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黒之戦記  作者: 双子亭
第2章 雲海の古城
30/33

『留守役』第3話

長い間、更新できず、すみませんでした。


なかなか納得いく書き方ができずに悩んでいました。

    ケルト村近郊、ケルト街道ーーーー









 リトルベルクを出発してユウキ率いる大隊はケルト街道を北上した。ケルト街道はリトルベルクとケルト村を繋ぐ街道であり、織物を運ぶ馬車のために街道は広く平らに整備され、街道沿いには織物を買いに行く商人や織物を運ぶ人夫の泊まる宿屋もしっかりと整備されており、本来ならば1つの村に対してここまで資金と時間を費やすことはなく、それだけリーネンブルク領の収益におけるケルト織物の占める割合が大きいことが分かる。



 リトルベルクを発ってから数日が経ち、ユウキたちはあと1つ丘を越えればケルト村が見えるところまで来ていた。ユウキは大隊に小休憩の許可と丘の向こうへ行くことの禁止を言い渡し、ケルト村の様子を探らせるために斥候を放っていた。



「ふぅ〜」



 俺は馬から降りて、兵士に馬を預け近くの小岩に腰掛けた。護衛のアヤノも同じ小岩に座り、俺が懐から出すものを見て、



「………なに、それ?」

「ん、あぁ。これは扇子って言うやつだ」

「………センス?」



 アヤノは不思議そうに小首を傾げると、俺の手の中にある扇子をじっと見た。クレヴァー城にて仕事の合間に、元の世界でも持っていた扇子を思い出しながら試行錯誤の結果出来たのがこの扇子だった。大森林で採れた木材を圧縮成形して親骨・中骨を作り、地紙には自分で錬成した和紙を使用した。そんな扇子を広げパタパタとアヤノを扇いだ。



「………ん、涼しい」



 目を閉じて涼んでいるアヤノに和んでいると、不意に気配を感じて振り返った。背後に立っていたのは今回率いてきた、大隊の隊長であるハーフエルフの『アメリア』だった。年は俺よりも上であるが、容貌をみると十代後半の女の子と変わらない。肩あたりで切り揃えられた髪は鮮やか若草色で目鼻立ちは整っており、かなりの美形ではあるが、その目は鷹を彷彿させるような鋭さがあり、実際、ここまで兵の指揮をそつなくこなし、かつ兵からも慕われる、女性としても指揮官としても優れたアメリアが俺に斥候が戻って来たことを報告した。



「それで、斥候は何と」

「はっ、ケルト村村長宅に複数の馬が繋がれ、武器を載せた馬車も1台見つけました」

「キースはいたか?」

「いえ、確認できませんでしたが、その仲間と思われる武装した者を確認。風の民が1人、火の民が2人、土の民が2人の計5人が全て軽武装です」

「そうか……… よし、別働隊を作り、村内のキースの仲間を捕縛してくれ。もうじき日も沈む、対象には気づかれないよう、特に風の民は霊術でキースに俺達のことを伝えるかもしれない。捕縛完了後、本隊は村へ入る」

「了解しました……… しかし、貴族の子弟を連れ戻すにしては念入りな作戦ですね」

「まぁ、今回は化け物退治に来たんだ。俺達が来たことで興奮したキースが妙なことをして化け物に襲われたりでもしたらいかんだろう」

「………その化け物のことですが、私は未だに信じられません。村民が大型獣を見間違えたのでは?」

「そうだな。そうだといいんだがな」



 俺は手でアメリアに下がるよう促すと彼女は一礼すると、別働隊再編のため駆けて行った。その後ろ姿を眺めていると、不意に袖を引かれた。アヤノだった。



「どうした?」

「………アヤは何、すればいい?」

「アヤノは俺と一緒に村へ向かってくれ。それと何か異変に気づいたら話してくれ」

「ん………」



 アヤノは頷くと俺の後に続いて出発の準備に向かった。









    ケルト村、南門近くーーーー









「………チッ、何で俺がこんなド田舎で………」



 南門の柱にもたれ掛かる若い男はパイプを燻らせながら愚痴をこぼした。パイプの煙はすうぅと昇り、星の瞬く夜空に消えていった。男は南へ向かって伸びる街道の先の暗闇を眺めた。



(今頃、領都で美味い酒を飲んでいい女を抱いているだろうに………)



 なのに何故、自分はここにいる? 自問自答してみるが、そんな答えはすでに出ている。我らがキース様の命令だからだ。命令は酒場で酒を煽っている時に仲間の奴が知らせに来た。日雇いの仕事の後でクタクタの身であったが、昔からの縁と金を借りているせいで断ることもできず、知らせに来た奴とキース様の屋敷に向かった。



 屋敷の前にはすでに他の仲間が集まっていた。集まった人数からすると40から50人程であり、彼らも何で召集されたのか知らない様子だった。そんな奴らと屋敷の前で待っていると、門が開き中から騎乗のキース様と3台の馬車出てきた。



「馬に乗れる奴は馬に乗れ。それ以外は馬車に乗れ」



 キース様はそう言うと、馬を進めた。門前に集まった者は我先にと馬や馬車に乗り、そのまま北門を通ってケルト村まで来た。ケルト村の村長は最初は俺たちが滞在することを嫌がったが、武器をチラつかせると大人しくなった。村長の家に馬車をとめるとキース様は俺の肩を叩いて



「お前、『風話』できるか?」

「へ、はい、まぁ一応」

「ならここに残って、何かあったら伝えろ」

「は、はい」



 俺がそう答えるとキース様は数人を村に置き、残りの者を連れて森の中へと入っていった。


 それから一行に彼らは帰って来ない。


 何が起こるわけでもなく、暇を持て余しているとあっという間に夜となり、そろそろ寝るか、と宿に向かおうとすると、全身ローブで身を包んだ者が家屋の影に隠れていることに気づいた。



「おい、テメェ」



 腰に下げた剣に手をかけながら俺はローブ野郎に近づいたが、首筋に鈍い痛みを感じたと思ったら次の瞬間、地面にぶっ倒れた。



「う、うぅぅ………」



 呻きながら俺は視線を上に向けた。そこにはローブ野郎がフードを取っていた。



「赤猫の、戦士………」



 俺はこっちを睨みつける赤猫戦士を最後に意識を手放した。









    ケルト村、村長宅ーーーー









 ケルト村からの合図を受け、俺は本隊を率いてケルト村に入った。最初、寝静まった村は兵士の鎧の擦れる音や駆ける足音でポツポツと家に明かりが灯り、窓から不安そうに外を窺う姿が見えた。キースが残していった者はいくつかに分けて空き家や厩に放り込んで見張りをつけた。兵士に村外での野営の準備の指示を出すと、俺は村長に招かれて、村長宅に来た。その日は夜も遅くということで、俺は村長宅で泊まった。



「………あぁ、間違いない。本物のヴェルハイム家の印だ」



 翌朝、村長宅の一室にて、村長は俺のイリーナ様から借り受けた指輪印を懐から取り出した手紙と照らし合わせながらそう答えた。



「しかしながら、先日のあの暴虐な輩が化け物退治に来た時は驚きました」

「その事について、ケルト村には大変ご迷惑をお掛けして申し訳ない」

「いやいや、誰もケガをしておりませんので。それよりも件の化け物のことですが、本当にお引き受けして頂けるのですか?」



 俺は首を縦に振ると、村長は深々と頭を下げた。



「ありがとうございます。村の若者は皆、怯えてしまい手に負えない状態でした」

「我々も人を相手に戦うことに慣れておりますが、化け物と戦うのは初めてです。できれば、化け物を見た少女に会わせて頂けますか?」

「えぇ、もちろんですとも」



 村長は応えると、人をやって少女を連れて来た。



 連れて来られた少女は年は10代くらい、長い新緑の髪を三つ編みにして左肩から前に流していた。そんな中でも目を奪われるのは彼女の目だった。彼女の緑色の瞳はすべてを見透かすような深みがあり、その瞳が俺の事をジッと見つめていた。そしておもむろに俺を指さして、







「………まおうさま?」



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