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黒之戦記  作者: 双子亭
間章
26/33

『クレヴァー城市整備・クレヴァー城市西部開発編』

    リーネンブルク領西部、クレヴァー城市ーーーー









 俺が最初に手を付けたのは東京ドーム34個分の広さを持つ、クレヴァー城市の内部構造だった。その理由はクレヴァーがリトルベルクのような中世欧州風の城塞都市ではなく、古代ローアを彷彿させるような建造物が所狭しと並んでいる、時代遅れな構造をしていた為だ。イリーナ様から頂いた短剣『メナスの短剣』は武器として使うのではなく、所謂、記憶媒体として使われるものだった。そしてこの短剣の中にクレヴァー城の都市構造が記憶として残されており、どうやら記憶されていた都市は『四大精霊統御時代』の都市構造だったらしく、余りに"時代遅れ"な感じがしたので早急に手を入れ始めた。俺自身の錬成術士の能力や元から都市内にあった建造物という材料があったので開発は難なく行われ、リトルベルクの都市構造や前の世界で旅行に行った、フランスのシャンゼリゼ通りの風景を思い出しながら再開発した結果、取り敢えず自分評価では短時間の開発期間を考慮すると無難な都市が出来たと思う。この都市を見たアレインの反応は、



「…………」



 絶句というか、微妙に引いた感じでクレヴァー本城から城下町を眺めていた。クールダンディなアレインがあまりにもキャラ崩壊するような反応を見せたので俺は不安になった。


「ア、アレイン。何か問題があったか? すぐ直すんだが」

「………そう言えば、お前は王都を見たことがなかったか?」

「へっ? あ、あぁ、行ったことはないが」



 はぁ、と溜息をつくアレインは俺と向き合って答えた。



「はっきり言って、余りに整い過ぎている」

「整い、過ぎる?」

「あぁ。まず城内の道だが、王都では貴族の住まう区画だけ石が敷き詰められているが、ここは道という場所にはすべてに敷石が敷き詰められている」



 アレインが言うには王都の貴族街のみ舗装されている道路が存在し、その他の道路はすべて土がむき出しの状態であり、余程の蓄えのある貴族でない限りこのような開発を行わないという。その上、見たことのない霊導式街灯や鮮やかな桃色の花を咲かせる街路樹が道路脇に等間隔で並べられている。そして整えられた道路の両側に建ち並ぶ、建物もまた統一的なデザインであり、アレインの記憶の中にある華やいだ王都の貴族街をより一層色あせて見せるには十分な景観だった。



「それとあれだ」



 アレインの指差した所には、周りの建物よりも一際大きいサファイア色のオベリスクが陽光の下、堂々と輝いていた。



「あれは何だ?」

「あ、あれは下水処理装置」

「げすい…… なんだ?」

「汚れた水をキレイにすることだよ」

「…………」


 ユウキの話しを聞いたアレインは呆れた表情でオベリスクを見た。王都では汚れた水が出れば、家の周りの道に捨てるのが普通だった。貧民区画に行けば、汚水だけでなく、人糞や尿、獣の死体まで捨てられているが、ここではどうやら側溝に汚水を集め、それがあのオベリスクの下に流れることで、清浄化し、城外へと放流されるようだ。



 アレインはオベリスクよりも奥に見える、クレヴァー城市の城壁を眺めた。厚く、高い城壁がクレヴァーの城を取り囲むようにそびえ立ち、城内の民に安心を与えるには十分な存在であり、その上、先のロータスからの避難時に活躍した古代兵器が小塔に備えられている。



(侯爵家の庇護下にあるとはいえ、辺境でこれ程の力を持てば、中央貴族は黙っていないだろうが………)



 再び城下を見ると馬車から商品を下ろす指示を出す商人やせっせと荷物を運ぶ人夫達の姿が見え、別の方向を見ると職人街からはもう職人達が炉に火を入れたのか煙の筋がいくつも上がっていた。居住区画もいくつもの煙が上がりもうすでにかなりの数の者が入城しているしていることが分かる。



「かなりの人数が入って来てるようだが、食料の方は大丈夫か?」

「中小商人や近隣の村から食料を買い付けたり、イリーナ様が援助して下さったりしているが、あまり長くはもたないだろう。だからこれを作らせてる」



 俺が懐から出したものは、元の世界でいう馬鈴薯に近い作物の『アムル芋』だ。南部大陸を原産地とするこの芋は馬鈴薯と似て比較的に痩せた土地でも栽培が可能な作物であり、肥沃な土地であれば種まきから2ヶ月で実り、適切な環境であれば長期間の保存も可能であるから飢饉対策にはもってこいの作物だ。ただ、いいこと尽くしでは無い。元の世界同様に芽には毒を含んでいること、短期間に連作することによる耕地の貧困化、そして寒さに弱いので寒冷地では栽培できないのだ。。



「芽は食べる時に取り除けば問題ないな。寒さに関して言えば、リーネンブルク領は基本的に温暖な土地だ。それも問題無いだろうが………」

「連作についてはこれを使う」



 俺はアムル芋の横に置いてあった植木鉢を手に持ってアレインに見せた。



「ユメミルの花?」

「そう、このユメミルの花を使う」



 このユメミルの花、リーネンブルク領においてはどこでも見られる一般的な花であるが、この花は葉や茎で大気中の霊気を吸収して根に保存する性質を持つ。そして自身の保存量を超えた霊気は根を通して地中へと放出される。あらゆる植物は霊気を吸収して育つが、このクレヴァーの耕地においてはアムル芋が吸収した霊気をユメミルの花で補う、という型式で農作をさせようと考えている。



「ただの雑草だと思っていたんだが、そんな効果を持っていたのか」

「俺も最初知ったときは驚いたよ。それこそ夢でも見ているような、そんな気持ちになったよ」

「………この花のことも能力で調べたのか」

「あぁ、そうだよ」



 俺の持つ錬成術士の能力もあれから何回か使う内に分かってきたことがある。生物の錬成を行うことは出来ないが、その生物を知ろうとすることは可能らしく、手に触れて頭で念じると頭の中にその生き物のことが詳細に入ってきた。アムル芋もユメミルの花もそうやって知ることが出来た、謂わば偶然の産物である。



「南部大陸のアムル芋とリーネンブルク領のユメミルの花を使った農法は南部大陸と接するこのリーネンブルク領でしか出来ないことだ。芋だけでなく、麦や野菜、家畜も育てていけばいずれ王国一の穀倉地帯になるかもしれない」



 クレヴァーは今まで誰も開発されてこなかった。交通の要所でありながら、それが行われなかった理由として盗賊が頻繁に出ていたこと、開発要員と資金がなかったことが挙げられるが、今回のクレヴァー・ロータスの戦いにおいて、多くの盗賊団を壊滅させることができ、また、昔と違って経済的にも豊かになってきたこと、錬成術士の能力者がいること等、開発に必要な条件が整った。イリーナは勝手に城を作った責任と盗賊撃退の功績でユウキをクレヴァー城主に任命したが、それ以外にもクレヴァーの開発が進むことを期待してユウキを送ったこともあるだろう。



 なので未開発の大地がクレヴァー城西部に広がっているが、すでに能力を駆使して区画整理した上で耕地に変えてあった。今頃、兵士達が引率して獣人や王都からの難民を割り振っているだろう。また、材料が揃ったた水路や粉挽き用の風車の建設も予定している。



「では、城内と城西部についてはある程度整備が完了しているのか?」

「あぁ、今のところは問題ないと思う」

「ならば、今優先すべきことは………」

「南、かな」



 南、特にリトルベルク領とラウド=バゴ砂漠との境界となる地域、『ヘルムフリート』である。どうしてか分からないが、ここ最近南方からの獣人の流入が増えてきており、グラン率いる辺境警備隊から応援要請が上がっていた。辺境警備隊はイリーナ様から厳しい検査の後、領内に入ることを許可する旨の命令を出しているようだが、すでに彼らの手に余る数の獣人達が押し寄せており、本来の警備業務の他に検査や獣人間のトラブルの解決など、かなり手を焼いているようだ。



「警備隊の把握している人数がここに来れば、間違いなく許容量を超える。だから………」

「だから?」

「ヘルムフリートに町を作る」

「はあ!?」



 アレインは簡単に町を作ると宣言した主上に驚いたが、ユウキが急いで執務室に戻っていく後を急いで追っていった。

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