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黒之戦記  作者: 双子亭
第1章 戦火の花嫁
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『クレヴァーの夜明け』第1話

    クレヴァー城、城前広場ーーーー









 アレイン達が南門から突撃していってからしばらくして、賊たちは今までの獣じみた攻撃が収まっていき敗走していった。時はすでに東の空が明るくなってきた頃で、交戦していた賊共は武器を投げ捨て降伏し、戦っていた兵たちも次々と城へ戻ってきていた。



 そして俺は今、クレヴァー城前の広場に集まっていた。大きな噴水を中心に3、4階建ての住居や商店が囲む中世欧州風の広場で、そこにベラとグレンを除くメンバーが揃った。ベラとグレンは敗走した賊を探索するために休息し、兵の編成を行なっていた。俺が噴水を背にしてアレインの報告を聞いた。



「アレイン、報告を」

「はっ。先の戦いでこちらの損傷は20程、討ち取った数は70余り。捕虜は30です」

「敵は催眠状態であったが、それは?」

「はっ。敵指揮官らしき者の傍らにいた角笛を持った者をフェリアード殿が角笛ごと射抜いた所、賊の攻撃は少し落ち着いたように思えました」

「じゃあその角笛が………」

「おそらく、『霊導具』の類かと思われます」

「そうか………」

「ユ、ユウキ様。先ほど、フリット卿の風霊術士から『風話』が届きまして、今フリット卿の騎士団は『風見鶏ヶ丘』まで来ているそうで、何人かの賊を捕縛したそうです、はい」



 俺は顎に手を当てて少し考えると、もう一度アレインに訊いてみた。



「………アレイン、卿に賊の残党処理を頼んでも大丈夫だろうか?」

「おそらくは了承するとは思いますが、帰路の途中で目に付いた者を捕らえる程度でしょう。貴族としては貴族でない者の後始末をするのはいい気分ではないですからな」

「そうか……… だがニコル。一応頼んでおいてくれ」

「了解です、はい!」

「さて……… では、次にだが………」



 俺は目の前に縛られた黒ローブが転がっていた。



「起きろ」



 クロウが無理やり起こすが、糸が切れたように脱力した感じで立とうとしない。



「チッ、おい! 起きろと言ってるのが分からないのか!」

「もういい、クロウ殿」

「………はっ」



 クロウが下がると、俺は黒ローブに近づき、顔を隠すフードを取り去った。



「女の子か………」



 顔を見ると年は14、5才くらいで、身長が高い分大人っぽく見えるが、やはりどこか幼く見えた。『水の民』である、淡い青い瞳は虚空を見つめていたが、俺の顔が女の子の瞳に映った瞬間だった。



「!! ユウキ・サイトウ!!」

「ぐおっ!?」



 女の子の強烈な頭突きが口に当たり、俺の口から一筋の血が流れた。



「取り押さえろ!!」



 アレインの指示でフェイとクロウが飛び出し、女の子を地面に押さえつけた。



「くそっ! ユウキ・サイトウ! 貴様を殺す! 殺す!」

「おい駄犬! しっかり抑えろ!」

「言われずとも分かっている!」



 獣人2人、しかも歴戦の戦士が抑えているにも関わらず、女の子は絶えず暴れていた。「ユウキ・サイトウ」と「殺す」を叫び続ける女の子を周りは見守っていたが、最初に違和感を感じたのはジークリンデだった。



「………ユウキ様。あの娘を早く止めてください」

「どういうことですか」

「あの娘を流れる霊脈が……… ああっ、そんな……… なんということ!?」

「ど、どうしましたか?」



 俺がジークリンデの方を振り返った時だった。







 ゾワッと背筋を撫でるような寒気を感じ女の子の方を見た。







 と、同時に2人の獣人の戦士が吹き飛ばされる所だった。



「!! フェイ! クロウ!」

「ーーーっ痛、こっちは大丈夫だ」

「俺もだ」



 住居の壁に体を打ち付けられながらも辛うじて立ち上がった2人だったが、それよりも目を見張るものがあった。



 黒ローブを纏った女の子は青白い炎のような光を身に纏い、曇りのない澄んだ瞳が俺をジッと見つめて佇んでいた。女の子の右手の辺りの青白い光は刃物のような形状をしている。



「ジークリンデさん! 何が起こっているんですか!」

「……………『霊力の具現化』、です」

「そ、そんなことが可能なんですか!」

「いえ、でも……… そんなはずは………」



 いつもの落ち着いた感じはなくなり、ジークリンデは怯えたように両手を胸の前で握っていた。



「ユウキ・サイトウ! 覚悟!」



 女の子は右手の剣状の光を構えながら俺に向かって突撃してきた。



 が、その行く手をアヤノがハルバードで塞いだ。



「クソッ! そこを退け! アヤノ・エイジアス!」

「……? なんで名前知ってるの?」



 脱力するような応え方をするアヤノだが、素早い動きは女の子の動きをすべて封じ、俺への攻撃をすべて弾き返した。



「………フッ」

「うぐっ!」



 アヤノは己のハルバードを振るって女の子を吹き飛ばした。それと同時に警護していた兵士が女の子を取り押さえていった。今度は革の拘束具や鎖を使って雁字搦めに拘束していった。



「クソッ、離せ! 離せぇぇぇぇ!!!」


 拘束されても尚、暴れ続ける女の子はその内ピクピクと痙攣するように振動し始めると、



「ユウキ、ユウ、キ、アア、ァアア、アアアアアアアァァァァッッッ!!!!!」



 女の子の目の周りの血管が浮き出たかと思うと、口や鼻、耳、目などから血が吹き出しながら、そのまま静かになった。



 兵士の一人が駆けより女の子の体を確認すると、



「………死んでます」

「………そうか」



 兵士が呟くように報告した言葉に俺は応えたが、死体を片付けようとしていた兵士を呼び止めた。彼女の首筋に気になる模様を見たような気がしたからだ。



「ちょっと待て」

「はっ?」



 俺はローブをずらし、女の子の首筋を見て、絶句した。







 ーーーー7808







「数字、か」



 数字の色や形から商人襲撃現場にあった黒ローブの死体と同様の『数字』が書かれていた。



(何なんだ、いったい………)



 俺は何か大きな『モノ』が水面下で動いており、その標的が俺に向いているのではと思うと、薄ら寒い感じがした。



「大丈夫? 顔色が悪いけど」



 リンが心配そうに俺の顔を覗きこんだ。



「いや、大丈夫だ」



 俺は頭を振って暗い気持ちを振り払い改めて女の子を見ると、懐から何かがはみ出ていた。



(………ん? これは何だ?)



 俺はそれを抜き取ると、金色の懐中時計のようなものだった。『能力』を使い使用用途を調べ、そしてそれをそっと自分の懐に仕舞った。



(………見なかったことにしよう………)



 調べた結果、あまりに突拍子のないことが書かれていて、現実を受け止められなかった。兵士に指示を出し死体を片づけさせた。



「さて、次は………」



 と、元の場所に戻って皆の顔を見ると全員が俺の顔を見つめており、若干の圧力を感じた。



「………なに?」

「そろそろ話してもいいのではないか? ユウキ」

「え、なにを?」

「とぼけるでない! 我らを囲むこの城のことだ!」



 アレインが俺の冗談を許さないといった感じで大きな声で言うと、俺はため息をつくと皆にもっと近づくよう促した。ゾロゾロと集まってくると、皆静かに待った。



「えっと、実はな………」



 皆は耳を澄ませて静かに聞き入っているようだったが、次第に微妙な顔になっていき、最後の方は聞かなければ良かったというような顔で元の場所へ戻っていった。そんな中、アレインは後髪を掻きながら言った。



「まぁ、何だ……… ユウキも我らのことを考えて言わなかったのだろうが、もっと早くに伝えてくれたらよかったんだが………」

「まぁ、良いじゃないですか。皆こうやって無事に集まっているのですから」



 ジークリンデは宥めるように言葉をかけた。





 俺のことも話し終えて、今後の予定、残党処理や勝手に作ってしまった城の留守番、食料調達などを話し合っている時だった。ニコルが目を閉じて米神に手を当てる仕草を見せた。どうやら『風話』が来たようだ。



「ユウキ様。フリット卿経由で領都イリーナ様から『風話』が届きました」

「内容は?」

「はい、『至急、今回の騒乱についての報告を直接領都に戻ってするように』とのことです、はい」

「了解した。直ちに戻ると伝えてくれ」

「はい」

「リン、馬の用意をしてアヤノと一緒に護衛。アレインを隊長としてフェイ、クロウ、ウィリアム、アテナはここに残り、兵を指揮して城を守って。ジークリンデ殿は私と一緒に負傷者を領都に搬送するのを手伝ってください」

「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」



 皆がそれぞれの役目に着くために駆けて行ったのを見送ると、俺は懐に仕舞ってある指輪と短剣を取り出した。城を錬成する材料となった2つだが、錬成しても何1つ変わらず、輝いていた。









     ーーーーはぁ〜、と溜息を付いた。陽はすでに顔を出し、辺りを明るく照らす中、俺は半ば暗い気持ちで帰り路の支度に向かった。

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