の景色を眺めていることしかできなかった。しばらく経つと、再び扉が開かれ、イリーナさんは小箱を抱えて部屋に入って来た。小箱開けたイリーナさんの取り出した物は、水晶のようなものだった。



「これはね、霊導工学で教鞭を取っている教え子が発明した霊導具で、そのヒトの持つ能力のすべてを測定することができるの」

「すべて、ですか」

「そう、すべて。これを使えばあなたの霊力の属性も一目瞭然よ」



 イリーナさんは俺に水晶に手を当てさせた。無色だった水晶は白く濁り始め、渦を巻くようにしていたが、次第に色は変化していった。



「……赤、に見えるんですけど……」

「あら、私には青に見えるわよ」

「っ!! イリーナ様、黒です! やはりこの男、ここで殺さねば……」

「ま、待って! 今度は緑に見える!」

「あら、本当。さっきは青に見えたのに、今は茶色に見えるわ」



 結論から言うと、分からなかった。水晶は様々な色を映し出し、俺がどの属性なのかを示し出さなかった。まあ、元々俺自身何の加護も受けていない異世界人なのだから当然といえば当然だ。しかしこれで俺が安全であるという証明になったのだろうか?



「『影の民』でないことは私たちにだけ証明できたわね」

「? それはどういうことですか?」

「この能力測定水晶は世界でこれ1つしかないの。しかも発明されたのはつい最近だから世間はこれの存在を知らないでしょうね」

「……それで私はどうすれば……」

「まあ、安心しなさい。しばらくは私の治める領内にいるといいわ。老いてはいても侯爵家の当主なのだから、あなたの身の安全を保証することくらいできるわよ」



 あまり納得のできない説得をされたが、現状ではイリーナさんに頼るしか道はないように思えた俺は、彼女の提案に従うことにした。だがしかし、これをよく思わない者もいるわけで……



「…………」

「あらあらリン、そんなに見つめて………一目惚れ?」

「なっ/// ち、ちがいます! 私はただ」

「フフ、いいのよ。私もあなたの年の頃には」

「だから………くっ、やはり貴様を殺すべきだ!」

「ちょ、言い訳できないからって、俺に剣を」

「問答無用!!」

「なっ、待て、いや、待ってください、おねガッ」



 言い終わらない内に剣の平で殴られた俺は、理不尽な痛みとイリーナさんの「あらあら」という声を聞きながら、俺は再び意識を手放した。







 

   イリーナの書斎――――









 異界の人間と話をしてから時間は経ち、あたりはすっかり暗くなり、イリーナは書斎にある『光霊石』に霊力を通して光らせ、机の上に置いた。机の上にはたくさんの手紙が山を作っていたが、今はそれらは両脇に片づけられており真ん中には先ほどの水晶が置かれていた。



「………………」



 イリーナは水晶の前の椅子に腰掛けながら、人差し指を顎にあてながら考え事をしていた。これはイリーナが若い頃からの癖のようなもので、集中して考え事をしたい時はいつもこのようにしていた。イリーナがこれほどまでに悩ませるのは、異界の人間の属性を確認することができなかったことではない。



 まず1つ目の悩みの種は彼を傷つけた者についてだ。彼の背中の傷は大きな爪のようなもので切り裂かれられており、傷の深さ、大きさから人の為した技ではないと、確信していた。ならば誰が彼を傷つけたのか。今の彼女は結論を出すことが出来なかった。



 2つ目は彼をここまで連れて来たのは誰なのか、ということだ。重傷を負った少年が誰の目にもとまらずにここまでくるのは不可能であり、彼の倒れていた場所には微かだが風霊術の痕跡があった。ヒト1人を運ぶことができるということは、相当な力を持った風霊術士でなければ為すことができないほどのことであり、イリーナの知る限り王国にはそのようなヒトはいないのだ。



 3つ目の悩みの種は目の前にある水晶だった。この水晶は測定したヒトのあらゆる『能力』を知ることができ、それは必ずしも霊力だけとは限らなかった。イリーナは目を開けて再び水晶を見た。そこには変わらず文字が浮かんでいた。その水晶の表す文字こそ、イリーナを悩ませる種だった。そこには………







  錬成術士―――







 と書かれていた。



(錬金術士ならば過去に存在したけど、錬成術士とはいったい………)



 イリーナは再び目を閉じて考え始めた。しかしどれだけ考えても、イリーナにとって最良となる結論には至らなかった。

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